それぞれに進展
時刻【18時30分】
ひまわりが咲き誇り、浴衣姿の人でごった返している通路付近。
すももとマリンが、バナナ色に光る誘導棒を片手に持ち案内をしながら会話をしていた。
2人の足元にいるさんたろうもバナナ色に光る首輪付けて見よう見まねで歩行者の案内をしている。
「あの……亀浦マリンさん」
「はい、なんでしょうか?」
「えーっと、その……亀浦マリンさんは」
「あ、マリンで大丈夫ですよ!」
「で、では、マリンさん」
「はい!」
「あの……マリンさんって、ゴリラ主任とお付き合いされているのでしょうか?」
「お、お付き合い!? ゴ、ゴリラさんと私がですか!?」
「は、はい。そんなに驚くことでしょうか? 浴衣も同じ柄ですし、傍から見たらそれくらいの距離感に見えていましたよ?」
「は、はぇぇぇー! そうなんですか! そうなんですね……やった」
「あ、そういう反応をするということは、まだそういう関係ではないんですね……ということは、私にもチャンスが……」
「えっ!?」
すももの本音を聞いたことでマリンは固まり、自然と本音を漏らしてしまったすももも慌てて口を抑えた。
「あっ!」
だが、恋愛というものを経験したことのないすももは、自分の気持ちが恋なのか、今の今までわからないでいた。
それが今、他の女性と仲良くするゴリラを見たことで、ようやく自分の気持ちに気付き始めたのである。
「そっかー……すももさんもゴリラさんが好きなんですねー……あはは」
「あ、いえ……好きとか、そのあんまりわからないのですが、マリンさんと一緒にいるゴリラ主任を見たら、なんか胸の辺りがもやもやしまして……」
「それが好きというものですよ!」
「そうなのですか?」
「そうです!」
「そうなんですね……やっぱり、私はゴリラ主任が好きだったんだ……えへへ。そっかぁ……これが好きって気持ちなんだ……」
すももは、頬をほんのり桃色に染め、柔らかい笑顔を浮かべている。
マリンはそんな彼女を前に思わず本音を漏らしてしまう。
「可愛い……」
「えっ?」
「可愛いので、応援させて下さい!」
マリンは同じ想いを抱く仲間を見つけれて嬉しかったのである。
通常の恋愛、人間相手であれば嫉妬や独占欲を抱いてしまうことだろう。
しかし、相手は人間全てを等しく大好きなゴリラ。
恋敵が出来たというよりは、共通の相手に恋心を抱くそう言うなれば恋味方が出来たといった感じだ。
なので、グイグイと距離を詰めてしまう。
「私が可愛い? それに応援? ど、どういうことでしょうか? 私無愛想で可愛くはないですし、それに恋人というのは1人しかなれませんよね? というか、少し近いです……」
圧を強めて近付くマリンに対して、すももは戸惑い距離を取ろうとした。
一般常識で考えるとすももの反応が正しい。
正しいのだが――恋仲間を得れるかも知れないと考えたマリンはもう止まらなかった。
首を傾げたり、距離を取ろうとするすももを前にしても、その圧を緩めようとはしない。
「あ、すみません! ついつい! ですが、可愛いものは可愛いのです!」
「そ、そうですか……」
すももはその圧に根負けしてしまい、不本意ながらもその言葉を受け入れた。
「はい!」
受け入れられたことが心底嬉しいようで、マリンの顔は晴れやかだ。
しかし、すももは違った。
「可愛いのは、その……わかりました。ですけど、恋人は1人しかなれませんよね?」
理解不能な価値観に再び首を傾げる。
当然の反応である。
今の日本に恋人を複数持つなんて文化は存在しないのだから。
そんなすももを前にして、マリンは自身が体験してきたことを語り始めた。
「そうですね。普通はそれでいいと思います。ですが、相手は博愛主義のゴリラさん。私も今までたくさんアピールしてきました。それでも一向に進展する気配がないのです――」
まずはジムでの日々。
バナナと筋トレ、ダイエットの話は弾むし、それなりに盛り上がる。だが、そこまで。
どうやっても、異性として見てくれないのである。
そんな中、バナナのブローチを渡されたので舞い上がり、ホワイトデーを迎えた。
雉島課長を始めとする会社関係者がお返しを渡すことは知っていたマリンは、少しでも印象を残したくて自身がバナナン2号として歌った新曲【世界の中心でバナナを叫ぶ】を手渡した。
情に厚いゴリラのことだから、例え恋愛感情は抱かなくとも受け取りとても喜んでくれるだろう。と考えた。
だが、結果はその遥か上をいったのである。
「まさか……YouTuberバナプロのグッズと交換しよう言ってくるとはですよ……」
自分の経験してきたことを語りながら落ち込む。
まさかまさかのゴリラはプレゼント交換を望んできたのである。
これがゴリラにとってマリンという存在はトレーニング仲間、そしてバナ友ということが証明された瞬間だった。
もちろん、彼女は自分がVTuberバナナン2号ということは明かさなかった。
明かしていたら変わっていたのかもしれない。
でも、バレンタインにバナナの3蓮ブローチを貰った瞬間。
そんなことをしなくても、大丈夫だと思ったのだ。
「このブローチを貰った時は想いが伝わったのかと思っていたんです……」
マリンはブローチを指して苦笑いする。
苦笑いするのは、当然である。
一体、どの世界にわざわざバレンタインに本命っぽいのを渡したきた相手が意識していないと考える女性がいるのだろうか。
いや、いない。
さすがのすももも、どう返していいかわからないでいた。
「あはは……そうだったんですね……」
彼女もまた顔を引き攣らせながら苦笑いする。
「ですから、私はすももさんも応援したいのです!」
「あの……それのどこに私を応援する理由があるのでしょうか?」
「あります! さすがのゴリラさんも私達2人で攻めれば、気付くはずです」
攻め続けたマリンの作戦は取り敢えず、攻める人数を増やし慈愛ゴリラに意識してもらうことだった。
そんな恋に盲目となりつつあるマリンより、ご近所さんとして同僚として長い間ゴリラに接してきたすももは、また違った考えを持っていた。
「……なるほど。意味は理解したのですが、少し希望的観測が過ぎるような……ゴリラさんは全員に平等ですし」
彼女の考えはとても正しかった。
実際、そういうものなのである。
ゴリラには恋愛感情というものがない。
いや、あるかも知れないが……仮にあったとしても人間とは違うところにそれはあるのだ。
その的を射た言葉を受けてもマリンは止まらない。
いや、ここまで来てはもう止まれないのだ。
「細かいことは気にしないで下さい! 恋愛なんて自分の都合の良いように考えたもん勝ちですから!」
マリンは親指を立て笑みを浮かべる。
もう、完全にご都合主義の脳筋的思考だ。
「は、はぁ……そういうものですか……?」
「はい! そういうものです!」
悩みを共有できるかも知れない恋仲間を前にし勢いづくマリン。そして終始押されっぱなしで口数の少ないすもも。
このタイプの違う2人が仲良くなるには、時間を要すると思えた。
――が、蓋を開けてみるとそんなことはなく、通行人や迷子対応をしながらも、会話を重ねることで次第に打ち解けていった。
共通の想いゴリラである彼のおかげで。
☆☆☆
マリンとすももが意気投合し始めていた最中。
公園の一番手前に設置されたバナナ色のテントが張られた運営のブース内。
イベントとのアナウンスや、進行を任された犬嶋犬太と猪狩誠が隣り合わせで席についていた。
「うん、やっぱり主任って何でもできるっすよね!」
犬太が出店で働いているゴリラを見ながら言う。
「犬太もできるだろう……何でも知ってるし……何でもできるし、素直だし……それにかっこいいしさ……」
犬太の一言に思わず本音をダダ漏れで応じる誠。
しかし、ゴリラに夢中となっている犬太には微かにしか聞こえない。
「えっ? 今、何かいいました?」
「な、何も無い!」
「よくわからないっすけど、怒っています……よね?」
「怒ってないから!」
こんなふうに真っすぐな2人らしいやり取りが繰り広げられる中。
後ろから声を掛ける人物がいた。
「うふふ、若いね〜」
それは山川桃子108歳。
初々しい2人を目の当たりにして、口を挟たくなってしまい、声を掛けた……というのもあるが、本当は別の用があったのだ。
「はい! これ! ゴリラちゃんと熊ちゃんからよ〜」
桃子が差し出したのは、バナナにミツバチが留まっているアクセサリーで。
真ん中で分かれる2つで1つの物。
これはゴリラと熊主任が犬太と誠にと密かに用意していた贈り物だ。
「あ、えっ? 僕らにですか?」
犬太は突然、身に覚えのないプレゼントを手渡され戸惑いを隠せないでいた。
心当たりがないか、頭をフル回転されるが。
やはり覚えがない。
隣にいる誠も全く同じ反応を見せた。
「何で私たちに……?」
すると、その姿に微笑みながらゴリラからの伝言を伝えた。
「あなた達、婚約したんでしょう? そのお祝いよ! 本当は直接渡そうか悩んだみたいだけど、あの場で渡しちゃうと他の人にバレちゃうからだって〜! いかにもゴリラちゃんって感じよね〜」
桃子の言葉に、2人して肩を落としてため息をつく。
「主任達にはバレてたんっすね……」
「うん、みたいだね……」
本人達は、色々と気づいていないが実はこの2人。
それぞれに尊敬するゴリラと熊主任に相談と報告をしていたのだ。
だから、バレて当然なのである。
そんな事を知る由もない彼らは、観念したように桃子からアクセサリーを受け取り、お互い身に付けた。
「に、似合ってるかな?」
「は、はい! と、とても似合っています!」
「いいわね〜! お幸せにね」
2人はとても幸せそうな表情で桃子の言葉に「はい!」と声を揃えて返事をした。




