22章 ベルゼブブ
人間界を楽しむベルゼブブは、扉のあるベネク山に向かう。
22章 ベルゼブブ
ベルゼブブはとりあえずウェールス国の自分の家に戻って、デビルの報告を待つことにした。
ゴルドの家は裕福で金には困らない。 もちろん学校などはもう行かない。
人間界を楽しんだ。 金を使って遊びまわり、たまに夜中に人を殺して楽しんだ。
そうやって4年が過ぎた。
そろそろ飽きてきた。 デビルからの報告もない。
「もっと金持ちの所に行けば楽しいかな?······どこにするか······そうだ! どこかの王宮に入り込むか」
選んだのは隣国のエルオゼア国。
この国でもいいのだが、もし自分の好きなようにしてこの国が滅ぶとちょっと困る。 この家はなかなか居心地がいい。 ちょっとしたアジトとして取っておきたいので他国に行く事にした。
◇◇◇◇
簡単にエルオゼア王宮を制圧して国王並みの暮らしが約束された。
遊びも、食い物も、女も選び放題だ。 もちろん殺しも······
「もっと早く来ればよかったな」
一番豪勢な部屋の豪華なソファーに寝転がって呟いた。
基本、政治などどうでもいい。 面白おかしく過ごせればそれでよかった。
何人かの腰巾着もできた。 何を言っても「はいはい」と媚びへつらってくる。
その内の一人のウォル何とかというわし鼻で顔の四角い奴が、レイスらしき男の情報を持ってきた。
しかしそれは別人で、ただ人間の中では強いというだけの奴だった。 面倒くさいから壁に叩きつけてやった。
◇
1年ほどして再び情報を持ってきた。
「恐ろしく強くて人間離れしているそうです。 なんでも[エンデビ]とよばれていて、傭兵仲間では有名だそうです」
「エンデビ?!」
レイスは今でもそのコンビ名をつかっていたのか? しかしこれは確実だ。
すぐに捕まえに行かせようと思ったが、奴は用心深い。 国王様が呼んでいると優しく言えば必ず自ら登城するだろうと知恵を授けた。
思惑通り、レイスが来た。 なぜかマスクをしているが、マスクから出る嫌みなほど端正な鼻や口元は、間違いなく奴のものだ。
しかし、未だにバルベリトを完全に抑え込んでいる。
少し刺激を与えてやった。
するとまた前みたいに風と炎を出してきたが、すぐに炎は消えた。 少しはコントロールできるようになったのか?
レイスが出した渦巻く風が小さくなっていく。 巻き込んだガラスや陶器の破片で渦が真っ白に見える。
どうしてこんなに小さくなっていくんだと近付くと、その風が突然俺様を包み込んだ。
ガラスや陶器の破片が俺様を切り裂く。
全身、激痛に襲われる!!
そして気付けば宙に浮いて、そのまま窓の外に運ばれた。
「レイスの野郎!! こざかしい!!」
風の渦に運ばれて王都の外まで飛ばされてしまった。
体中切り裂かれ血まみれになった俺様は大急ぎで城に戻ったが、すでにレイスの姿はそこになかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
レイスにやられた俺様は、2ヶ月ほど寝込んでしまった。
人間とは不便なものだ。 悪魔ならこんな傷は一瞬で治ってしまうのに、全身切り刻まれて、熱というものまで出してしまった。
しかし半分悪魔の俺様は普通の人間とは比べ物にならないほど治りは早い。
というより、普通の人間なら生きていない。 全身骨が見えるほどまで切り裂かれたのだ。 だから寝込んでしまうのは仕方がないといえばそうだろうが······
······情けない·····
俺様が起き上がることができるようになった時、デビルが報告に来た。 俺様を待っていたそうだ。
報告ではレイスらしき男が鍵と一緒にいたということだ。(そのデビル以外は、会った途端殺されていたので、報告に来ることもできなかったのだろう)
もう2ヶ月も前なので、そこにはいないだろうが、どの方向に向かったのかはわかった。
とにかく、ウォル何とかにレイスを追わせた。
ウォル何とかがデビルがどうとか言うので、秘策を教えてやる。
「デビルは人間が作った密閉空間に入ることができない。 だから完全武装の鎧には、デビルは手出しできないんだ。 しかし、誰にも言うな。 お前だけに特別に教えるのだからな」
そう言うとウォル何とかは、感激していた。
俺様も、少しは人間の扱いがうまくなってきたな。
◇
ウォル何とかがレイスを追ってしばらくした頃に、別の腰巾着から面白い話を聞いた。
「ベネク山の南にあるギズネアという国には、サタン様を信仰する宗派があるそうです」
「サタン様を? それは面白いな」
ギズネア国に行ってみる事にする。
レイスにコテンパンにやられた後、俺様は翼を出すことができるようになった。 やられたおかげでパワーアップしたのか? だとしたらレイスに感謝だな。
久しぶりに空の旅を楽しんだ。
馬で行けば2ヶ月はかかる距離が、飛んでいくと5日でギズネア国に着いた。
見た事のない変わった建物が立ち並び、屋根がドーム状になっている不思議な街並みだ。
王都らしき街の上をゆっくりと飛び回る。
俺様を指差し「キャーキャー」逃げ回る人間の中に、ひれ伏して拝んでいる者をみつけ、そいつの前に舞い降りた。
「サタン様を信仰しているというのはお前か?」
「さようにございます」
「お前らの親玉の所に連れて行け」
「かしこまりました」
その男についていった。
そいつは王宮に入っていく。
連れて行かれた部屋には、30歳くらいの端正な顔立ちだが、蛇のようなねちこい目をしている男がいた。
この男は悪魔のオーラを纏っている、
おっ?······こいつ悪魔と契約してやがる。
その男は惜しげもなく見せびらかしている俺様のカッコいい翼を見て一瞬驚いたが、すぐにひれ伏した。
「御高名な大悪魔様とお見受けいたします」
さすが······分かるのか?
「ベルゼブブという」
「光栄にございます。 わたくしめは魔導士のバーザルでございます」
地面に頭をこすりつけたままで答える。
「サタン様を信仰しているとか」
「さようにございます。 そのため、現在鍵を捕えております」
鍵を殺さずにとらえているだと? 俺様がせっかくこじ開けた扉を閉じようとでもしているのか?
しかしバーザルは 褒めてくれとばかりに、誇らしげな顔をあげる。
「頑固な娘のため、扉を開こうといたしませんので、そやつと愛し合っている男をどうにかして捕えて脅しに使おうかと······」
待て待て!······鍵って開けることもできるのか? 知らなかった······やばい! あの時殺してしまわずにあの女に扉を開けさせていれば、こんな苦労をしなくてすんだのに······
「その男というのが、人ならぬ者でして」
「人ならぬ者?」
「どうやらその男の中にも悪魔様がおりますようでございます」
悪魔が中にいる男? それってレイスの事ではないか! 鍵と愛し合っているとは笑える。 しかし、レイスを捕えることなどできるのか? 俺様でさえ苦労しているのに。
「わたくしは悪魔捕縛魔法を使うことができます。 以前、一度対峙いたしまして、その時も彼は動く事ができませんでした。 あの時捕まえていれば苦労はしなかったのですが、まさか必要になるとは思いませんでしたもので、その場に置いてきてしまいました。
その後、捜させてはいるのですが、なかなかみつかりません。 居場所さえわかれば捕えることができるのですが······」
悪魔捕縛魔法? そんなものがあるのか。 しかしこの野郎、さっきから自慢げにペラペラと······まあ、でも、使えそうな奴だから我慢するか。
「居場所がわからないのなら、あいつから来させればいい。 お前に俺様の力を授けよう。 この力を使って、奴の夢の中で鍵の場所を教えてやれ」
舐められないように高圧的に言う。 一歩前に出て親玉の頭に手を当てると、黒い力がそいつの体に流れ込んだ。
「おぉぉぉっ! ありがとうございます!! さすがは大悪魔様。 感服いたしました」
再び頭を地面にこすりつけた。
少しいい気分。
レイスを捕まえることができる? おもしろい! 鍵が扉を開けるならよし。 ダメな時にはあいつの目の前で愛する女とやらを殺せば、さすがにレイスは引っ込んでバルベリトが出てくるだろう。
どちらにしても、扉は開いてサタン様がお出ましになり、人間界は悪魔の世界になる!
愉快だ! 愉快だ! ハハハハハハ!!
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〈主人公〉
レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト
〈ロザリム国王女〉
エリーン・トレーディング = (偽名)リン
〈元友人〉
ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ
〈エルオゼア兵士〉
わし鼻 = ウォルター・ヘッセン = ウォル何とか
ベルゼブブは、実はアイルにずたぼろにされていたのですね( ゜ε゜;)
勝手にまわりがケガをする現象の原因が明らかに!




