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この作品ではお久し振りです。ゲロ豚です。
長らく更新停止としてしまいましたが、今日から連載再開させていただきます。
応援してくれていた方には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、その分、よりパワーアップして完結まで書き進めていきたいと思いますので、どうかお付き合いいただけましたら嬉しいです。
――俺の名前は喜村恵一。
身長155センチ体重47キロ。帰宅部。学級代表なんて柄じゃないと思っていたけど、担任からやんわりと指名されたということは、つまりはそういうことなんだろう。
担任に頼もしく思われていることが嬉しくて、俺はこの席に飛びついた。
各学級2名ずつ、一学年に計8人の学級代表。
それは、まぎれもなく、ちょっとしたステータスだった。
まさかこんな会議に参加させられるとは夢にも思っていなかったが、それもおあつらえ向きだ。
遠慮なく、今年の人柱の選出には俺の意思を大いに反映させてもらおう。
“尊重されるべき、重大な事実”?
本条次郎が、先ほどの俺の言葉を繰り返した。
「ったく、今度は喜村かよ。1組の学級代表はずいぶん元気だな」
四日市修平は嫌味たっぷりにそう呟くと、体重を背もたれに預けて椅子の前足をふわりと浮かせた。
「わるいな、四日市。だが俺は決して、支離滅裂な主張をしようってわけじゃない。知念が、一人の女の子が、泣き叫んで自分の想いをみんなにぶつけたんだ」
傍らに腰を下ろしている知念が、少しバツが悪そうに顔を俯かせたのが横目に見て取れた。
「そして知念の言うことは、決して理解できないわけじゃない。たしかに、障碍のある人を槍玉に挙げようとしたそのやり方には疑問が残る。だけどたしかに、誰だって、自分の友だちが人柱にされかねないとなったら、他の誰かが犠牲者になってくれるのを祈るんじゃないのか? 知念の場合、その“他の誰か”が中島香苗だったっていうだけだ。ぜんぜん、まったく、おかしい話なんかじゃない」
一拍置いて、俺はなおも続けた。
「だが四日市が言うように、障碍のある中島香苗が人柱ってんじゃ、そもそもこのシステム自体が破綻しかねないという意見も、ごもっともだ」
俺は、組んだ両手をちょうど枕のようにして身体の重心を後ろに傾けている四日市修平の目を、まっすぐに見た。
「……長いよ」四日市修平は、事もなげに吐き捨てた。「要するに、なにが言いたい?」
ごくり、と。
ただ一人、俺だけが緊張しているのかもしれない空間で、ごくりと生唾を飲み込んだ音が周囲に悟られないことを密かに祈る。
「――第1回投票」
教室に、俺の声だけが響く。
「話をぶり返すようで申し訳ないけどさ。お前ら、本郷立会人になにをどう言いくるめられてんのか知らねえけど、第1回投票のことをもう一度思い返してくれよ」
俺は、指を4本立てた右手を皆の前に差し出した。
「“4票”だぞ? 4票! これだけの票が、事前打ち合わせもなしで稲田正太郎に集まったんだ。それって一体、どういうレベルの奇跡なんだよ!? ……いや、ここまできたらそれはもう、偶然ではなく必然なんだよ。稲田正太郎が、他の誰よりも人柱に相応しいんだ。だから、偶然、4票も集まった。そうじゃないと、どうしたって説明がつかないんだよ」
「断言させてもらう。この学年で人柱にもっとも相応しいのは、稲田正太郎だ」
俺の投じた一石が、教室の水面に脈を打ったのがはっきりと分かった。




