海14
振り下ろされた刃物から逃れるために身体を逸らした。逸らした時にルカを押し倒した形になったが、他意はない。俺の右手はルカの胸に触れているけど、今は同性だから問題ないはずだ。
影が持つ刃物は俺達が避けたことで木製の床に刺さったが、それを力むことなく軽々と抜く。再び刃物を振り上げて、俺達に向けて力いっぱいに振り下ろした。
身体を横に転がすことで避けることは簡単にできた。だが、ルカは俺が覆いかぶさっているので俺が避けたら刃物はルカに刺さる。ただ刃物に傷つけられたのなら能力で簡単に治せるが、ルカに能力を見せることになる。あれこれいろいろ質問されるのは目に見えている。
どっちにしろ俺が避けようが、避けないが、刃物で傷つくのは俺かルカの二択でしかない。
いや、三択目があった。
「マヒルちゃん!後ろー!」
影が振り上げるのを見たルカが叫ぶ。
影が振り上げる隙を突いて、無防備な胴体に念力を込めた蹴りを入れた。影は勢いよく壁に突撃した。コインランドリーの壁は脆かったのか影は影を貫通して壁の向こう側へと消えてしまった。
「っく!ルカ!今の内に早く」
「うん」
俺は念力で体を立ち上がらせて、ルカの手を引いてコインランドリーから逃げた。今の蹴りは火事場の馬鹿力とでも思ってくれているあろう。
あの影の正体は何だったのだろうか。蹴りを入れた感触は実態のあった感触がした。ただとても固い物を蹴ったようだった。念力を込めた蹴りをかました足に痛みが走った。たぶん骨にひびが入ったと思う。能力で数秒で完治したから逃げるのに支障はなかった。でも蹴りを入れた時に影は手に持った刃物を落としたようで、落ちた先に偶然俺の横っ腹に刺さってしまった。
ルカは刺さった刃物には気が付かなかった。
コインランドリーから出た俺は逃げながらもルカに気づかれないように横っ腹に刺さった刃物を念力で抜いて、能力で刺さった傷を治した。
逃げる途中の廊下ははやけに暗かった。いくら今が夜でも先ほどまでコインランドリー前の廊下の電灯には明かりがついていたはずだった。でも今は電灯がついておらず廊下は薄暗くて、目の前の暗闇が無限に続いているように見える。
視界で後方を確信する。ルカは息をきらしながらも俺の後についてきている。ルカの後ろは何もいないことを確認して足を止める。
「ここまでくれば大丈夫だろう」
「はぁ、はぁ、マヒルちゃん、さ、さっきのは何だったの?」
「わからない。でも僕達を殺そうとしていた。このことを誰かに知らせなくちゃ」
あの影は俺達を確実に殺そうとして襲ってきた。あれが人なのかそれとも化け物なのかわからない。この宿にはスーパーアルティメット団や教命部の数人がいる。あれが能力者なら厄介だ。得体の知れない化け物ならなもっと厄介だけど。
何もかも不明な存在だったけど俺の能力を使えば簡単に行動不能にすることができる。取るに足らない相手だが、今はルカがいるから縛りがある状態で対応をするしかない。
あの影を誰かに伝えるべき状況だが、伝える手段がない。スマホは使えないから部屋に置いてきたし、俺達の回りには連絡を取れるものがない。大声を出したって誰かに届くかもわからない。叫んだところでさっきの陰に俺達はここにいると言っているような物だから大きな声を出すわけにはいかない。
「マヒルちゃんこれからどうするの?」
「とりあえず部屋に戻ろう。さっきのが他にもいるかもしれない。今は誰かいる場所に行きたい」
さっきの化け物(?)が他にもいるかもしれないし、誰かにあの化け物のことを知らせた方がいいだろう。洗濯機の中に入っていた肉片のような物もついでに知らせた方がいい。
しかし異常な光景だった。洗濯機の中身についても、さっきの陰のことも。ここ最近は異常なことが頻発して起きている気がする。俺の存在自体が異常なのは自覚しているが、能力抜きにして考えても誘拐のことやウイルスのことは絶対スーパーアルティメット団と関わっていたから巻き込まれたんだ。ウイルスのワクチンを回してもらったことは感謝しているが、俺にとってスーパーアルティメット団は疫病神かもしれない。今回もスーパーアルティメット団がここの海に来たから土砂崩れが、はないか。いくらスーパーアルティメット団が能力者の集まりだからって意図的に雨を降らせて土砂崩れを起こすとは思えない。たぶんできると思うけど組織的にメリットがない。個人的にはあり得ると思うけど。ずっと海で遊びたいとか。
俺達は薄い暗い廊下を物音立てずに進む。
先ほどの影の件で怯えているのかルカは俺の手を離さずにいる。
会話が無い。精神的にきているのかルカは何も話さずについてくる。俺もそれでよかった。ルカの話に気を取られて何かを見逃す恐れがあるかもしれないから、このまま部屋まで静かにしてほしい。
そんな時騒がしいほどの足音がこちらに向かっているのに気付いた。
「おい!こっちに誰かいるぞ」
向こうは懐中電灯を持っているようで俺達の顔を照らしながら近づいてきた。




