24章 結界魔法
エリーンは不本意ながら、バーザル魔導士から結界魔法を習っている。
24章 結界魔法
エリーンは兵士に部屋の中に放り込まれて膝をついた。
「エリーン様!! 大丈夫ですか?!」
メイドとして連れてこられた少女の名は[ジェシー]という。 彼女も囚われの身でありながら、とても親身にエリーンの世話をしてくれる。
エリーンはジェシーの手を振り払い、立ち上がってドアを叩く。
「出してください!! 彼を開放して!! 彼は関係ありません!! お願いですから!! アイルを······」
エリーンはドアの前で泣き崩れた。
ジェシーがそっと抱きかかえて立たせる。
「アイル様がいらしたのですか?」
ジェシーはエリーンからアイルの話しを聞いていた。
エリーンは涙をポロポロ流しながら呟く。
「でも······囚われてしまったの······私のせいで······」
「エリーン様のせいではありません。 きっと大丈夫です。 きっと······」
ジェシーはエリーンをベッドまで支えていき、寝かせた。 ジェシーには何の確証もなかったが、それしか言うことができなかった。
「きっと大丈夫です······きっと大丈夫です」
「うん······」
エリーンは目を閉じた。
ジェシーはエリーンの寝息が聞こえるまで、優しく背中をトントンと叩いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、食事を運んできた兵士と共にバーザル魔導士が入って来た
「おはようございますエリーン様。 結界魔法の理論と練習は昨日で合格ですので、今日は実践をいたしましょう。 夕食の後迎えに参ります。 それでは······」
そう。 エリーンはバーザル魔導士から結界魔法を習っている。
あの男の言いなりになるのは悔しいが、結界魔法を覚えたい。 そうすればアイルに護ってもらうばかりではなく、自分でデビルから身を護る事ができると思ったからだ。
◇
夕食後、3人の兵士と共にバーザル魔導士の転移魔法でベネク山に来た。
すぐに1体のデビルが山の向こうに姿を現した。
「呪文は覚えておられますね。 準備はよろしいですか?」
エリーンはうなずく。
バーザル魔導士は杖を持つ手を上にあげ、5人全員を囲む小さな結界を作った。
エリーンも手を上にあげて呪文を唱えると、掌が光はじめ、そこから光が上に伸びる。
そしてバーザル魔導士の結界を覆うように白い膜が広がった。
デビルが近付いてくる。
デビルがエリーンの作った結界に触れると、一瞬ビビッと硬直した。 しかしそのまま通り抜け、内側に張られたバーザル魔導士の結界に触れて黒い霧となって消えた。
「エリーン様。 気の流れをもっと感じなさい。 穴道を通して掌に集めるのです。
いいですか? 貴女なら杖がなくてもできるはずです。 もう一度」
エリーンはうなずき、手を上にあげて集中する。 体の気の流れをコントロールし、掌に集中する。 そして呪文を唱えると先ほどと同じように結界が現われた。
暫くするとまたデビルが飛んできた。
人間をみつけて真っ直ぐにこちらに飛んでくる。 そして、エリーンの結界に触れた途端、黒い霧になって消えた。
「やった! 出来たわアイ······」
アイルと一緒にいると勘違いして、思わずバーザル魔導士に微笑みかけてしまったことに気づき、グッと口を閉じる。
「クックックッ、そんなに嬉しかったですか? エリーン様に笑顔を見せていいただけて嬉しゅうございます」
あなたに見せたんじゃないわ! と、エリーンは視線を外した。
「それでは結界のサイズを変えてみましょう」
バーザル魔導士は指導者としては一流だった。 道を外しさえしなければと、本当に残念だった
◇
部屋に戻るとジェシーが駆け寄ってきた。
「エリーン様どうでした?」
エリーンはニッコリ笑う。
「うまくいってたわ」
「よかったですね!」
ジェシーは自分の事のように喜んでくれる。
本当にジェシーはいい子だ。
この国に住んでいて、両親と祖父母と弟がいるそうだ。 きっとみんなが探しているだろうと心配していた。
しかし彼女がいなければ、ここでの生活は耐えられなかっただろう。 ジェシーの家族には申し訳ないが彼女がいてくれることに本当に感謝している。
バーザル魔導士は違う意味で彼女を連れてきたと言っていたが、エリーンにとっては幸運だったといえる。
それに恐らくジェシーは扉の所に連れて行かれることはないだろう。 アイルが代わりだというようなことをバーザル魔導士は言っていた。
事が終わった後、彼女が無事に解放されることを祈った。
ジェシーにはエリーンの部屋の片隅にある小さな一室をあてがわれている。
エリーンが使っている部屋と違い、ベッドが一つあるだけの飾りもない小さな部屋だが、ジェシーは満足しているという。
夜、彼女が自室に入り、エリーンは一人ベッドに座っていた。 いくつも置かれたランプの明かりで部屋の中は明るい。 窓がないので定期的に運ばれてくる食事だけで、辛うじて時間がわかる。
今日は外に出たので、今が夜という事は分かるが、なかなか寝付けない。
エリーンは入り口のドアを見つめる。 その直ぐ先にアイルが囚われている。
こんなに近くにいるのに姿を見ることができない。 手に触れることができない。
あの優しい声を聞くことができない。
鎖で縛られ身動きが取れなくなったアイルの最後の姿が目に浮かぶ。
彼は無事なのだろうか······食事は取っているのだろうか······痛い目にあっていないだろうか······辛いだろうな······
「アイルさん······」
思わず声を出してアイルを呼んだ。
エリーンか?
アイルの声が聞こえた気がした。
そういえば農場でデビルに襲われたとき、彼は自分の声が聞こえたと言っていた。
試しにもう一度呼んでみた。
「アイルさん!」
『やっぱり! エリーンなのか?!』
「アイルさん! 私よ! エリーンよ!」
『よかった。 やっと通じた。 ずっと呼んでいたんだ。 無事か?」
エリーンはドアに駆け寄った。 少しでも近い方がよく聞こえそうな気がしたからだ。
「私は大丈夫です。 アイルさんは大丈夫なのですか?」
『大丈夫だ。 もう直ぐ新月になる。 それまでは俺達に手出しはしないだろう』
「はい」
『エリーン、よく聞け。 扉は絶対に開けるな。 俺に何があっても絶対に開けてはいけない! わかったな』
「でも······」
『俺は大丈夫だ。 本当に大丈夫だから、心配するな。 それより扉を開けた後の世界を考えてみろ。 俺一人の命には代えられない』
「そんな······」
『もしもの時は悪魔に魂を売ってでもエリーンとこの世界を護ってみせる』
「悪魔······」
『そう、俺の中には悪魔がいる。 この人間離れした力もそいつの力だ。 そしてゴルドという奴がいただろう? あいつの中にも同じような悪魔がいる。
しかし俺はゴルドのように心を奪われない自信がある······エリーンがいるから』
「アイルさん」
『安心して扉を閉じて』
「わかりました」
『うん、必ずだぞ······エリーン······愛してる』
「私も愛しています」
『ありがとう』
それ以後、声は聞こえなくなった。
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〈主人公〉
レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト
〈ロザリム国王女〉
エリーン・トレーディング = (偽名)リン
〈元友人〉
ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ
〈ギズネア国の魔導士〉
バーザル魔導士
アイルと話ができましたね!
心が通じ合っているからでしょう
( 〃▽〃)




