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19章 交錯する運命

アイルの中にいるものとは何か?

エリーンの運命とは?

二人の過酷な運命が交錯する!

19章 交錯する運命





 ここは生命と言われるものが、ただの一つもない世界。


 高い山々には、木の代わりに針山のような鋭い岩が密集して立ち並ぶ。


 動いているものといえば常に降り続く雨と、ゴウゴウと渦巻き流れる川の水。 そして(はえ)のように飛び回る多くのデビル達だけである。



 ここは魔界。 神によって隔離された殺伐とした地。

 悪魔だけが(うごめ)く異界である。




 そんな殺伐とした地に異彩(いさい)を放つ巨大な宮殿が、高い山の山頂にそびえ立つ。



 門の大きさだけでも30m。 そこから長い廊下が続き、巨大な建物に入ると正面に広い部屋がある。 最奥には巨大な椅子が置かれ、そこには身長が20mはある巨大な悪魔の王[サタン]が座っていた。


 そしてサタンの前には身長5mほどの大悪魔達が20体ほど胡坐(あぐら)をかいて座っている。





 サタンが苛立った風に口を開いた。


()はまだ広がらないのか!』

『少し広がっておりますが、サタン様が出るにはまだ·····』

『せっかく()どもの目を()(くぐ)ってやっとの思いで奴らを人間界に送ったというのに、未だに成し遂げられぬとは!』


『もしかすると[バルベリト]が裏切ったのかもしれません······』

『そうだ、あやつは天使に戻りたがっていたようなことを聞いたことがある』

『しかしバルベリトがいなくても[ベルゼブブ]だけでやり遂げてくれるのではないのですか?』


『言ったであろう。 ()を完全に開けるには、一人の力では成し遂げることができぬ。 2人の力を合わせる必要があるのだと。 そのために無理をして2人を送り出したのだ』

『しかし、()は少し開けられました。 放っておいても少しずつ開いております』


『そうだな。 しかし(われ)はあと何年待てばいいのだ? 百年か? 千年か?』


 サタンは苛立ちを(あら)わにして大悪魔たちを睨みつける。





 サタンは()を開くためにバルベリトとベルゼブブという大悪魔を人間界に送った。


 魔力の強い彼らは()を通り抜けることはできない。  そこでサタンは自分の魔力を大量に使って彼らを魂の状態にした。 そしてその状態で()を通り抜けさせ、人間の胎児の中に送り込んだのだ。


 アイルの中にバルベリト、ゴルドの中にはベルゼブブが入り込んだのだった。




『も···申し訳ありません』

(われ)は、あやつらなら必ずやり遂げてくれると信じておる。 いつ開いてもいいように見張りは怠るなよ』

『承知しております』




 サタンと大悪魔達は、人間界を蹂躙(じゅうりん)する時を思い描いてほくそ笑んだ。




 挿絵(By みてみん)




 アイル達一行は、ロザリム国の首都[チェルタム]に入った。


 チェルタムの街の建物は全て薄いグリーンに統一されている。 そして随所に草木が植えられ、至る所に花が咲いていて、とても美しい街並みだ。

 もちろん商店街などもとても活気があり、人々は生き生きしている。


 ベネク山に近いこの街は、夜になるとデビルが多く往行するだろうに、そんな暗さはみじんも感じさせる事はなかった。




 先ずは宿に落ち着く。 ナパルと同室だ。



 ジンスがロザリム国王に書面で謁見を申請する。 大きな事を言ったが、国王と面識があるといっても数度会っただけなのだ。 それに()()()が覚えているとは限らないし、なんといっても国王様だからお忙しい。 下手をすれば許可が下りるまで、数ヶ月かかる事もあるそうだ。


 しかし予想とは裏腹にすぐに許可が下り、明日の朝に登城することになった。 ジンスはアイルから色々と話を聞き出し、知りうる限りの事を書状にしたためた。 そのためかもしれないと彼は言う。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇




 ロザリム国までの道中の5日間、アイルはほとんど眠っていない。 毎晩のように襲ってくるデビルに、アイルは1人で対峙した。 戦っている間は余計な事を考えずにすむ。 



 じっとしていると、嫌な想像ばかりしてしまうからだ。




 辺りが暗くなってきて、宿の窓から遠くにデビルの姿が見えた。


 アイルはロングソードを背中に担ぎ、2階の窓を開けた。


「ナパルさん、ちょっと行ってきますので、窓を閉めてくださいね」

「えっ!! どこに行くんだ?」

「デビル退治に。 では」


 アイルは窓から飛び出して、屋根伝いにチェルタムの街中へ消えて行った。




「デビル退治って······」




 ◇




 明け方戻ってきたアイルは、一睡もしていないだろうに平然とした顔をしている。


「アイル······大丈夫か?」

「え?······はい」

「·········」

「そろそろ朝食ができてる頃ですよね。 行きましょう」

「あ···あぁ」



 明るく言い、サッサと1階に降りていくアイルの後姿をナパルは心配そうに見つめた。




  ◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌朝、城から使いの者が宿まで来た。 馬車まで用意されている。


 アイルとジンス、それとナパルの3人が馬車に乗り込んだ。




 よく整備された美しい並木道を通り、城門を抜けると真ん中に大きな池がある。 とてもよく手入れされた庭を抜けて城の前に到着した。


 城のエントランスもまた美しく、吹き抜けの高い天井には幻想的な絵画が描かれている。 

 白い雲が浮かぶ青い空の中を可愛らしい天使が何人も()()()に飛び回っている絵だ。




 執事に連れられて入った部屋は、謁見の間とかではなく、応接室のような部屋だった。




 そこの部屋も壁が薄いグリーンの落ち着いた部屋で、豪華な花や見事な彫刻が置かれ、また天使の可愛らしい絵画が飾られていた。


 アイルが美しい天使の絵画に目を奪われていると、奥のドアが開き、国王が入って来た。


「その絵が気に入ったかね?」

「はい。 とても美しいです」


 30歳半ばくらいの精悍な顔立ちの国王だ。 アイル達は膝をついて礼をする。


「ありがとう。 とにかく座りたまえ」


 アイルはロングソードを外してソファーに立てかけてから、失礼しますと指された場所に座った。 しかしなぜかジンスは直立不動で、ナパルもジンスの後ろに控えて立っている。




「君は[ラサード・フォルト」の息子というのは本当かね?」

「父を御存じなのですか?」

「やはりそうか。 私とラサードとは又従弟なのだよ」


 アイルも驚いたが、後ろでナパルが「えっ?」と、驚く声が聞こえた。


「若い頃は視察などでお互いの国に行くたびに、二人で抜け出しては街に繰り出したものだよ」

「そんなことが······知りませんでした」

「ところで、君は顔にキズがあるというのは本当なのか?」

「あっ、失礼しました」


 アイルはマスクを外した。 つい習慣で着けっぱなしにしていた。

 マスクの下から現れた顔を見て、国王は微笑む。


「おぉ、ラサード(父親)に似ているな。 しかし目元は[アリナ(母親)]似かな?」



 その時、国王の後ろの壁にかかっている肖像画がアイルの目に飛び込んできた。



 国王とエリーンによく似た優しそうなグリーンの瞳の王妃と、あれは多分10歳くらいのエリーンだろう。 そして弟妹らしき6~7歳の男の子と女の子が描かれている。

 国王はアイルの視線を見て、後ろを振り返る。


「あぁ、可愛いだろ? エリーンが10歳の時かな? この絵が完成した後すぐに王妃が殺された」

「えっ?」

「エリーンも2ヶ月前に消息不明になってから、諦めていたのだよ。 君が助けてくれたと申請書には書いてあったが本当なのか?」

「はい······その時の護衛だった30人の方達は全滅したと彼女が言っていました·····」

「そうか······彼らはダメだったか······しかし君が助けてくれたのだな。 礼を言う」


 国王は頭を下げた。 


「やめて下さい。 また連れ去られてしまいました。 彼女を護れなくて申し訳ありませんでした」


 今度はアイルが頭を下げた。



「しかしどういう事なのですか? なぜ彼女が狙われるのですか?」

「ふむ······どこから話せばよいやら······」



 国王はさきほど執事が持ってきた紅茶を一口飲んだ。



「我々は()使()()()()といわれている」

「天使の末裔?」


 突然の突拍子のない話に戸惑う。


「そうだ。 そして、王家の家系の女性には特別な能力が備わっている。 レイス(アイル)君はベネク山に魔界と通じる()があるのを知っているかい?」

「彼女からそのような事を聞きました」


 また話が飛んだ。 どういう関係があるのか?


「そうか。 エリーンはレイス(アイル)君のことを信頼していたのだね。 ただ()といってもドアがあるわけではない。 なんというのかな······時空の歪みみたいなものか。 そこからデビルが人間界に出てくるのだよ。

 そしてその()が開かないように管理するのが()使()()()()である我々と、力を持つエリーン達女性の使命なのだよ。 彼女達の事を[鍵]と呼んでいる」

()······」

「5年前に()だったエリーンの母親が何者かに殺された」



 アイルはゴクリと生唾を呑む。



「普通は5年位では()が大きく開くことはない。 しかし誰かが無理やりこじ開けたようで、その頃からデビルが多く出てくるようになったのだ。

 実はエリーン達()の能力は16歳にならないと開花しない。 そこでエリーンが16歳になるのを待ってベネク山に向かわせたのだが······」

「それと今回の拉致とはどういう関係があるのですか? バーザル魔導士とは何者なのですか?」


「ふむ······バーザル魔導士は30年ほど前にギズネア国に現れ、瞬く間に権力を手に入れたのだ」

「30年前?······どう見ても彼は30歳くらいでしたよ?」

「あぁ、我々も不思議に思うのだが本当だよ。 そして彼が信仰するのが[サタン]だ」

「サタン?」


 一瞬胸が締め付けられた。 なんだ? この感覚は······


「バーザル魔導士はベネク山の()を開いてサタンを人間界に呼び寄せるつもりなのだ」

「まさかエリーンを使って?」


 おもわずアイルは身を乗り出す。


「そうだ。 ()は閉めるだけではなく、開けることも可能なのだよ」

「正気じゃない!」

「そう。 彼は狂っている。 しかし、彼の魔力は年々増してきている。 今まで何度も()の邪魔をしてきた。 今まではどうにか止められたが、そろそろ限界だ。 そこに君が現われた。 特別な能力があるそうじゃないか」

「でも、バーザル魔導士には(かな)いませんでした」



 アイルはグッと手を握りしめる。 



「しかし何としてでも彼女を救い出してみせます。 どこに連れ去られたかわかりませんか?」

「ギズネア国の城の近くだろうとは思うが、わからん。 城か、近くにアジトでもあるのか、地下宮殿があるという噂もある」


 国王は明らかに失望の色が濃く出るアイルを見つめる。


「しかしエリーンを連れ去ったとなると、次の新月には必ずベネク山の()の所に来るだろう。

 それまではエリーンに手出しはしないはずだ」



 新月といえばデビル達の力が増す時だ。 しかしあと5日もある。




 一日も早く助けに行きたいのに······




「ここから()までは地下通路を通って一日あれば行ける。 その時に我が軍と同行してくれ」

「······わかりました」




 4日後に使いの者をよこすという約束をしてアイル達は城を後にした。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ = (大悪魔)バルベリト


〈ロザリム国王女〉

エリーン・トレーディング = (偽名)リン


〈傭兵〉

ナパル・フィッシャー


〈エルオゼア兵士〉

隊長 ジンス

若い兵士 ヨング


〈ギズネア国の魔導士〉

バーザル魔導士


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー = (大悪魔)ベルゼブブ


〈アイルの両親〉

父 ラザード・フォルト

母 アリナ・フォルト



アイルはバーザル魔導師とゴルドを止めることが出来るのでしょうか?

!!ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!

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