20章 遠隔視能力
わし鼻が、またまた現れた。
アイルはため息をつきながら立ち上がる。
20章 遠隔視能力
ジンスの仲間がいるという酒場に行くと、全員が待っていた。
「アイルさん! どうでした?」
「それが······」
話し出したのはナパルだ。
アイルが国王の親戚だの、エリーンが王女様で間違いなかっただの、事細くみんなに話してくれる。
「······で、4日後に迎えがくるそうだ」
「よかったですね。 エリーン様に会えますね」
「あと少しの辛抱です」
みんながアイルに向かって嬉しそうに言うが、アイルの顔は晴れない。
――― みんなは忘れているのだろうか?······自分があんな姿までさらけ出したにも関わらず、バーザル魔導士には勝てなかったことを ―――
その時、店の入り口でガチャガチャドタドタと、聞き覚えのある音がして、鎧を着た兵士が店を覗き込んだ。
「隊長! いました!!」
凝りもせず、また来た。
アイルはため息をつき、みんなを座らせたまま「待っていてください」と、立ち上がった。
兜のバイザーを上げた中には、例のわし鼻が見えた。
「お店に迷惑ですから···」外に出ましょうと言おうとした時、鎧たちはガチャガチャと音を立ててアイルの前で一斉にひれ伏した。
「申し訳ありません!!」
わし鼻が勢いよく頭を下げたので、上げていたバイザーがガチャンと下がる。
「我々はゴルドの手下になれば生き延びられると考えていました。 国王への忠誠も誇りも投げ捨て奴に仕えれば何とかなると思っていました。
しかし奴は顔色一つ変えず平気で俺の部下を殺します。 気まぐれで人を殺します。 恐ろしかったのです。 しかしレイス殿はあれだけの力を持っているにもかかわらず、一人も殺さずにいて下さいました。 我々は話し合い、我々が間違っていたと······ジンスが正しかったと確信しました。
どうか許してください! そして我々もレイス殿と行動を共にする許可を頂きたいと参上いたしました!! どうかお許しください!!」
「「「お許しください!!」」」
再び一斉に頭を下げる。 少し前まで自分を捕えようと躍起になっていたのに、手のひらを返したような態度を信用してよいものだろうか。
戸惑っているアイルの横にジンスが来ていた。
「面を隠したままで言う事か?」
また何かを企んでいるのではないかと考えた。 バイザーが下りて顔が見えないままだと考えが読めない。
わし鼻はハッとして顔をあげた。
「も···申し訳ありません!!」
鎧たちは一斉に兜を脱いだ。
「おっと······」
ジンスは······いや、アイルも驚いた。 わし鼻もその部下たちも涙と鼻水でグチャグチャだったのだ。 そんな彼らにウソがあるとは思えなかった。
しかし······
――― みんな忘れているのか? 自分がゴルドにも勝てなかったことを ―――
――― 特別な能力があっても、結局何もできなかったことを ―――
――― 逃げることしかできなかったことを ―――
――― 目の前で愛する女性を連れ去られても、見ている事しか出来なかったことを ―――
ジンスがアイルの肩をポンと叩いた。
「許してやってくれませんか? [ウォルター]も悪い奴じゃないんです」
わし鼻の名前はウォルターらしいが、彼がいい人かそうでないかは問題ではない。
「エリーン様を助け出すのに役に立つと思いますよ」
「·········」
いつまでもひれ伏させておく訳にもいかない。 しかなくアイルはうなずいた。
「よかった!」
「よかったなあ!」
鎧たちは喜びあっている。
――― なにを喜んでいるんだ? ―――
「我らレイス隊! 3小隊15人と、隊長のウォルター・ヘッセン! 参上しました。 ご指示を!」
嬉々として整列する。
――― なにをそんなに喜んでいるんだ? ―――
「とりあえず食事を······」
アイルが言うと、ウォルターは礼を言い部下に命令を下す。
「ありがとうございます! 休め! 各自食事をとれ!」
「「「「はっ!!」」」」
「じつは、朝から飯を食っておりませんで······」
ウォルターは申し訳なさそうにジンスの横の席に着く。
レイス隊(?)は、食事に専念し始めた。
ジンスとウォルターは旧知の仲らしく顔を突き合わせてアイルについて話し合っている。
みんなが楽しそうに話しながら食事をしている中、アイル一人だけが沈んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
宿に帰り、アイルはベッドに座り窓の外を見ていた。
今日はデビルの気配がない。
「今日は久しぶりに飲みすぎた。 お前も少しは寝ろよ。 ずっと寝てないだろう? 先に寝るぞ」
ナパルは布団に潜り込んだと思うと、すぐに寝息が聞こえ始める。
エリーンはどうしているだろう······
ちゃんと眠れているだろうか······ご飯は食べているのだろうか······
5日後には会える······しかし彼女を助け出すことなどできるのだろうか······
バーザル魔導士のあの魔術は何だったのだろうか······あれから逃れることなどできるのだろうか······
俺を人ならぬものと言った·····俺は本当に人では無いのだろうか······
あの時に聞こえた声······俺が悪魔になると言った······本当に·········
アイルは見知らぬ場所に立っていた。
「ここはどこだ?」
北にベネク山が見える。
南には見た事のない町が広がっている。 普通、屋根といえば三角か平らなのだが、この街の屋根は丸いドーム型で、高い建物は丸い屋根の下が蜂の巣のようになっている。 中はどうなっているのだろう。 とても不思議な光景だ。
遠くの方に兵士の姿が見えた。 エリーンを連れて行った異国風の鎧を着ている。
······ここはギズネア国なのか?······
そして、目の前には直径が40~50mほどの巨大な穴がポッカリと開いているのだが、ご丁寧にアイルの足元から洞窟の奥に通じる道が続いている。
アイルは吸い込まれるように巨大な洞窟の中へ入って行った。
1㎞ほど真っ暗な下りの道を進むと、松明の明かりが見えてきた。 その明かりに大きな柱が等間隔に並んでいるのが浮かび上がっている。
巨大な場所だ。 アイルの目をもってしても全貌が見えない程の広さだ。
ゆっくり進むと大きな扉が見えてきた。
アイルが近付くと、わかっているかのようにギギギと音を立てながら開く。
扉の中には左右に3個ずつドアがあり、突き当りには階段がある。
一番奥の右側のドアが少し開いているので、ゆっくりと近づき用心しながら中を覗く。
そこは牢屋のようで、ランプの明かりに照らされた奥に鉄格子があり、その牢の中の隅に人がうずくまり、うなだれているのが見えた。
女性のようだ。
その女性が乱れた長い髪をそのままにゆっくりと顔をあげる。
乱れた黒髪の奥からグリーンの瞳が見えた。
「エリーン!!」
アイルは叫んで起き上がった。
「えっ?」
眠っていたのだ。 横ではナパルが寝息を立てている。
やけに鮮明な夢だった。
いや、アイルには夢とは思えなかった。 もしかすると自分には遠隔視能力があったのかもしれない。
「きっとそうだ!」
それが確信に変わった。
「ナパルさん! 起きて下さい」
気持ちよさそうに寝ているナパルを叩き起こす。
「エリーンの居場所がわかりました」
「······へっ?」
ナパルには状況が呑みこめない。
「とにかく行ってきます。 もし帰ってこなくても、5日後には必ずベネク山には行きますと国王様に伝えておいてください。 お願いします」
アイルは窓を開けて、飛び出していった。
「どういうことだよ······」
ナパルは茫然としてアイルが出て行った窓を見つめた。
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〈主人公〉
レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト
〈ロザリム国王女〉
エリーン・トレーディング = (偽名)リン
〈傭兵〉
ナパル・フィッシャー
〈エルオゼア兵士〉
隊長 ジンス
若い兵士 ヨング
わし鼻 ウォルター・ヘッセン
〈ギズネア国の魔導士〉
バーザル魔導士
〈元友人〉
ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ
アイルの遠隔視能力で、エリーンの居場所を特定できた。
しかしそれは······
(@ ̄□ ̄@;)!!




