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痴漢されている美少女を助けたら一緒に登下校するようになりました  作者: 木嶋隆太


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第二十四話 華恋の友達2


(うお!?)


 花が指をさしながら口にしたのは、浩明がカバンに唯一つけていたラノベのアクリルキーホルダーだった。


「そのキャラクター好きなんですか?」

「そう、だな。キャラクターも好きだけど、作品が好きなんだ」


 浩明のカバンについているのは、ある作品のマスコット的キャラクターだった。

 つけていてもオタクだとは思われない程度の可愛らしいデザインのキャラクターだ。

 実をいうならば、別のキャラクターのキーホルダーが欲しかったのだが、中身はランダム。

 引き当てたのがマルマルくんだった。浩明的にいうのなら、ハズレであった。


「私も好きなんです! いいですよね」

「ああ、そうなんだな?」

「あの先生の作品って、凄い綺麗な描写が多いんですよね!」

「……そうだな。一巻では一般受けを意識したのか、少し表現は抑えられてたけど、最近は本当、あの先生の独自の世界が繰り広げられているよな」

「わかります! よく読んでいるんですね!」

(この子……オタク系なんだろうな。それも、描写に目をつけるあたり、かなりのものだろう)


 どちらかといえば、作家寄りの視線を持っている。もしかしたら、彼女も何度か執筆の経験があるのかもしれない。


 そのときだった。

 華恋が浩明の服の裾を引っ張った。普段見られない程に、華恋は険しい表情で、驚いた。


「……それって、私が読んだ作品に出てくるキャラクター?」

「いや……早水には勧めてないな」


 浩明はなぜかその言葉を口にしづらかったが、それでも言い切った。

 華恋の表情に変化はなかった。だが浩明は、なぜか華恋が怒っている、と感じた。


「そうなんだ、それじゃあ今度読ませてもらってもいい?」

「えっと……神崎さん、あれって女性が読んで楽しいと思える作品なのか?」

(ギリギリを攻めたような描写も数多くある作品だ。どちらかといえば、男向けのような気もする)

「えーと、そうですね。私は楽しめましたけど、華恋ちゃんが楽しめるかどうかは」

「大丈夫だから、私も読みたいの」

「……わかった。あとで渡す」

(今日は妙に迫力があるな)


 浩明がほっとひと息をついていると、花がきらきらとした目を浩明に向けていた。


「戸高くんって結構オタク系の趣味あるんですか?」

「まあ、それなりには」

「……そうなんですか。私、周りにあんまりそういった趣味の人いなくて。久しぶりにこんな風に話せてよかったです」

「それなら、最近は早水も読んでるし」

「え、華恋ちゃんも?」

「うん、最近、ちょっと読みはじめたんだよね」

「そうなんだね!」


 花はじっと華恋を見ていた。華恋はその視線に困ったような顔を作っていた。

 

「な、なに?」

「華恋ちゃん、そうなんだ」

「……なに?」

「ううん、別になんでもないよ。ごめんね、あんまり私が好きに話しちゃって」


 華恋と浩明の間を花の視線がいきかってから、彼女は微笑んだ。

 華恋はぽりぽりと頬をかいていて、それ以上口には何も出さなかった。


 浩明はそんな二人の様子をじっと見ながら、首を傾げていた。


 花が再び話し始めたのは、テレビなどの話だ。

 華恋もそれに合わせるように話をして、二人の時間となる。

 浩明はスマホをいじりながらその様子を時々見ては、また視線を戻す。

 

 目的の駅についたところで、三人はそろって電車を降りた。


「花も一緒の方角だよね?」

「はい。途中までですけどね」

「戸高くん、私たちが待ち合わせしている十字路あるよね? 花もそこで私とは逆方向になるんだよ」

「……へぇ、そりゃあまた結構近かったんだな」

(それなら、神崎と一緒に登校っていうのもありだと思うけど、そうはしないんだな)


 花と華恋が並んで歩き、その後ろを浩明がついていく。

 ストーカーではと心配する人もいるかもしれない構図が出来上がった。


「華恋ちゃん、最近学校はどう?」

「私は大丈夫だよ」

(……大丈夫? まるで、学校に何かがあるみたいな言い方だな)

 

 浩明は華恋の返事に少しだけ引っかかった。けれど、今は女子二人。久しぶりに出会えた二人の会話を邪魔するつもりはなかった。


「花のほうは?」

「私は相変わらず。人見知りしちゃって、周りの人にうまく馴染めてないかな」

「そうなんだ」

(人見知り、か。その気持ちはよくわかるな)


 浩明にはそれを理解して接してくれる友人――幸助がいたが、花にはその子はいないのだろう。

 いや、いるにはいるのだ。今目の前に。しかし、その華恋は別の学校に通ってしまってる。

 必然的に、彼女はひとりぼっちになってしまったのだろう。

 それでも、見たところ花はその状況を苦に思っている様子はない。


 浩明も一人ぼっちで寂しいと思ったことは一度もなかった。浩明の場合は、熱中できるものを一つ持っていたからというのもあるだろう。


「やっぱり、華恋ちゃん頑張ったんだね」

「別にそんなことないよ」

(そういえば以前、早水は高校デビューした、みたいなこと言っていたよな?)


 二人の会話に耳を傾けていると、すぐに十字路についた。


「それじゃあ、私は向こうだから」

「私も……華恋ちゃん、戸高くんまた」


 花がひらひらと手を振り、浩明も二人に片手をあげた。

 二人の背中が去っていったところで、浩明はアパートを目指して歩き出す。


(……予想外、ではあったけど早水は別に俺と一緒にいるところを見られて嫌だとは感じていなかったみたいだな。相手が、別の学校で、それも気心のしれた相手だからか?)


 あっ、と浩明はそこで華恋としたある約束を思い出していた。

 一度家に寄って本を借りたいと話していた。


(明日、持っていけばいいか)


 浩明がそう考えて再び歩き出したときだった。

 はぁはぁ、と息を乱して浩明の道に一人の女性が現れた。

 それは先ほど別れた花だった。


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