海
海に行く当日、俺は狭い車の中にいた。
車の免許を持たない学生である俺達は電車とかバスを使って海に行くものだと思っていたが、ミキミの家のお手伝いさんの田中さんの車で行くと今朝メッセージが送られていきた。俺だけ現地集合でもよかったのと思いつつも今に至る。
「田中さん車出してもらってありがとう」
「いいのよ。ミキミちゃんの為だもの。このくらいお安いごようよ。お友達と一緒に楽しんでおいで」
運転席に座る田中さんと助手席に座るミキミのやり取りを見ながら窮屈な後ろの席で早くつかないかなって考えていた。後ろの席には俺の左右にタマコとルカが座っていてとても狭い。少し動いただけでも俺の胸が二人の腕に当たったり、俺の二の腕に二人の胸が当る。隣に座るタマコの様子がおかしい。顔色が青くなっているから車酔いになったのだろう。
なんで後ろは俺が真ん中なんだろうか?いや、本当に俺だけ現地集合でもよかった。
「タマコ大丈夫?もしもの時これでも使え、それと窓を開けたら多少マシになるよ」
「ありがとう。マヒル」
テレポートで取り寄せたビニール袋を今にも吐きそうなタマコに渡してやった。俺の膝に吐かれたら大惨事だからエチケット袋として渡した。着替えなんてテレポートで取り寄せればいいのだけど。
ビニール袋を受け取ったタマコはビニール袋を強く握り田中さん許可をもらって窓開けていた。
ルカはルカで俺の肩を枕にして気持ちよさそうに眠っている。
そんな状況が三時間続いた。
「みんなもうすぐ海だって!」
「ーん?着いた?」
「ああ、見れば分かる」
「う、ううぅぅ」
車のナビを見て嬉しそうに言うミキミに対して眠たそうに眼を擦るルカや今にも吐きそうな顔のグロッキーなタマコと一緒にナビに目を向けると後五分ほどで到着ですとナビの音声が聞こえた。
三十分前から視界で海を眺めていたからもうすぐ着くのは知っていたけど後五分もルカとタマコのサンドイッチ状態が続くのか。数時間も我慢できていたからそれがもうすぐ終わるから喜ぶべきか。
「見て見て!バスがいっぱいあるよ?観光客かな?」
「変ね?ここは海しかないのに団体客なんて珍しいわね」
そんなミキミと田中さんのやり取りを聞いて、来るのを後悔した。
駐車場までに複数のバスが見かけた。普通なら団体客と思うし、それぞれのバスのナンバープレートに書かれている都道府県はどれもバラバラだった。日本全国から来ているようだ。しかし、その中の一台のバスを運転している人に見覚えのある顔だった。偶然きっとバイトかなんかでバスの運転をしているのだろう。
駐車場は俺達以外ほとんどなかった。先ほど見かけたバス群を除いて。
車を降りる時、酔いに苦しむタマコの背中を摩りながら酔いを治しておいた。移動中に治さなかったのはヘルメスさん語りが始まるのと酔いを治しても数十秒後にまた酔うから車が走っている間は意味がないと思うからだ。
「私の方でやっとくからみんなは着替えていらっしゃい」
と田中さんに言われて俺達四人は更衣室へ向かう。
バスの客達はまだ降りてきていないようなのでさっさと水着に着替えようと思う。このまま顔を合わせないことを祈ろう。
「私達以外にも結構来ているんだね」
「家族連れや私達みたいに友達と来ている人達がいるみたいだね。七月とか八月になると人が更に多くなるのかな?」
ルカやミキミが車から荷物を下ろす人達を見て言う。人が大勢亡くなったから今以上に人が来ることは無いと思う。今来ている人達は少数派だと思う。今後海に訪れる人はゼロに近いに人数になると予想される。
ミキミ達が言うように家族連れや友人と来ている人達がいるようだ。数台程度だけど。
この間人が大勢亡くなったばかりなのに海に来る人っているんだな。俺達も似たような物か。
「うえぇー、酷い目にあった。これが帰りもあると思うと」
「タマコほんと大丈夫?」
「車から降りたら気持ち悪くなくなったから今は大丈夫。でも帰りはダメかもその時は私を置いて」
俺はまだグロッキー状態のタマコの背中を摩りながらバス群の方へ視線を向ける。筋肉ムキムキの男達がテントやバーベキューセットなどの機材をバスの荷台から取り出している。がっつりと海を堪能しようとしている陽キャ集団とわかった。
ああいう人種はハイテンションで遊ぶから関わりたくない。俺と正反対のような人種だ。
「マヒルちゃんその水着地味だよ。私が選んであげた水着はどうしたの?あっちの方が可愛いから似合っていたのに」
「露出度が高いし、フリフリなのは苦手だから買わなかったよ?」
「胸があれば、私も」
俺の水着を見たミキミにもったいないと言われたが、俺はそれが何かといわんばかりに返した。俺としては無人島で全裸で泳ぐが、人の前では羞恥心が湧き出るから露出度の低い物は遠慮したい。
ミキミの隣に俺やミキミの胸を見て傷つくルカはそっとしておこう。その内立ち直るだろう。
ひと悶着あったが水着に着替えた。
ミキミは空色のビキニで、ルカは胸部分にフリル付きのセパレート、タマコは大人なビキニを着ていた。それぞれ似合っていると思う。
改めて海って何して遊ぶのだろうと疑問が浮かんだ。海に行くと言われてからずっと思ってきた疑問だが、休みの日のほとんどを無人島の浜辺で過ごしてきた俺にとって見飽きている海の休日はとても困ったものだ。砂遊び?高校生になった今はその選択しは論外、ミキミ達とビーチバレー?ボールは持ってきてない。もしかしたら誰かがビーチボールを持ってきているかもしれないけど。
改めて考えると何して過ごしたらいいか困ってしまった。




