2-5
どうも、ゲロ豚と申します。
今まで触ったことがありませんでしたが、初めて前書きなるものを書いてみます。
まずは、ここまで読み進めていただき本当にありがとうございます。本当の本当に、感謝しています。
拙い作品ではありますが、貴重な時間を割き、ここまで読んでいただいた読者様に報いたく、この後も誠心誠意物語を進めてまいりますので、引き続きのご愛顧を、どうぞよろしくお願いいたします。
「これは皮肉じゃない。私が“被害者”だから言うわけでもない。本当に、本当の本当に理解できないんだ。どうして中島さんだけがすべて許されて、あらゆるものから守られて、“百五十一位の私たち”の不遇は誰も気にも留めないのかが。こんなに理不尽なことがある? こんなことが許されるなら、私だって障碍者になりたかった。そっちの方が“得”じゃないか」
顔を上げてみると、そこには小林辰三の顔がある。
哀れみの表情で、こちらを見下ろしている。おぞましいものを見るような、汚らわしいものを見るような。
――だから、どうしてそんな目になるんだよ?
これだけ言っても、まだ分かってもらえないのか? 私は唇をきつく噛みしめた。
「猿芝居はやめろ、知念」
声の主は、またも四日市修平だった。“猿芝居”……私はその言葉を聞いて、ぎくりと心の臓が縮み上がる思いがした。まさか、気がついたというのだろうか。私がずっと言及を恐れていた、この会議におけるとある出来事。それは本当に、私にとっては予期せぬ不運だったのだが、きっと、誰も理解してはくれない。“あの出来事”を順序立てて白日の下に晒されたなら、きっともう、取り返せない。誰一人として、私の味方につく者はいなくなるだろう。
「お仲間を守りたいって? そのために中島香苗に投票してたって?」
――やめろ。
「それは通らねえぜ知念、通らねえ。だって、それが本当ならどうしてお前は」
やめてくれ。その先を言うな、やめろ、違うんだ。
「どうしてお前は、第二回投票で稲田正太郎に投票しなかったんだ?」
時が、止まった気がした。
無限にも思える、永遠の静寂。わずか数秒ほどのそれは、次第に選考委員のざわめきによって溶けていく。四日市修平の言葉に、少しずつ皆の理解が追いついていく。
「あのとき――第二回投票の結果は、稲田正太郎が三票、中島香苗が一票だった。おかしいよなあ? そりゃあ、結果的には知念が稲田正太郎に投票してたとしても四票――過半数には足りなかったわけだが、それは結果論。もしもお前さんがお仲間を守りたいと心から願うなら、あそこは稲田正太郎に投票するべきだったんじゃねえの? この会議を終えるために」
私は、私はなにも言うことができなかった。顔は紅潮し、全身から汗が噴き出す。
「お仲間の安全よりも優先したい、中島香苗への投票。よっぽど“障碍者”が嫌いなようだな、知念」
私は四日市修平から逃げるように、六人の選考委員を見回してみた。私を見る六人の視線は、筆舌に耐え難い冷たさを備えている。哀れみ、侮蔑、嘲笑、怒り。
だけど、私だけは理解しているんだ。それは謂れのない非難だということを。私は、四日市修平が言うように、第二回投票でたしかに稲田正太郎に投票したのだ。これで会議が終わる、友だちを守れると意気揚々だった。だけど、予想に反して票は霧散。その上、自分以外の誰かがあのタイミングに限って中島香苗に投票するというハードラックが起きた。
“その一票”を私のものにされたなら、私の主張がすべて消し飛んでしまうことは自覚していた。だけど、第二回投票以降今に至るまでの流れの中で、そんな断りを挟む暇などなかった。私の主張の落とし穴に誰も気がつかないことに期待して、勢いで押し切ってみせると私は決意した。
――だけど、もうだめだ。
すべては瓦解した。もう、取り戻せない。もう、なにを言っても遅すぎる。
果たしてなにを訴えたいのかも分からずに、私は机に突っ伏して獣のように泣き叫ぶしかなかった。




