21章 ゴルドとベルゼブブ
5年前
ゴルドはベルゼブブに心を明け渡してしまった‼️
21章 ゴルドとベルゼブブ
――― 5年前 ―――
「もう友達じゃない。 エンデビは解散だ」
そう言い残して去っていくレイスの後姿を俺は茫然と見送った。
「何が気に入らなかったんだ? こんな小さいのを潰したのが気に入らないのか? なぜ?」
レイスは死んだ子犬と俺を置いて、さっさと馬車に乗って帰って行ってしまった。 仕方がないので俺はトボトボと歩いて家まで帰った。
なんで俺がこんな事をされないといけないだよ!
「おかえりなさいませ」
執事のそんな言葉さえ苛立つ。
寄宿舎に戻る気にもならない。
部屋でダラダラしていると、レイスと過ごした楽しい毎日が思い出される。
なんでこんなに気が合うのかと思うほど息があった。 何をするのも楽しかった。 子分たちといた時とは次元が違った。
日ごとにその思いが強くなる。 しかしレイスに嫌われた。 理由も分からず嫌われた。
イライラが頂点に達した日の夜、ベッドに入った時に例の声が聞こえた。
いつもならその声は夢の中で聞くのだが、今日はまだ寝ていない。 しかし確かに心の中にあの地鳴りのような低い声が響く。
『俺様に、心を渡せ』
夢だと思っていたのに違っていた。
『俺様に心を渡せ。 今の辛さはなくなるぞ。 またあの楽しい日々が戻って来るぞ』
「なんだよ、レイスと仲直りできるのかよ」
『もちろんだ。 俺様に心を渡せば、あいつなど思いのままだ』
「·········」
『楽しいぞ』
「好きにしろ」
俺は自暴自棄になっていた。
その瞬間、俺の心は闇の中に沈んでいった。
◇
「クックックッ、やっと出ることができた···ハハハハハハ、ちょろいな。 もう俺様のものだ! ハハハハハハ!!」
ゴルドの中には大悪魔のベルゼブブがいた。 13年かけてやっと表に出ることができた。
「さぁ、レイスとやらの中にいるバルベリトを起こしに行くか」
ベルゼブブは、窓を開けてレイスの家に向かった。
◇
レイスは心が弱いと考えたベルゼブブは、目の前で大事な者の死を目の当たりにすれば、必ずバルベリトと入れ替わると考えていた。 しかし、そうはいかなかった。
まだ入れ替わってもいないのに、バルベリトの得意な風と炎で対抗してきた。
「おっと、これはやばい。 今日の所はあきらめるか······」
そう呟いたベルゼブブは壁の中に消えていった。
◇
ベルゼブブは余裕で構えていた。 どうせ13歳のガキが行く場所などないのだから。
焼け跡からレイスの遺体は見つからなかったと聞いた。 当然だ。 あんな事で死ぬわけがない。 しかし死体はないだろうが、本人もどこにもいないのだ。
慌てて探し回ったが、見つからない。
「そのうち見付かるだろう」
諦めたベルゼブブは、とりあえず扉のあるベネク山へ行ってみる事にした。
◇
翼を出そうと思ったが、うまくいかない。
走れば3日ほどで着くだろうが、それも面倒くさい。
心は大悪魔だが体は一応人間だ。 食事も睡眠も2~3日に一度くらいで大丈夫だが、なしという訳にはいかない。
コックに日持ちする食料を準備させ、馬に乗って出発したが、すぐに食料はなくなった。
食べなくてもいいといっても、あれば食ってしまう。
なくなってしまうと腹が空く。 しかたがないので魚や獣を捕えて食った。
「なんで俺様がこんな事をしないといけないんだ!」
◇
10日でベネク山に着いた。
広い洞窟の中に入ると、最奥の岩壁に手のひらサイズのユラユラと揺らめいている場所がある。
それが扉だ。
扉の前の3mほど離れた場所に胡坐をかいた。
扉を開くには時空の狭間に力をねじ込む者と、それをこじ開ける者が必要だ。
分かりやすく言えば、一人が固定してもう一人が引っ張るような仕組みで開く。 それらの力はサタン様から授かったものだ。
「一人で開くかなぁ······とりあえず、やってみるか」
ベルゼブブは、引っ張る方の力を与えられている。 右手を前に差し出し、気を込めて時空の狭間に押し込む。
何度か試すが、うまく引っかからない。
「なんで俺様がこんな事をしないといけないんだ!」
イライラするが、中ではサタン様が御待ちだ。
「バルベリトの野郎!」
悪態をつきながら、何度も試す。
奴を先に探すべきか悩んだが、少しでもこじ開けることができれば、デビル達がもう少し多く出てくることができるだろう。 そうすれば、そいつらに探させればいい。
デビル達は下等なので細かい話までは通じないが、簡単な意思の疎通ならできる。
◇
数日が過ぎた頃、少しコツをつかんできた。
「あと少しだ!」
もう一度気を込める。 うまくひっかかった。
「よし!!」
横に腕を移動し引っ張ると、渦巻く狭間の歪みがカッ!と光り、少し開いた。
その途端、3体のデビルが扉から出てきた。
「やった! 取り敢えずこれでいいだろう」
その時人間の気配がした。 振り返ると女一人と十数人の兵士達だ。
デビル達が向かって行く。 しかし兵士達は対魔剣を携帯していて、ほどなくデビル達は黒い霧となって消えて行った。
「せっかく出してやったのに」
ベルゼブブはイラっとする。
「なんで俺様がこんな事をしないといけないんだ」
こいつらはこの場所がどういう場所か分かっているようだ。 俺様がこじ開けた扉を見て驚いている。
兵士達が剣を抜いて向かってきた。
俺様は腕を前に出し、指をクイっと下に向ける。 先頭の兵士が石につまずいてこける。
もう一度指をクイっと下に向けると、後ろから向かってくる兵士達が転がっている兵士につまずいて、こけた。 その拍子に転がっている男を、持っていた剣で突き刺してしまった。
「ぎゃぁ!!」
「わぁ!」
今度は指を横にクイックイッと動かした。 すると慌てて避けようとした兵士の剣が、勢い余って横にいた兵士の首を切ってしまった。
「グエッ!」
「わっ!」
おもしろい!!
今まではゴルドの中からしていたのだが、目の前で互いを殺し合っていく様を見るのはなんとも楽しい。
次々と殺していく。 最後に残った兵士は豪快にこけて、岩に顔をぶつけて血しぶきをあげて死んでいった。
「ハハハハハハ!!······あ?」
女に気が付かなかった。 兵士たちと遊んでいる間に、俺様がせっかくこじ開けた扉を閉じようとしている。
「この女はもしかして鍵か!!」
あわてて女をズドン!と蹴り上げると、壁に叩きつけられて血の花を咲かせて地面に転がった。
「あぶねえ、あぶねえ。 せっかくこじ開けた扉を閉じられるところだった」
もちろんこの女性はエリーンの母親だった。
◇
数日待つと扉からデビルがまた出てきた。
「俺様と同じような特別な力を持った男を捜せ。 それと、鍵がまたいれば、殺さずに俺様の所に連れて来い! 俺様が直々にいたぶって殺してやる。 絶対にこの場所にも近寄らせるな」
それだけ命令すると、ベルゼブブは大きなあくびをした。
「安心したら眠くなった。 しばらく寝てからこの後どうするか決めるか」
ベルゼブブは死体が転がる中で、気持ちよく眠った。
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〈主人公〉
レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト
〈ロザリム国王女〉
エリーン・トレーディング = (偽名)リン
〈元友人〉
ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ
エリーンの母を殺したのは、ベルゼブブだった。
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