15章 新たな仲間
アイルは人の叫び声を聞いて駆けつける。
三人の男達がデビルに襲われていた。
15章 新たな仲間
その後、デビルが出ることもなく、3日が過ぎた。
次の目的地の[トルデーン国まであと5日]の標識がある少し先の山の上に小屋が立っているのが見えたので、今夜はそこに泊まることにした。
木こり小屋のようで、かなりボロイが鍵も閉まり、デビルが現われても大丈夫そうだ。
ベッドもあり、これならエリーンもゆっくりと眠ることができる。
太陽が山の裾野に吸いこまれ、辺りが闇に包まれ始めた頃、遠くの方で人の叫び声が聞こえた。
アイルは立ち上がる。
「ちょっと行ってくる。 中から鍵を閉めて、絶対表に出るなよ」
「はい」
心配そうなエリーンを残し、小屋を飛び出した。
「「わぁ~~~~っ!!」」
声のする方に走る。
山の中腹で3人の男がデビルに襲われている。 一人は剣を使えるようで応戦しているが、空を飛び巧みに剣をかわすデビルに苦戦しているようだ。
アイルは男達の元に急ぐ。
男が振り上げる剣から逃げるように上に飛びあがるデビルに向かって飛び、下からロングソードをザン!と切り上げて真っ二つにした。
他にデビルがいる気配はないので、アイルは力を抜いた。
「あ···ありがとうございます!」
「とにかく、こちらへ」
アイルは山小屋に案内する。
◇
道すがらお互いの自己紹介をした。
リーダー格の男がヨルト・デーン29歳。
ヨルトは年齢より老けて見えるほど落ち着いた雰囲気のあるガッチリしたヒゲ面だ。
ヨルトの弟ヤムス・デーン26歳。
少しチャラそうに見えるヤセ型で、背は高いが猫背なのが残念だ。 シャキッとすればなかなかのものなのに。
デーン兄弟は鍛冶師の修行のために4年前にシャンボリー国に行ったが、師匠が亡くなったために、鍛冶屋の実家があるトルデーン国へ帰る途中だったらしい。
3人目が傭兵のナパル・フッシャー27歳。
シャンボリー国ではそれなりに名は通っているそうだ。 傭兵らしく長身で鍛えられた体をしていて、なかなかの男前だ。
すでに両親は他界しており、デーン兄弟の幼馴染で一緒に暮らしていたが、二人がシャンボリー国まで行くというので一緒に行ったそうだ。 しかし今度は二人が戻るというので、また一緒に戻って来たらしい。
デビルの事は聞いていたが、シャンボリー国にデビルはほとんどおらず、会ったことがないので油断していたという。
「デビルは首か胴体を切り離さないと死にません」
ナパルがいくら切ってもデビルが死なないというので、教えてあげた。
「よく知っているな。 何度か戦ったのか?」
「はい······まぁ······」
「そうか。 それを知っていれば遅れは取らなかったのに!」
ナパルが悔しそうに言う。
「ちょっと待て。 もしかしてそれは対魔剣か? あとで見せてくれよ」
ヨルトは先ほど一瞬しか見ていないのに、よくわかったなと感心した。
「よくわかりましたね。 いいですよ」
「待て、待て! そのでかい剣が対魔剣だというのか?! そんな剣をお前は軽々と扱っていたというのか?」
対魔剣は重い。 アイルが持つほどの大きさなら、大の男でも持ち上げるのがやっとだろう。
「ナパルさん。 それよりさっきのアイルさんの戦いぶりを先に驚くべきでしょう?」
ヤムスが半笑いで口を挟む。 アイルが一撃で倒したデビルをナパルが倒せなかったことが可笑しかったようだ。 それにあれだけジャンプできるなんて、普通の人ではないことは分かっているだろう? 的な?
「お前はいちいち······あっ! 待て待て! そのロングソードとマスク。 もしかして、エンデビ?」
ナパルが驚く。
「エンデビって何だ?」
「エンデビっていうのは凄い対魔剣士で、傭兵仲間では有名なんだよ。 恐ろしく強いのに人間を傷つける事も殺す事も絶対にしないとか······」
「アイルさんがそのエンデビ?」
ヤムスの問いにアイルは少し躊躇いながらうなずく。
「やっぱり凄い人だったんだ! ナパルさんが負けるのも仕方がないよね」
「それより、アイルは何でマスクなんかしてるんだ?」
ナパルはヤムスを睨んでから話しを変えた。
「顔に······キズが」
アイルもウソが苦手だ。 ちょっとしどろもどろになってしまった。
「それは気の毒に······」
アイルは心がチクンと痛んだ。
「傭兵にはケガが付きもんだが、俺はいつも顔だけは死守している。
『顔のキズがステキィ!』なんて言うのは場末の女だけだ。 俺は良家のお嬢さんか出来ることなら貴族のお嬢様を狙っているんだ。 男ならそれくらい狙わないとな。
しかし、顔にキズがあってはそういう所は周りがうるさくて認めてもらえない。
アイルはマスクから出ている所はけっこう整っていていい男のようだが、気の毒に顔にキズがあってはダメだな」
ナパルはなぜかフフンと鼻を鳴らして得意そうだ。
さっきの『チクン』を帰してくれと、アイルはこっそりと思った。
「でもナパルさんは背中に大きなキズがあるでしょ? マスクで隠れる程度の大きさのキズのアイルさんの勝ちだな」
「ヤムス! 見えないところはいいんだよ! 顔だ! 男は顔だろ!」
「キズには違いないだろ? アイルさんは体にキズはある?」
ヤムスがアイルの体を見回しながら聞く。
「いや」
そういえば、先日デビルに噛まれた場所は跡形もなく治っている。 エリーンのヒールは凄いなと感心した。
「ほらみろ! アイルさんは顔のキズだけだって」
「仕方ないだろ! あの時は5人がかりで襲って来たんだ。 命があるだけでも凄いと思えよ!」
それなりに名が通っているというのは、まんざら嘘ではなさそうだ。
「なにをそんなにアイルさんに対抗意識を持ってるんだよ。 負けたのが悔しいのか?」
「勝った負けたの問題じゃないだろ?」
その時ゴン!ゴン!と、ヨルトのゲンコツがナパルとヤムスに飛んできた。
「「いってぇ!」」
「つまらんことでいつまでも言い争っているんじゃねえよ! すまんなアイル。 こいつらいつもこの調子なんだ。 ところでヤムス、なんでアイルに『さん』付けなんだ? お前より8つも年下なのに」
「アニキもさっきの戦いを見ただろ? まるでハミルトン将軍のようだった! 俺、リスペクトしちゃうな」
「お前は本当にハミルトン将軍が好きだな」
「きっと[フォリアの戦い]の時って、あんなだったんだろうなと思って興奮したよ!」
「·········」
こんなところで先生の名前が出てくるとは思わなかった。 今度こそ本当に心が痛んだ。
その時山小屋が見えてきた。
「あの小屋か? ボロボロだな。 デビルが壊して入ってきそうじゃないか?」
「デビルにとって人間の密閉空間は結界になるようで、デビルが通れる隙間がないかぎり、入ってこれないようですから大丈夫です」
「「「へぇ~~」」」
3人で同じように感心する。
「あれ? 誰かいるぞ? アイルの連れか?」
「はい」
窓からエリーンがのぞいている。
「おい! 女の子じゃないか! お前······あんな雇い主でいいなぁ」
確かに傭兵とは言ったが、今が護衛中とは言っていない。 いや、護衛中といえば護衛中か······そんな事はすっかり頭から消えていた。
エリーンがドアを開けて、アイル達を出迎えた。
「おかえりなさい。 大丈夫だった?」
「うん」
中に入るとヤムスとナパルが紹介しろとアイルをせかす。
「この人の名はエ······」エリーンと言いそうになった。
「「エ?」」
「エっと······この人の名はリン。 俺の妻です」
(だから手を出すなよ)という気持ちが、つい口走ってしまった。
「「「えぇっ!!」」」
「お前、まだ18だろ?······なんだよ······」
ナパルとヤムスはガッカリするが、アイルはそれどころではない。
つい言ってしまったが、エリーンの顔が怖くて見れない。
「アイルの妻です。 よろしくお願いします!」
平然と答えるエリーンに、アイルは冷たいものが背中を流れるのを感じた。
少し険があるように聞こえたのは気のせいだろうか······
「リンちゃん。 可愛いね! 残念だな···俺が先に出会っていたらよかったのに······」
「お前はチャラいからダメだろ? 傭兵が好みなのだろ?」
「いいえ、アイルだから·····」
「わぁ! 当てつけてくれるぅ! いいなぁ······」
アイルは目が泳ぐ。 どうすればいい?
そうだ! ヨルトが剣を見たいと言っていたのを思い出した。
「あっ! ヨルトさん、剣を······」
アイルはロングソードを抜いて柄の方を向けて差し出した。
「おぉ、わっ!」
重さで前に倒れそうになる。
「凄い······」
3人はロングソードを色々な角度から眺めたり、重さを確認したりしている。
アイルはその間にエリーンを盗み見しようとこっそり横を向くと、ガン見されていた。
アイルはエリーンと目が合い、ビクッとする。
「アイルさん、ちょっとあちらに······」
冷汗が流れる。
エリーンに部屋の隅に連れて行かれた。
エリーンは真顔で「妻って、どういうことですか?」と、小声で聞いてきた。
「あ···いや······これは······えっと······」
アタフタするアイルを見てエリーンはプッ!と、笑う。
「えっ?」
「この前のお返しです。 大丈夫ですよ。 フフフ」
「························」
エリーンにこんなところがあるとは思わなかった。
「おい! アイル、ちょっと来てくれ」
「は···はい!」
助け船とばかりに、エリーンの傍を離れた。
アイルの新しい一面が見れて、エリーンはとても嬉しかった。
楽しそうに剣について話し合うアイルを微笑ましく見つめていた。
その日の夜、いつもならアイルは窓辺に座り表を見張るのだが、男達から気持ちよさそうに眠るエリーンを守るようにベッドにもたれて座るアイルの姿があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日から5人の旅が始まった。
アイルは先を急ぎたかった。 しかしヨルト達に頼まれたというのもあるが、知り合ってしまった以上、彼らを放っておくことは出来なかった。
ベネク山に近づくにつれ、デビルが現われる可能性が増えてくるからだ。
エリーンを馬に乗せ、他の者達は歩きだ。
「私も歩きます」
「いいから乗っていろ」
それを聞いたヤムスがクスッと笑う。
「アイルさんはリンちゃんに甘いな」
「もしかして、お腹に赤ちゃんがいたりするのか?」
「えっ? 本当? それは大事にしないと!」
ヤムスとナパルが茶化すと、アイルとエリーンは真っ赤になった。
「あ···歩きます」
「そ···それもいいかもな」
アイルはエリーンを下ろしてあげた。
前を歩くヤムスとナパルは、チラチラ後ろを振り返りながらニタニタ笑っている。 ヤムス達はアイル達がその度に真っ赤になるのが面白くてたまらない。 リンちゃんを取られた腹いせもあるが······
エリーンが小声で話す。
「やっぱり次は兄妹で······」
「うん」
アイルも大きく頷いた。
◇
その日の夜は野宿だ。
エリーンはフードを深くかぶり、岩の隙間に潜るように眠る。
デビルに見つかるので火を焚けない。
三人に説明すると、納得してくれた。 ただ火が焚けないと、獣に襲われる可能性がある。
この辺りには狼のような群れで襲ってくる獣はいないが、単独で行動する猛獣はいるのだ。
交代で見張りをしていたが、ナパルが見張りの時、アイルは獣の気配を感じた。
「リンを頼む」
そう言い残して獣の気配に方に向かう。
少し先の木の上にヒョウがいた。 こちらをじっと見ている。
アイルが気を入れて睨むと、スルリと闇の中に消えて行った。
その時、デビルの気配がした。
まずい! みんながいる方だ。
急いで向かうとナパルが応戦しているのが見えた。 急ごうと思ったが、上からもう1体のデビルの気配を感じる。
「くそっ!」
どこだ! 気配を探る。
いた!! アイルは飛び上がり、一度木をクッションに再び飛び上がると、空にいるデビルをスパン!と真っ二つにした。
急いでみんなの所に戻ると、フードを深くかぶって小さくなっているエリーンをヨルトとヤムスが覆い被さるように護り、ちょうどナパルがデビルの首を切り落とし、黒い霧となって消えた所だった。
辺りにデビルの気配はもうない。 アイルは胸をなでおろし、ゆっくりと近づいた。
「アイル! お前どこに行ってたんだ!」
「すみません。 リン、大丈夫か?」
「はい」
「すまなかった。 皆さんもありがとうございます」
頭を下げると、みんな一様に「いや···」と、逆にばつが悪そうにした。
◇
翌日は一日中ナパルの自慢話を聞かされ、ヤムスとヨルトはうんざりしながら歩く。
その日の夜はデビルは現れなかったが、次の日とその次の日に1体づつ出た。 しかしアイルが難なく仕留めて事なきを得た。
その先からは牧場や農場がポツポツとあり、野宿せずにトルデーン国に入ることができた。
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〈主人公〉
レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ
〈ヒロイン〉
エリーン・トレーディング = (偽名)リン
〈鍛冶師〉
兄 ヨルト・デーン
弟 ヤムス・デーン
〈傭兵〉
ナパル・フィッシャー
〈元友人〉
ゴルド・レイクロー
〈先生〉
トム·ハミルトン (元将軍)
エリーンは可愛いから、皆から狙われますね
( ゜ε゜;)
デビルからも狙われているし····
(;^_^A




