海8
俺達はすぐに荷物をまとめて田中さんの車へ避難する。
「急に降り出すなんて災難だね。これじゃあ、すぐに止みそうにないわね」
「そんなまだ時間があるのに」
田中さんが鈍い色をした空を眺めて、悔しそうにミキミが呟いた。
空を仰いでいる田中さんが言うように今降り続いている雨はすぐに止むことはないだろう。こんな雨の中で遊ぶわけにもいかないから帰るしかないだろう。
俺にとっては嬉しいことだ。浜辺にはスーパーアルティメット団のメンバーがいたから帰れるのはありがたい。
「もう十分遊んだだろう?こんな雨だししょうがないよ。雨がこれ以上ひどくなる前に帰ろ」
「あれ、ネットに繋がらない?電波障害?嘘でしょ!さっきまで繋がっていたのに」
俺がミキミを慰めようとしている横でタマコが悲痛な出した。
どうもルカから取り返したスマホがネットに繋がらないらしい。俺も自身のスマホを確認したら圏外表示だった。ルカや田中さんのスマホも同じく圏外だった。タマコのスマホだけが通信ができないわけではないらしい。
田舎とはいえ街中で電波が繋がっているはずなのに、現在激しく降り続いている雨の影響かと考えたが雨で通信ができないことがあるのかと答えに至った。
今から車を出せば夕方前に帰れるだろう。山を越えたら電波なんてすぐに繋がるだろうからと楽観的にとらえた。
まだ遊びたいと思っているミキミをルカと俺でなんとか説得して帰ることになった。
帰り道の途中に地元の人と思われる人達が道路を封鎖していた。
「どうしたんですか?」
「わりぃがこの先で土砂崩れが起きたんだ。引きかえしてくれねえか」
田中さんが車の窓を開けて近くにいた合羽を着たオジサンに聞くとこの道の先の山道で土砂崩れ起きて通ることができなくなってしまったようだ。
視界で見たところ本当に土砂崩れが起きていた。複数人が集まってどうするか話し合っていた。地元の人達もスマホから自宅の電話が繋がらないらしくて困っているようだった。土砂を撤去する設備が碌にないから町の外に要請しようにもできない状況で困り果てていた。
帰り道はこの道一本なわけでもないから他の道で帰れないか視界を飛ばして見たが、どの道も土砂や陥没で通れなくなっていた。
俺達はこの陸の孤島に閉じ込められた形になってしまったらしい。
町の人は他の場所で土砂が起きていることはまだ気づいていない。このことを言った方がいいかもしれないが、どうして知っているのか問いたださせると能力のことを説明しなければいけないから言わないでおこう。気づくのは時間の問題でそのうち気づくだろう。
町の人に言われた通りに田中さんは車をユーターンさせて引きかえして浜辺の駐車場へと戻った。
「これからどうしようかしら?別の道から帰るしかないけど、遠回りになるからあっちに着くのが深夜になっちゃうのよね。みんなのご両親に連絡を取りたいのだけど通信ができないからどこかのご自宅から電話を借りるしかないわね」
「田中さんそれはしょうがないよ。もうちょっと遊びたかったけど遠回りになるのなら早めに帰ろうよ」
「私地元の人に電話借りられるか聞いてくるわね」
と言った感じで田中さんはミキミと相談したのち、もしもの時の為に車に装備してあるらしき折り畳み傘さして行ってしまった。
「みんなごめんね。私が今日誘ったばっかりに」
「そんなことないよ。予報は今日雨が降るなんてやっていなかったからこんな状況になるなって誰も予想つかないよ」
「気にしなくていいよ。僕はもちろん、ルカやタマコもミキミを責めたりしない。遠足の時みたいにバスが転落して森の中で一夜を越すみたいな状況と比べたら楽園みたいだよ」
「予定していた帰り道は使えないけど他の道で帰ればいいんだしさ。落ち込まなくていいんじゃないの?この状況もみんなで来たイベントだと思えば、大人になった時の笑い話になるじゃん?」
現状は自分のせいだと思い込んだミキミを3人で慰める。すべての道が土砂崩れが起きて帰れないからこの街で一晩泊まることは確定しているからな。
田中さんが戻るまで暇なので俺はミキミのことをルカとタマコに任せて、折り畳み傘を拝借して車の外へ出た。とりあえず、田中さんが戻ってきたらすぐに戻れるように視界で車の中を見ている。
俺達のように荷物を急いで車に詰め込んだ他の海水浴客やテントはそのままにしてバスの中へ避難したスーパーアルティメット団メンバーがいなくなった浜辺には誰一人いない。こんな豪雨の中を歩くバカは俺ぐらいしかいないけど。
傘を差しながら浜辺を歩いていると鈍い色をした空から大きな物が降ってきた。
「なんじゃこれは?分厚い本?辞書か?それにしてはデカいな」
俺の身体を覆い隠せるほどの大きさと辞書並みの分厚い本の表紙には見たことのない文字で祝福の願書と書いてあった。そう、普通ならなんて書いてあるのか読むことができない文字のはずなのに表紙に書いてある祝福の願書と理解できた。
「どあっ」
それを力を込めて拾い上げて用としたが、見た目に比べて軽すぎて尻もちをついてしまった。見た感じ10キロぐらいありそうなのに持った感じがしない。クソでかいティッシュペーパーを抱えているみたいだ。
しかも豪雨に打たれているのに表紙が濡れた様子が無い。濡れた砂の上に置いてあったのに砂もついていない。濡れない上に重みを感じない不思議な本だ。
中身を確認したいが、この豪雨の中で読むわけにもいかないのでどこかで読める場所を探してみる。できれば建物の中で読みたい。




