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8人のいじめたい子どもたち  作者: ゲロ豚
二話/主張
7/13

2-1

 ――私の名前は知念美穂ちねんみほ

 身長142センチ体重34キロ。友人、少なめ。影、薄め。私のような人間には学級代表なんてまるで縁のないものだと考えていたけれど、人望のなさが極まると逆にその席が回ってくるらしい。


 四月、入学間もない時期のホームルーム。クラスの中には少しずつ“輪”ができ始めていて、案の定というか、既に私はその“輪”の外にいた。とは言え、入学間もない頃の話だ。その“輪”はきっとまだ境界線が曖昧な状態で、ブヨブヨに揺蕩たゆたっていて、あるいは少し手を伸ばせば簡単に突き破れるほどの壁でしかなかったのかもしれない。


 “たとえば壁の向こう側から、誰かが手を差し伸べてくれたなら”。


 そんな都合のいい様子見をしているうちに、きっと光の速さで“輪”の外殻はその硬度を増していくのだろう。私のような人間がそのことを後悔するいとますらないほど、あっという間に。


「どうだ? 学級代表やってみるか? 知念」


 あの時の担任の表情が、今になってフラッシュバックを繰り返す。果たして彼は、どういうつもりだったのだろう。この会議のことを知っていたのだろうか。すべてを知っていて、私にこの任を託したのだろうか。くしゃくしゃに目を細めて笑うその裏で、果たしてなにを想っていたのだろう。そのことを考えると背筋に冷たいものが走り足はすくむ。だけれど、決して不幸だとは思わない。おかげで私は、“天災”が下るべき人間、中島香苗に清き一票を投じることができるのだから。


「頭おかしいのか? この野郎」


 感じる。すぐ後ろに感じる。一年三組学級代表、小林辰三こばやしたつみ。彼がすぐそこまで迫ってきている。怖い、野球部が怖い、男子が怖い、怒っているのが怖い、背が高いのが怖い、人気者なのが怖い、筋肉質なのが怖い。私は静かに右手を挙げたきり、恐怖心から彼を振り返ることができずにいた。

 だけど、絶対に負けたくはない。ひるむわけにはいかない。なにがあろうと中島香苗から票を逸らすわけにはいかない。


「あなた、中島香苗をかばうのね」


 震える口元を必死に引き締めて、私はやっとの思いで言葉をつむいだ。


「庇うとか庇わないとか、そういうレベルの話じゃねえだろうがよ」後頭部のすぐ後ろで小林辰三の声がする。「いいから、とにかくアイツに投票するの、やめろよ」


 頭の中を様々な感情が飛び交ってゆく。言いたいことは無限にある。不満、憤り、嘆き、侮蔑。だけど私の口をついて出たのは、純然たる疑問だった。どうして私以外の七人は同じ考えにならないのかと、ただひたすらに不思議なのだ。


「どうなんだろう……。これは、煽りとかじゃなくて、純粋な疑問」私は真っ直ぐ正面を見据えたまま、話を続けた。「仮に、この会議で中島さんが人柱に選任されて。学年中からイジメられるようになったとして。果たして彼女は、“悲しい”って思うのかな?」


 言い終えると、私はごく自然に小林辰三の方を振り返ることができた。


「頭おかしいんでしょ、彼女。なにもわからないなら、それでいいじゃない。彼女以上の“適任者”が、果たしてこの学校にいるのかな?」


 私が言葉を連ねるたびに。分かりやすすぎるほど、小林辰三の表情が歪んでゆくのがまじまじと見て取れた。

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