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26章 贖罪

アイルは自らの翼で結界を作りエリーンと共に扉を閉じる

 26章 贖罪




 アイルは大きな翼でエリーンと自分を包み込んだ。


「大丈夫か?」

「はい。 アイルさんも大丈夫ですか?」


 可愛そうに顔が赤く腫れ、口の中を切ったのだろう、可愛い唇から血が流れ出ている。

 アイルは優しくその血を拭きとった。


「俺の心配はいらないよ。 それより続けられる?」

「はい」


 エリーンは再び座り、()に手を向け口の中で呪文を唱えた。


「手伝うよ」


 なぜかアイルは()の閉じ方を知っている。 エリーンの手の上に手を添えると、光が増し、扉の光も内側に向けて渦巻くように輝きだす。


 その時、アイルの翼が変形し始め、アイルとエリーンを完全に包み込み、()の方だけ少し隙間が開いているドーム型に形が変わった。




「おいおい! ダメだろ!!」


 余裕で構えていたベルゼブブ(ゴルド)は慌てて気砲を打った。 しかしアイルの翼に弾き飛ばされる。  何度も気砲を打つがまるで手ごたえがない。


「どうなっているんだ!! くそっ!」


 ベルゼブブ(ゴルド)の背中からアイルと同じ黒い翼を出し、飛んできた。

 



 アイルの翼で作ったドームを蹴り殴るが、やはり手ごたえがない。 



「結界か!! こしゃくな!! おい! その剣でこれを斬れ!! なんとしてもこじ開けろ!!」


 周りにいる兵士たちを呼ぶ。 悪魔にとっては結界でも、人間の剣ならこじ開けることができるだろう。




「ちょっと待て!! お前らの相手は俺達だ!!」


 ジンス達エルオゼア兵が入って来た。 続いてナパルが駆け込む。


「外の兵士たちはあらかた制圧した。 アイル! 聞こえるか? お前の気持ちをくんで、できるだけ兵士を殺さないようにトルデーン国王に頼んだ! 後で褒めてくれ!」



 翼の中でアイルとエリーンは顔を見合わせて微笑む。



 中にいた兵士たちは松明を投げ捨て、剣を抜いてエルオゼア兵に向かった。 しかしベルゼブブ(ゴルド)(ほう)けて見ている間にあっという間に制圧され、洞窟の外に連れ出されていった。



「なっ! なっ! なんてことだ!!」


 ベルゼブブ(ゴルド)は兵士が落としていった剣を拾い上げ、黒いドームを切りつけてみたがやはりキズをつける事ができない。


「どうして俺様にこの程度の結界が破れないんだ!!」


 何度も何度も突き刺し切りつけるが、翼に当たる手前で弾かれる。



「ちょ···ちょ···ちょっと!! 閉じちゃうじゃないか!! 待てよ! レイス(アイル)ゥ! レイス(アイル)君!! バルベリト(アイル)ォ!!」


 ベルゼブブ(ゴルド)はあらゆる攻撃で阻もうとするが、効き目がなかった。



 そのうち()が小さくなり、最後のあがきのように強く輝きを放った後、そこには何も無かったように、ただの岩肌があるだけだった。




=== 神は(われ)贖罪(しょくざい)を受け入れた ===




 アイルの心の中で声が聞こえた。 その途端、アイルの体が輝きはじめた。



「な···なんだ? なにが起こっている?」


 ベルゼブブ(ゴルド)は思わず飛び下がる。



 アイルを包む輝きが増していき、目が開けていられないほど強烈な光に包まれ、それが消えた時、そこには黒いデビルの翼ではなく、真っ白くキラキラと輝く美しい翼が背中から大きく伸びたアイルの姿があった。


 バルベリトやベルゼブブは堕天使だ。 元は天使だったが大罪により悪魔となった。

 しかしバルベリトは罪を悔い、天使に戻りたいと願っていたのだ。



「バ···バルベリトはどこに行った?」

「ここにいますよ」


 アイルは自分の胸を指差した。


「ゴルド······いや、ベルゼブブ。 もう俺には勝てない。 (あきら)めて大人(おとな)しくしろ」

「なっ!······なんだとぉ!!」


 ベルゼブブ(ゴルド)はアイルに向かって気砲を撃つが、アイルは軽く手で払うように弾き飛ばした。


「くそっぉぉ!」


 何度も立て続けに撃ちまくるが、全て弾き返される。


「ちっくしょう!!! それなら······」


 今度はアイルではなく、エリーンに向かって気砲を撃ち始めた。


 ベルゼブブは洞窟内を飛び回ってあらゆる方向からエリーンを狙う。



ベルゼブブ(ゴルド)! 諦めろ!!」


 アイルにとっては何でもない気砲だが、一発でもエリーンに当たれば簡単に死んでしまう。



 防戦一方になってしまった。





 その時、表からガチャガチャと聞き慣れた音が入って来た。

 鎧男たちだ。 兜のバイザーを下ろしているので表情は見えない。


 ベルゼブブから焦りの色が消え、余裕の表情になる。


「お前ら! 今頃来たのか。 まあいい、その女を殺せ!!」




 アイルの前に来た鎧男がバイザーを上げた。 もちろんウォルターだ。


()()()()、加勢に来ました。 エリーン様は我々が護りますので、思う存分戦ってください」


 ウォルターの指示で()()()()はエリーンのまわりを隙間なく取り囲み、最後にニッコリ笑ってバイザーを下したウォルターが上に覆い被さった。




 新たに鎧の結界が出来上がった。




「お···お······お前らぁ!! 裏切ったのかぁ!!」


 ベルゼブブ(ゴルド)が気砲を撃つが、小山のようになっている鎧に全くダメージはない。


「クッソォーーーーッ!!!」


 先ほどとは一転、顔を真っ赤にして苛立ちの頂点に達していた。

 



「エリーンをお願いします」


 アイルは結界となった()()()()にそう言ってから飛び上がった。





 白い翼からは鱗粉のようなキラキラした輝きが後を追うようにきらめく。

 ヤケになっているベルゼブブ(ゴルド)はアイルに向かって拳を、蹴りを、気砲を次々に撃つが全て軽く払われる。


 アイルが一瞬の隙をついて空中で一回転してわき腹に蹴りを入れた。 ベルゼブブ(ゴルド)は吹っ飛び、壁に激突して崩れ落ちる岩と共に地面に叩きつけられた。


「ぐわっ!」


 一瞬痛みでうずくまるが、再びアイルが近付く前に慌てて飛び上がる。




 何度もそんな攻防が繰り広げられた。 人には目で追うこともできないほどのスピードで、あちらこちらの岩壁がくずれる。

 何度もアイルの攻撃を受けるうちに、ベルゼブブ(ゴルド)は動きが鈍くなってきた。



 ベルゼブブ(ゴルド)はアイルが洞窟の奥側にいる(すき)をついて逃げようと、入り口に向かって飛んで行こうとした。 しかしアイルは一瞬で(あいだ)を詰め、ベルゼブブ(ゴルド)の襟首を掴んで奥に向かって投げつけたのだ。



 岩壁に思い切り叩きつけられたベルゼブブ(ゴルド)は一瞬気が遠くなる。 気づくとアイルが目の前にいた。



「ゴルド、戻ってこい」



 アイルがベルゼブブ(ゴルド)の胸に手を当てて「はっ!」と気合を入れた。 するとベルゼブブ(ゴルド)の背中から黒い大きな霧がブワッと飛び出した。


 その霧は洞窟の天井まで届くほどの巨大な悪魔の姿を現した。


『バルベリトォォォ······』


 地鳴りのような声で一声叫んでから、それは空気に溶け込むように消えて行った。

 



 ベルゼブブが抜けたゴルドはその場に崩れ落ち、気を失った。






 アイルはウォルター達の鎧の山の横に下りた。


「みなさん、もう大丈夫です」


 そう言って一人一人起こしてあげる。 そして一番下で小さくなっていたエリーンを抱き起した。


「アイルさん!」


 涙でグチャグチャの顔で見上げるグリーンの瞳が相変わらず可愛い。


「終わったよ」


 アイルはエリーンを優しく抱きしめた。





「私の邪魔をしおってぇ!!」



 気を失って倒れていたバーザル魔導士がいつの間にか目を覚まして、杖をこちらに向けて立っていた。


 アイルに向かって呪縛魔法をかける。

 

 しかし、何も起きない。 悪魔ではなくなったアイルに悪魔呪縛魔法は効くはずもない。


「あれ? わっ!」


 目の前にアイルがいた。


 アイルがバーザル魔導士の胸に手を当てて気合を入れた。 するとベルゼブブ(ゴルド)の時と同じように背中から黒い霧が飛び出して、そのまま消えて行った。



「なっ! 何をしたぁ!!」



 すると、30歳くらいの外見だったバーザル魔導士の髪が、ヒゲがみるみるうちに白くなっていった。 そして顔には深いしわが刻まれ始め、背中が丸くなり、80歳を超えるような老人の姿へと変貌していったのだ。


 バーザル魔導士は悪魔と契約して、若い姿を保っていたのであった。



 バーザル魔導士の魔力は完全になくなり、ギズネア兵達も戦意を失っていたので、彼らをその場に残し、ゴルドだけを連れてロザリム国に戻った。



挿絵(By みてみん)



 (のち)に聞いた話では、バーザル魔導士は1か月後、ギズネア国の牢の中で老衰により亡くなったそうだ。



 またゴルドはベルゼブブに心を奪われていた間の記憶を完全に失い、生き物を殺したいという残忍性までなくなり、ただの優しい青年になっていた。

 そしてそれだけではなく、なぜかレイス(アイル)の記憶までなくなっていたのだ。




 アイルは少し寂しいが、ゴルドのためにはそれで良かったと思った。




 ゴルドはヴェールス国へ送られ、あちらで裁きを受けることになる。


 ロザリム国王が言うには、酷い(ひどい)処罰を受けることはないだろうとのこと。 アイルの両親を殺したことは許されないが、全てベルゼブブがした事で、それが明らかな事はロザリム国王が保証する。 せいぜい国民への奉仕止まりだろうと。



 実は、アイル自らゴルドの減刑をお願いしたのだ。



 そして、散々人を殺したエルオゼア国にもロザリム国王からの書面と使節団が送られ、事態の説明にあたってくれる。 ウォルター達がベルゼブブの事を目の当たりにしているので、こちらも多分大丈夫だろうと言っていた。



 それを聞いてアイルは安心した。  憎むべきはベルゼブブであってゴルドではない事をみんなに分かってもらいたかった。





――― かつての友として ――― 





――― そして、自分がそうなっていたかもしれないという罪悪感を払拭(ふっしょく)するためにも ―――





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト


〈ロザリム国王女〉

エリーン・トレーディング = (偽名)リン


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ


〈ギズネア国の魔導士〉

バーザル魔導士


〈傭兵〉

ナパル・フィッシャー


〈エルオゼア兵士〉

隊長 ジンス

若い兵士 ヨング

わし鼻 ウォルター・ヘッセン (レイス隊長)



ベルゼブブが抜けたゴルドは、これから幸せになってくれるといいですね(*⌒∇⌒*)


次章、最終回です

(*^_^*)

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