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『長編版』ゴリラ物語 〜全てはゴリラとバナナで解決〜  作者: ほしのしずく
ゴリラ、バーベキューをする

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28/67

準備

 10月15日(土)

 時刻【8時00分】

 天気【快晴 最低気温16℃ 最高気温22℃】


 ゴリラは工程管理課で、毎年開催されているバーベキューの食材調達をする為、コーヒーとバナナの香りが漂うリビングで準備をしていた。


 紺色のスポーツバッグを正面に置き、その手前には彼が必要だと考えたものが用意されている。


 それをゴリラは指差し確認していく。


「ウホ! ウホ! ウホ!」


 彼が用意したのは、右端からグアテマラ産のコーヒー、エクアドル産・高知栽培のバナナ2房、有塩バター1箱、ザラメ糖大さじ4入れた小袋、バターナイフ1本、小ぶりのフライパン、包丁1本にまな板を1つとビニール袋大中小各2枚ずつ。


 そして、身だしなみ用のブラシにバナナ先輩が描かれたハンカチを2枚、ポケットティッシュ2つだ。


 グアテマラ産のコーヒーは憩いの一時に。

バナナ、バター、ザラメ糖、フライパンは、ゴリラが考える最高で至高の食べ物――焼きバナナを作るためのもの。


 包丁、まな板、ビニール袋については言うまでもなく料理に使用するからだ。


 身だしなみ用のブラシやハンカチ、ティッシュは都会で働くインテリゴリラとってあたり前の物。


 それらの確認を終えると順番に詰め込んでいく。


「ウホウホ」


 ゴリラは嬉しそうな表情を浮かべている。


 その姿は遠足にいく子供のようだ。


 人間の世界ではバナナはおやつに含まれますか? なんて話がたまに話題なったりするが、彼にとってバナナはおやつではない。


 人を笑顔にする魔法の食べ物。


 ただ、それだけだ。


 ちなみに、このバーベキューの主催者はあの雉島課長。


 理由は部下の皆が頑張っているから、それを労いたいとのこと。


 また、他にも気負いしない仲間内、バナ友内だけの懇親会という意味合いも含まれている。


 実はこのバーベキュー自体、毎年開催されていたのだが、昨年度まで参加人数は雉島課長本人と誠、犬太の3名に留まっていたのだ。


 理由は言うまでもなく、部下を労う気持ちより、自分の出世に目を向けていた課長の態度が影響していた。


 しかし、今回は雉島課長・ゴリラ・熊主任・犬嶋犬太・猪狩誠・山川すももの6名と倍増しており、参加するメンバー全員が当日を心待ちにしている。


 それは、昨年度まで誤解が誤解を呼び、仲の良くなかったゴリラと雉島課長が、バナ友となったことが大きい。


 つまり、全てゴリラとバナナのおかげ。


 ちなみに参加メンバーは、それぞれ担当していることがある。お金、オーブンなどの必要経費と器具は雉島課長。


 その運搬と予約については、熊主任と山川すももの2名が受け持ち。


 食材調達班に関しては、無意識に色々な問題を解決しているゴリラと、そのメンティーの犬嶋犬太。


 そして熊主任のメンティーである猪狩誠の1頭と2名が任されていた。


 当の本ゴリラはというと、やはり皆に会えるのが楽しみで仕方ない様子だ。


 荷物を詰め終わると勢いよく立ち上がり、上機嫌に鼻歌を歌い始め。


 その上、ドラミングこそしないが、その巨体で軽やかなステップを踏んでいる始末だ。

 

「ウホウホ~♪ ウホウホ♪ ウッホウホウホ♪」


 とはいえ、彼はモラルのあるインテリゴリラ。


 下に住まう住人にも配慮した足音を立たない優しい足捌きをしている。


 それは踵からではなく、つま先から滑るように弧を描くものだ。


 そんな彼の服装はというと、上はカッターシャツにバナナ色のスプリングセーターを合わせており、下はゆったり感のある黒色パンツ姿。


 あとは、先ほど準備した紺色のスポーツバッグを肩から掛けている。


「ウッホ♪ ウッホ♪ ウッホ~♪」


 すっかり浮かれゴリラとなってしまった彼は、ドラミングへと発展しないように、時折ラマーズ法で興奮を抑えながら、リビングから玄関へと軽やかに移動した――。




 ☆☆☆




 ――ゴリラが支度を終えて10分後。


 時刻【8時20分】


 彼は玄関に着くと壁に掛けられた小さな鏡で身なりを確認し始めていた。


 その鏡に覗き込み、つぶらな瞳を大きく開いたり閉じたり、また顔を左右上下に動かしたりもしている。


「ウホ、ウホ、ウホ!」


 この鏡は身だしなみと清潔感を一番大切にする彼にとって大切な物。


 いくら洗面所で確認しても、ハネ毛などの細かな見逃しなどは起きてしまうからだ。


 もちろん、鼻から出ているかも知れないアイツ(毛)も最終チェックする。


 全く出ていないことに満足そうな表情を浮かべるゴリラ。


「ウホウホ」


 ただ、ゴリラである彼には、人間のような太く目立つ“アイツ(=鼻毛)”は生えてこない。


 鼻の中に生えているのは、赤ちゃんのような産毛のみで、鼻をチェックする必要すらないのだが、先週の金曜日、通勤電車中で女子高生たちがゴリラにも刺さる言葉を放ったことが原因となっていた――。




 ☆☆☆




 ――先週の金曜日、通勤電車内。


 時刻【7時25分】


 扉周辺で向かい合わせに立っている女子高生2人組が何気ない会話を繰り広げていた。


『てかさー、何で鼻毛出てる人っていんの?』

 

『うーん、わからないけど……自己管理とか、相手のことを気遣えない人なんじゃないのかな?』

 

『えっ?! そんな人いんの?』

 

『ううん、少なくとも学校の男子にはいないかな?』

 

『ははっ、だよねー!』


 この彼女たちの本音だらけの会話に、電車内にいるサラリーマンは顔を強張らせてながら、鼻周辺を隠していく。


 その中に、誰よりも反応しているスーツ姿の黒い塊がいた。


 黒い塊はつぶらな瞳をキョロキョロと動かし『ウホゥ……? ウホウホ』と呟いている。


 そして、周囲のサラリーマンと同じように鼻元を大きな黒い手で隠した。


 そう、ゴリラ。


 彼はここで彼女たちの会話を聞いたことで、本来、自分には関係のない、アイツ(毛)を確認するという行動を取るようになっていたのだ。


 これはゴリラが純粋だからだろう。


 ――そして、すっかり習慣化されてしまい今に至る。




 ☆☆☆




 時刻【8時25分】


 無事最終チェックを終えたゴリラは、スポーツバッグからブラシを手に取り毛並みも整えていく。


「ウホゥ、ウホゥ」


 ゴリラが持つこのブラシ、実は普通のブラシではない。

 これは体毛の濃い彼にとっての必需品。


 その名も除電ブラシ。


 特にこの乾燥する時期なると、除電機能がついているかついてないかで、快適ゴリラLIFEの満足度が大いに変わってくる。


 それに静電気特有の痛みは、馴染みのある人間にとってもなかなかに苦手なものだが、霊長類最強のゴリラにとっても苦手なものだった。


 寧ろ人間より、弱いかも知れない。


 都会のジャングルで働くインテリゴリラと言っても、彼はゴリラなのだから。


 そんなインテリゴリラは、毛並みを整え終わると鏡に向かって満足そうな笑みを浮かべた。


 黒い顔に真っ白な歯が光り、見るからに毛並みは整い、黒く輝き全体的にふわっとしている。


「ウホッ!」


 ゴリラは白い歯を見せて頷く。


 すると、今度は初めの一撃を食らわせてくるドアノブへと肘で触れた。


 掌ではなく肘でいくのが、ゴリラスタイル。


「ウホウホ」


 ゴリラは鼻息を漏らし頷く。


「ウホ、ウホウホ」


 もう静電気が起きないことを理解した彼は、黒色でソール部分のみ白色のサンダルを履く。


「ウッホ!」


 そして、社宅をあとにした。

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