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『長編版』ゴリラ物語 〜全てはゴリラとバナナで解決〜  作者: ほしのしずく
ゴリラ、心から感動する

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バナナの日

 時は進み、年を跨いだバナナの日。

 

 8月7日(日)


 時刻【8時00分】

 天気【晴れ時々曇り 最低気温28℃ 最高気温34℃】


 空にはゴリラのような形に、バナナのような形をした雲が浮かんでいる。


 そんなゴリラ時々バナナな雲が広がる空の下。


 大阪府内にある結婚式場内。


 入り口から見て、右側にあるブライズルームの前。


 ゴリラはここにいた。


 内ポケットにバナナが刺繍された黒色のオーダーメイドスーツに身を包み、同じくオーダーメイドである30㎝の革靴を履いている。


 その出で立ちからもわかるように、今日は結婚式だ。


 だが、ゴリラの結婚式ではない。


 彼が可愛がってきた部下、犬嶋犬太と猪狩誠の結婚式である。


 式を挙げる本ゴリラでもないのに、早く来ている理由は来られなくなってしまった犬太の両親の代わりだ。


 犬太の実家は奄美大島で島バナナを栽培している農家である。


 本来、この8月は収穫時期からズレるので、結婚式への参加は問題ないはずだった。


 しかし、昨今の温暖化による気温上昇により、島バナナの収穫時期が早まり、犬太の両親は結婚式に参加できなくなってしまったのだ。


 そこで、その代役にと白羽の矢が立ったのが、仕事でもプライベートでもお世話になっているゴリラだ。


 突然の指名に慌てるゴリラであったが、そこは慈愛に満ち溢れた人間が大好きなゴリラ。


 小難しいことは考えず、愛する部下の為ならと思い快諾した。


「ゴリラ主任、犬太を呼んできてもらっても宜しいでしょうか?」


 ブライズルームから、ひょこんと顔を出すのはこの晴れの日の為に、ベリーショートからセミロングに髪を伸ばした猪狩誠29歳。


 髪は編みおろし、黄色のキンセンカとアルストロメリアが飾られており、メイクもそれに合わせて随所にラメが散りばめられたオレンジベースの華やかなもので。

 

 その胸元にはゴリラと熊からのプレゼントであるみつばちのアクセサリーが輝き。


 純白のウエディングドレスが映える。


「ウホ?」

 

「はい、さっきまで奥のカフェスペースでバナナを食べていたはずなんですけど……」

 

「ウホウホ?」

 

「心当たりですか……そうですね……バナナ片手にウェルカムボードを見ているとかでしょうか?」

 

「ウホゥ……」


 ゴリラは視線を落とし、考え込んだ。


 いくらマイペースな犬太でも、このタイミングでは見ないだろう。


 彼はこの式の主役の1人であり、今から一生に一度の大舞台なのだから。


 その上、バナナ片手……それではほとんど自分ではないか。


 ゴリラはそう思った。

 

「うーん、そうですね……職場ではさすがにそんなところは見せないと思いますが、彼はバナナ大好きマイペースさんですよ! 案外ゴリラ主任にそっくりかもですね」


 誠は今日一番の笑顔を見せた。


「ウ、ウホ……」


 真っ黒なのでわかりにくいが、ほんのり顔を赤らめる。


 ゴリラは自分がバナナ好きのマイペースさんと思われていることに、少し恥ずかしさを覚えたのだ。


 だが、自分が可愛がってきた犬太が、1人の人間をこれほど幸せにできている事実を目の当たりにし、ゴリラは誇らしくも幸せな気持ちでいっぱいになった。

 

「あ、主任!」


 バナナの皮が入った透明なビニール袋を片手に持った犬太が声を掛ける。


「ウホ!」


 ゴリラが目を向けると、そこにはいつもの耳に掛かるほどの髪の長さ、ゆるふわパーマではなく。


 清涼感のある整髪料で纏め上げ、シルバーで統一されたスーツを着こなしている一味違う犬太の姿があった。


 もちろん、彼の胸元にも、ゴリラと熊主任からプレゼントされたバナナのアクセサリーが輝く。


 その姿を前に、頼もしさと寂しさが入り混じる不思議な感情がゴリラの中で渦巻いた。

 

 ゴリラは完全に成長した我が子を見る親の気持ちとなっていたのだ。


 すっかり親ゴリラと化した彼は、犬太の背中を叩く。


「ウホ!」

 

「い、痛いっすよ主任!」

 

 感動のあまり力が入り、犬太の体が少し浮いてしまった。

 

「ふふっ、お義父さんとお義母さんが来られないのは残念だけど……。こう見るとなんていうか、犬太とゴリラ主任って親子みたいかも」


 阿吽の呼吸のように息の合った1頭と1人を見て、誠はクスクスと笑った。


 ブライズルーム前で、和やかな雰囲気が漂う中。


 入り口から、駆けてくる人影があった。


 その人物は、すらっとした容姿と端正な顔立ちに、センター分けのサラサラな髪質。

 

 清潔感のあるシワ1つもない黒スーツにシルバーのベストを合わせた格好をした佐久間熊主任35歳だ。


 「はぁ、んはっ、はぁ……猪狩さん! これはどういうことですか?!」

 

 今日はめでたい日だというのに、息も絶え絶えな上、呆れたような表情で誠を見つめている。


「ウホ?」

 

「あ、いえ。彼女から突然こんなメッセージが届いたので」


 熊主任は、そういうと内ポケットからスマホを取り出し、ゴリラへと誠から送られてきたLINEを見せた。


 そこには、「もっと早く伝えるべきでしたが、申し訳なさから今になってしまいました。単刀直入に言います。明日、私の両親の代わりにバージンロードを歩いて頂けませんでしょうか? 宜しくお願い申し上げます。旧性 猪狩 犬嶋誠」と表示されていた。


「もう、一体どこから突っ込めばいいのかわからなくなってしまいましたよ! これでは何もわからない上、断るのも難しいですし」


 再度、スマホを見つめて溜息をつく。


 しかし、ゴリラは違った。


 何か訳があるのではないかと思い、熊主任の前で肩を落とす誠へ聞くことにしたのだ。


「ウホウホ?」

 

「あ、ええ……彼女がこういった行動を取る時は大体、誰かのことを思い、考え抜いた末の行動ですね……ん? ということはこれも……?」

 

「ウホウホ」


 熊主任の言葉にゴリラは深く頷く。


 それにより、熊主任は落ち着きを取り戻していき、ブライズルームで犬太、誠、ゴリラを交えて話し合った。


「な、なるほど……犬太のご両親が参加できないなら、そちらに合わせた方がいいのではということですか……ですが正直なところ納得はしかねますね」

 

「で、では、どうしたら引き受けて頂けますか?」

 

「どうしたらというか、親族の皆さんは了承されているのですか?」

 

「はい! もちろんです! 熊主任は、私の面倒を見てくれた恩人ですから」

 

「そ、そうですか。ですが、犬太はどうなんですか? 一般的に考えたら、上司が新婦とバージンロードを歩くなんてありえないでしょうに……猪狩さんの気持ちは有り難い限りですよ? でも、やはり少なからず不満があるはずです……なので、もう一度話し合った方が――」


 熊主任は至極真っ当な意見を述べた。


 しかし、純粋で単純な2人には、その全てが刺さることはなかった。

 

「熊主任に不満?! ありえないっすよ! いつも僕も誠さんもお世話になっているので」

 

「私もそう思います! 熊主任以外考えられないです!」


 ブライズルームに犬太と誠の声が響く。

 

「はぁ……そうですか」

 

「ウホ、ウホウホ?」

 

「そうですね……」

 

「だめなのでしょうか?!」

 

「猪狩さん、落ち着いて下さい。意味は伝わりましたし、断るつもりはありませんよ」

 

「じゃあ! 受けてくれるんですね?」


 犬太が言う。 

  

「はい、役不足は否めませんが、謹んでお受け致します」


 熊主任の言葉を聞いた瞬間。


 それまでお葬式状態となっていた2人が顔を見合わせて、喜んだ。


「「やったー!」」


 そんな部下2人を見て、喜ぶ上司の1頭と1人。


「ウホウホ」

 

「ふふっ、そうですね。私達が引き受けてあんなに喜んでくれるとは……何だかこそばゆい感覚を覚えます」


 こうして、演者……いや主要人物が揃い、結婚式の準備が整った。

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