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23章 罠

アイルはエリーンの元に駆けつけた。

しかしそれは罠で、なんとゴルドまでいた。

 23章 罠





 アイルは走った。 エリーンの元に急いだ。


 自分が遠隔視能力(えんかくしのうりょく)を持っているなどバーザルは想像もしないだろう。

 見張りもなく、簡単に助け出すことができると思った。



 アイルは今、冷静な判断ができていない。 エリーンの事で頭がいっぱいだった。




 自分が罠に向かっているとも知らずに······




 2日間走り続けてギズネア国に着いた。 夢で出てきた場所を探す。


 ベネク山と街に挟まれた場所はすぐに見つかった。


 大きな穴に躊躇(ちゅうちょ)なく飛び込む。 夢で見た通り、大きな扉の前に着いた。

 その扉をゆっくりと開いてみたが、思った通り見張りはいない。


 一番奥の右側のドアの前に立った。 ここにいるはずだ。



 一応用心しながらドアを開くと、中には鉄格子があり、牢の奥には人がいる。 夢の通りだ。


 ただ、夢とは違い、奥にいる女性は、髪は乱れていないが手足を縛られ()()()()をされていた。




「エリーン!」




 牢の入り口の鍵は開いていたので急いで駆け寄る。


 エリーンはしきりに首を左右に振っているが、アイルは気にとめなかった。 

 周りが何も見えていなかった。 エリーンを助けたい一心で周りを見る余裕も気配を探る余裕もなかった。


 アイルはエリーンを抱きしめると、猿ぐつわを外してあげた。


「アイルさん!! 罠です!! 逃げて!!」

「えっ!」



 気づいた時には既に手遅れだった。


 アイルが気配を探ろうと立ち上がった時、急に体が動かなくなり、ギリギリと締め付けられる。




 バーザル魔導士だ!!




「ググッ!」


 動けば動くほどギリギリと締め付けられていく。 



 その時、ドアが開いて杖を前に差し出したバーザル魔導士と、鎖を持った2人の兵士が入って来た。



「クックックッ、単純な方でよかったです。 まんまと自分から罠に飛び込んで来てくれるとは」

「やめなさい!! この人は関係ないでしょう?! 放しなさい!!」

「クックックッ、残念ながらそうはいきませんよエリーン様。 やれ」


 横の兵士に命令すると、彼らはアイルを鎖でぐるぐる巻きにした。


「その鎖には捕縛の術がかかっていますから、逃れることはできませんよ」


 バーザル魔導士はアイルに向けた杖を下すが、相変わらず動くことができない。 普通ならこの程度の鎖などは簡単に切る事が出来る。 にもかかわらず、切れない······というより、体が動かないのだ。




 これが捕縛の術か。




 その時、ドアから新たに入って来た男を見てアイルは驚愕する。




「ゴ···ル···ド······」




 ゴルドの姿をしたベルゼブブだった。


「よぉ! 久しぶりだなレイス(アイル)


 アイルの瞳が赤くなり、風が渦巻き始める。


「おっと! ここでお前の得意な風と炎を出したら、あの可愛いお前の愛する女が大変なことになるぞ? あの女がどうなってもいいのか?」


 アイルの瞳がブルーに戻り、風がやんだ。


 ギリッと歯噛みする。



「ハハハハハハ!! わっかりやすいなぁお前は。 お前がさっさと引っ込んで中にいるバルベリトと交代しないから、こんな面倒なことになったんだぞ」




――― 俺の中にいるのはバルベリトというのか? それは何なんだ? ―――




 ベルゼブブ(ゴルド)はアイルに近づいてマスクをはぎ取った。 そしてそれを石壁に向けて投げつけると、マスクはパリンと二つに割れて転がった。


「こんな物を付けていたら、お前の綺麗な顔が見えないだろう? バルベリト、お前は男前な奴に入り込めていいなあ。 女にモテモテだろ? せっかく人間界に来たんだから楽しまないともったいないぞ」



「なんの······ため···に······」


 声を絞り出す。



「なんのため? あぁ、まだ知らないのか? お前の中の大悪魔バルベリドと俺様で()を開けてサタン様を人間界にお迎えするためだよ」


 アイルは雷に打たれたような衝撃を受けた。




――― 俺が大悪魔だと? ()を開けてサタンを迎えるだと?! ―――




「驚いたか? その顔が見たかったんだ! ハハハハハハ!!

 お前が愛する女が閉じようとしている()を、お前は開くために人間界に送り込まれたんだよ! ハハハハハハ!! 皮肉な話だな。

 そんなやつらが愛し合うとは笑い話だと思わないか? お嬢ちゃん?」


 ベルゼブブ(ゴルド)の話を聞いてエリーンは驚いていたが、キッと睨みつける。


「そんな事にはなりません!!」

「まだ言うか。 お嬢ちゃんが()を開いてくれれば何も問題ないんだよ。 お嬢ちゃんが愛する男は大悪魔だ。 ()を開いてくれれば、奴は幹部としてこの世界に君臨できるんだ。 まあ、サタン様がいるが、お嬢ちゃんも悪魔の王サタン様の花嫁としてこの世界を思いのままになるんだぞ」

「な···に?!······」




 再び衝撃が走る。




 全身の血が逆流して吹き出すのではないかとさえ思えた。


「やべ! これは内緒だった。 忘れてくれ。 まぁ、レイス(アイル)はここで大人しくしていろ」


 衝撃を受け、怒りで震えるアイルを残してベルゼブブ(ゴルド)はそそくさと出て行った。




――― サタンの嫁だと?!  エリーンがサタンの嫁だと?!! ―――




「エリーン様もお部屋に戻りましょう」


 兵士が縄をといた途端、エリーンは兵士を振り切り、アイルに抱きついた。


「アイルさん! 大丈夫ですから! そんな事にはなりませんから! 大丈夫ですから!」




――― エリーン! エリーン! 可愛そうなエリーン! こんな小さな体で()という宿命を背負って、運命に翻弄され、利用されて!―――




 アイルは捕縛魔法を解こうともがくが、びくともしない。



 涙を流しながらアイルにしがみ付くエリーンを兵士は無理やり引き離し、悲しそうな瞳で見つめる彼女を部屋の外に連れて行った。


 心配そうに見つめるアイルに、バーザル魔導士は丁寧に、しかし厭味ったらしくエリーンが見えないようにアイルの視線の前に立ちはだかる。


「心配なさらずとも、エリーン様は丁重に扱わせていただいております。 それでは失礼いたします」


 大げさに頭を下げてから牢の鍵を閉めて出て行った。




 ◇




 シンとした牢の中で先程の言葉が頭をよぎる。



――― 俺が······俺の中にいる奴が、()を開けるために魔界からきた大悪魔だと? ―――



――― 心の中で俺に話しかけてきたのは、そのバルベリトという奴なのか? ―――



――― サタンのためにゴルドとそいつ()()を開けるだと? ―――



――― エリーンが悪魔の王サタンの嫁になるだとぉ?!! ―――




 体中の血が煮えたぎる。 瞳が真っ赤に変わり、牙が伸びる。 風が渦巻く。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 炎は風と共に牢に中で舞い始めた。




――― 愛するエリーンが悪魔の嫁だと?!! ―――




――― なぜ俺達を翻弄する! 俺はただ平和に暮らしたいだけなのに! ―――



――― 俺は何だ?! ()か···()()か······?!······本当に悪魔なのか!! ―――



――― 背中が熱い! 焼けるように熱い!! 力をよこせ!! 俺の中にいる奴! 力をよこせぇ!! ―――




 アイルは何も考えられなかった······あの悲しそうなエリーンの瞳だけが目に浮かぶ。




=== 力を暴走させるな ===




――― 何をしている!! 俺に力をよこせ!! エリーンを助けることができるなら、悪魔にだって魂を売ってやる!!  早く力をよこせぇ!! ―――




=== コントロール出来てこそ本当の力と言える ===



 トムの声が聞こえたような気がしてアイルは目を見張る。




=== 心を静める術を身に付けろ ===




 視線を上げるとトムが目の前に立っていた。 長身で真っ白な長い髪と長いヒゲをした老人。


 厳しい中にも優しさがあふれ、自分を助け育ててくれたトムが微笑みながら目の前に立ち、アイルを見つめていた。




「······先生······」





 アイルはやっと平静を取り戻した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト


〈ロザリム国王女〉

エリーン・トレーディング = (偽名)リン


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ


〈ギズネア国の魔導士〉

バーザル魔導士


〈先生〉

トム・ハミルトン (元将軍)




アイルが捕まっちゃった((( ;゜Д゜)))


物語は、佳境を迎えます

(;゜0゜)

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