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『長編版』ゴリラ物語 〜全てはゴリラとバナナで解決〜  作者: ほしのしずく
ゴリラ、日常を謳歌する

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衣替え

 5月18日(土)

 天気【快晴 最低気温18℃ 最高気温20℃】

 時刻【13時00分】


 カラッとしたいい天気の日。


 駅近くにある日本国内有数の大手電機メーカー桃上から徒歩5分に位置する7階建て新築マンション。


 その7階の角部屋にて。


 身長180cm、体重155㎏。首まわり105cm、胸囲166cm、腕周り53cmの艶やかな黒くて短い体毛で覆われた存在がいた。


 挨拶は「ウホ」会話も「ウホウホ」全て「ウホウホ」+ラブ&ピース&バナナ。


 誰よりも人間を愛し、誰よりもバナナを愛する黒き最強の霊長類。

 

 その名もゴ・リ・ラ。


 彼はいつもと変わらない日常を過ごしていた。


 朝のランニングも済まし、体重維持の為ジムトレーニングも終えた昼下がり。


 今日は天気も良いということもあり、背中にバナナの刺繍がある黒のジャージ上下姿のまま、リビングで大の字になって寝転がっていた。


 その傍らには、ホワイトデーにバナ友から贈られた160cmのバナナのぬいぐるみがある。


 ゴリラは、ふと天井を見上げた。


「ウホ!」


 彼は思い出したのだ。


 引っ越しのせいで、まだ自分が衣替えを行なっていなかったことを。


 去年までは、GW中に済ませるようにスケジューリングをしていたのだが、今年はそう簡単には行かなかった。


 その原因は言うまでもなく、さまざまな人間とバナ友となった結果である。


 バナナ情報を交換している駅員、雉島課長を始めとした工程管理のメンバーに守衛。マルデ・プラザの従業員に、山川桃子を筆頭に地元町内会の皆。


 更にはお揃い眼鏡を掛けて週1回筋トレ(デート) を重ねている亀浦マリンに、B-SITEでフレッシュバナナジュースを飲みに行く仲にまでなった眼鏡ショップTOWNDAYS店長の花葉光月(かようこうげつ)といったように。


 こんなふうに実はホワイトデーを終えてからも、日替わりランチ……マジカルバナナのように、色々なバナ友と出掛けていたのだ。


 これが、人間なら遊びにかまけてしようとしていたことを出来なかった自分を責めてしまったりすることだろう。


 だが、彼はゴリラ。


 人間が大好きなゴリラなのだ。


 天井を見上げながら、何の後悔する様子もない。


 寧ろ幸せそうな顔でバナナを頬張るバナ友たちを思い出していた。


「ウホ!」


 ゴリラは体を素早く起こし気合を入れる。


 例え予定が遅れようとも、今やってしまえば何の問題もないのだ。


 そして、足早にリビングから自室へと向かった。




 ☆☆☆




 ――5分後。


 時刻【13時05分】


 綺麗に片付けられたゴリラの自室。


 空気を入れ替える為に、窓が開けられバナナの刺繍されたカーテンが揺れている。


 その手前に大きなキングサイズのベッドが1つ。


 ベッドの左横にはバナナ色のダメになるソファーがあり、その向こうには小さめの本棚が置かれている。


 本棚に陳列されている本の種類は言うまでもなく、そのおおよそ8割が大好きなバナナの図鑑や美味しいコーヒーの淹れ方などの彼の趣味に特化したものだ。


 残りは、ビジネススキル本や現代の人間の生活様式などが書かれた本が並べられている。


 その他の本については、オーディオブックや電子書籍でスマホに入っている。


 そんな働く霊長類らしい一室のウォークインクローゼット前。


 ゴリラは、早速衣替えに取り掛かっていた。


 目の前には桃色、バナナ色、マスカット色の3段ボックスと大きな透明のボックスが置かれている。


 整理整頓が好きな彼は、ここに下着、上着とパンツ、靴下と小物と分けて収納していた。


 使用するものは3段ボックスに桃色は下着、バナナ色は上着とパンツ、マスカット色は靴下と小物といったように。


 使用しないものは透明なボックスへとしまうのだ。


 そんな几帳面ゴリラはボックスから、今入っている衣服を取り出していく。


 左から、順番に使うものは、手前に置き、使わないものは奥へと。


「ウホ、ウホ、ウホ」


 そして、目にも留まらぬ速さで、衣服がそれぞれに選別されていった。




 ☆☆☆




 再びウォークインクローゼットの前。


「ウホウホ!」


 ゴリラは満足そうな顔をしている。


 そんな彼の目の前には、左から、通気性が良さそうなバナナ柄のトランクスと、スルスルとした手触りが心地良いTシャツ郡。


 真ん中は、動きやすさを重視したトレーナーやパーカー、スキニー加工が施されたパンツたち。


 一番右は、ご当地バナナ先輩が刺繍されたゴリラこだわりの靴下コレクションが綺麗に畳まれて置かれていた。


 あとは、クローゼット内に掛けられているコートをクリーニングに出せば完了となる。


 ゴリラは、予定していたことが順当に進んだことで清々しい気持ちになっていた。


 そして、ふと自室に掛けてある時計へと目を向ける。


 時刻【17:55】


「ウ、ウホ!?」


 つぶらな瞳を素早く瞬きさせて焦るゴリラ。


 彼が焦るのも無理はなかった。


 近所にあるクリーニング店の受付時間は18時まで。

 その上、この社宅から徒歩10分は掛かるからだ。


「ウホ……ウホウホ」


 だが、そこはいくつもの修羅場(仕事)を乗り越えてきたゴリラ。


 すぐさま、諦めモードから思考を切り替えて、頭の中でクリーニング店へとの道のりをシュミレーションしていた。


 この徒歩10分は、人間換算の徒歩10分。


 そして、自分はゴリラ。


 エゴサーチした限りでは、自分は時速40kmで走れるらしい。


 ならば、いける。と。


「ウホゥ……」


 ゴリラは瞼を閉じて精神統一し、ゆっくりと瞼を開く。


 その瞳には、強い意志が宿っている。


 絶対にクリーニング店の受付時間に間に合わせるという強い意志が。


 そして、そのままシミュレーションをしながら、ゆっくりと部屋を出て玄関へと向かう。


 感覚が研ぎ澄まされたのか、いつもより耳や鼻が聞くようで、鼻をヒクヒクさせたり、耳を動かしたりしている。



 ――カチ、カチ、カチ。



 静かになった部屋で時計の針の音が響く。



 ――ガチャ。



 ゴリラは扉を開けて、鍵を締めた。


「ウホウホ!」


 もちろん、彼は都会で暮らすゴリラ。

 いくら時間が無くとも締め忘れがないかどうかは、ちゃんと確認する。


「ウホ!」


 そして、目を見開くと、全速力の四足歩行でクリーニング店へと向かった。




 ☆☆☆




 この後、クリーニング店付近で息を上げながらも、喜んでいるゴリラの姿が目撃されましたとさ。




 ウホウホ

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