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10章 運命の出逢い

現在に戻ります。

アイルが森の中で休んでいると、女性の悲鳴が聞こえてきた。

10章 運命の出会い





――― 現在 ―――



 アイルはゴルドから逃れ、森の中で休んでいたがなかなか眠れない。 ゴルドに頭を吹き飛ばされた兵士達の姿が頭から離れない。


 自分が起こした風に体を傷つけられていく兵士達の姿が心を締め付ける。




 彼らは大丈夫だろうか······




 国王に懇願されたのに、何もせずに逃げてきた。 あの国は、あの国の国民は、ゴルドに翻弄されていくのだろうか······




 彼らを見捨てて、逃げてきて良かったのだろうか······




 しかし、あの場にいても、何もできない。 ゴルドには敵わない。 それどころか、自分がいる事で更に彼らを傷つけるだけだ。



 ずっとそんな堂々巡りをしているうちに、東の空が白み始めた。





「きゃぁ~~~~っ!!」


 遠くから女性の声が聞こえて、飛び起きた。



 どこだ?!



「いやぁ~~~~!!」


 アイルは声のする方に走り出した。




 いた!


 森の中を女性が馬にしがみ付き、デビルから逃げている。 それも今まで見たこともないほどの凄い数のデビルだ。



 アイルはクン!とスピードを上げた。



 後ろの方のデビルに追いついた。 アイルは腰の剣を抜いて飛び上がり、ザザン!と2体のデビルを同時に切り裂き、返す剣でもう1体の首を斬る。 


 そのまま木の幹に足を着いて前に飛ぶと、ザザッと葉が舞い落ちる。 その葉を舞い上げながら前にいるデビルの背中を踏み台にしてさらに上に飛び上がり、上のデビルを切り、降りざま、先ほど踏み台にした1体を切り裂く。


 一度地面に降りて走りながら1体、2体と切っていき、再びジャンプして次々と黒い霧に変えて行った。 


  しかし、なぜかデビルたちはアイルに目もくれず、女性を目指している。



 女性を乗せた馬が森を抜けた。



 女性を追うデビルはあと4体。 他にいないか、気配を探る。 右後方に1体いる。

 少しスピードを落とし、近づいたところで、振り返りざまに胴体を切った。 すぐさま前の4体を追う。




 ここからは草原。 デビルが直ぐに女性に追いついてしまう。


 今度はロングソードを抜き、ダッダッ!と2歩で追いついた。 ロングソードを最大限に長く持ち、下から1体を切り裂き、そのまま飛び上がり、もう1体の胴体を真っ二つにする。



 あと2体。



 アイルはピィッ!と口笛吹き、デビルの気を引く。 後ろの1体が思わず振り返ったところを切り裂いた。



 あと1体。 



 デビルが伸ばす手が女性の髪を掴もうとしたその時、彼方の山の上から朝日が顔を出した。

 明るい日差しが辺りを包む。 デビルはそれに気づいて慌てて向きを変え、森に帰って行った。




 女性は既にデビルがいなくなった事に気づかず「キヤ~~キャ~~!」叫びながら走り続ける。 しかし馬も既に限界だ。 口から泡をふきながらあえいでいる。 



 もうすぐ倒れるだろう。



 アイルはタン!と、飛び上がり、女性の後ろに飛び乗り、女性の手の上から手綱を掴む。

 しかしパニック状態になっている女性はアイルの手を振りほどこうと必死で暴れる。



「キャァ~~~~!!」

「大丈夫です。 もうデビルはいません」

「キャァ~~ッ!!」


 夢中で聞こえていない。


「落ち着いてください。 私はデビルではありません!」


 ふっと女性の力が緩む隙に「ドォ~ドォ~」と馬のスピードを落とす。 馬は安心したようにブルルと鼻を鳴らして、歩みを緩めた。




 女性は顔を上げた。 どうやら目を閉じていたようだ。 よく馬から落ちなかったなと、感心する。



「大丈夫ですか?」

 

 女性は振り返りアイルを見上げた。 16歳くらいか。

 その顔は涙と鼻水とヨダレでグチャグチャだったが、見上げるパッチリとしたグリーンの瞳は吸い込まれそうで、汚いどころか美しく感じた。



「······あっ!」


 アイルを見上げていた女性は、なぜか慌てて前を向いた。

 女性は自分の顔が汚れている事に気付いたのか、洋服の袖で顔を拭いてから、再び振り返った



 やばい、仕草が可愛い



「どなたが存じ上げませんが、助けていただきまして、ありがとうございます······あのう······そのお面、ステキですね」



······お面って······取って付けたように······



 しかし、彼女なりの気づかいのように感じた。


「本当にもう大丈夫なのですか?」


 女性はアイルの脇から後ろを覗き込んだが、バランスを崩して落ちそうになる。


「きゃっ!」


 アイルはすかさず女性を受け止めた。



 若い女性の体をさわるのは初めてだ。 とても軽くてとても柔らかい。 思わずコホンと咳払いをする。



「あ···何度もすみません!······ずっと馬に乗っていたので、足に力が入らなくって······」


 顔が真っ赤になっている。 すみませんと言って、また耳まで赤くなった可愛い顔で振り向いて見上げてくる。



 アイルは顔が熱くなるのを感じた。



「こんなに長く馬に乗って走ったことがなくって···あっ! 乗馬は得意な方なんですよ。 遠乗りもよくするんですが、こんなに長い間、全速力で走らせるようなことはなかったんで······」


 ずっとアイルを見上げながら、聞きもしないことをよくしゃべる。



 アイルは女性の頭を掴んで、クルリと前を向かせた。



「あ···そうですね。また落ちそうになるといけませんものね」


 一人で納得している。


「前向きのままで話して聞こえるのかしら···」


 心配そうにつぶやくので「聞こえている」と、答えてあげた。



「まあ、良かったわ。 あっ···あんな恐ろしい森の中に私が一人でいたのを不思議に思われるでしょうが、実は護衛が30人いたのですが、みなさんは······私を逃がすために······」


 女性が泣き始めたのが後姿でも分かる。 よほど怖い思いをしたのだろう体が震えている。



 その時、グゥ~~~キュルキュッルと、お腹が鳴る大きな音が聞こえてきた。


 女性が恥ずかしそうにお腹を押さえてワタワタしている。 きっとまた真っ赤になっていることだろう。


 彼女の感情は、後ろから見ていても手に取るように分かって面白い。



「あそこの川で魚でも取って食べましょう」

「はい!」


 女性はまた振り返ってニッコリしながら答えるが、笑顔に反して目には涙の後がついている。



 再びアイルは顔が熱くなるのを感じた。



 ◇



 川に着き、先に馬を降りて振り返ると、女性が馬からうまく降りられなくて四苦八苦していた。 


 女性はそんな事にも苦労する事に気づかなかった。 

 アイルは戻って抱えて下ろしてあげた。


「キャッ!······あ···ありがとうございます。 何度もすみません! あっ!」


 深く頭を下げた拍子に、よろけて倒れそうになったので、また支えてあげる。


「あのっ···本当にお世話ばかりかけてすみません。 長い間馬に乗っていたので······あっ···さっきも言いましたよね」




 何だかとても可愛い。




 馬から鞍を外してあげた。 未だに息が荒く、ものすごく汗をかいている。


 馬を河原に連れて行くと美味しそうに水を飲みだした。 近くの草をむしって馬を拭いてあげようとして女性が目に入った。


 何だかすごいガニ股で、ゆっくりとこちらに歩いてくる。 馬に長時間乗るとそうなる気持ちは分かるが、ちょっと可笑(おか)しい。


 思わずプッ!と、笑ってしまった。


 ヤバいと思ったが、気付かれていなかった······歩くのに懸命で。




 やっとの思いで河原に辿り着いた女性は腰まである長い黒髪を片側にまとめて顔を洗い、水を美味しそうに飲む。


 アイルは、自分でも知らずに手を止めて女性をジッと見つめていたことに気づき、あわてて手を動かす。


 その時女性は「あっ!!」と、大きな声を出して急に立ち上がり、アイルの横に来て可愛い顔で見上げる。



 えっ? ちょっとタジタジしてしまう。



「私の名前は[エリーン・トレーディング]です。 よろしくお願いします!」


挿絵(By みてみん)


 また深く頭を下げるので、倒れないかハラハラしたが、今度は大丈夫だった。

 しかしエリーンはそのまま黙っている。 見ると、じっとアイルの顔を見つめている。



 えっ?



「あの······お名前は?」

「あっ······()······()の名はアイル」


 ちょっと男っぽくしてみた。


「アイルさんですね!」エリーンは嬉しそうに繰り返す「あっ!」


 

 今度はなに?



「お魚を取っていただけるのですよね。 私、薪になる枝を集めてきます!」


 エリーンは、まだ少し不自由そうな歩き方で、枝を集め始めた。




 何だか一生懸命で可愛らしい人だ。




 アイルが魚を取り、エリーンが枝に魚を刺した。

 するとエリーンが困った困ったと(つぶや)いている。


「どうしたのですか?」


 近付いて声をかけると、弾ける様に振り返る。


「あっ!······火打石がなくて······持っています?」



 アイルも持っていない。 仕方がないので薪に手をかざすと、ゆっくりと中から炎が出てきた。


「えっ? えっ? えっ?」

 

 気味悪く思われたらどうしようかと思ったが、魚を生で食べる訳にはいかないので仕方がない。

 怖がっていないかとエリーンの方をチラリと見ると、目をキラキラさせてアイルを見ている。


「す···凄いですわ! 炎を操れるのですね! 初めて見ました!」




 何だか逆に凄い人だ。



 ◇



 お腹もふくれて一段落した。



「あのう······」エリーンが遠慮がちに話し出した「もしかして傭兵さんですか?」

「はい」間違ってはいない。

「では、雇わせていただけませんか? あっ! 今はお金の持ち合わせありませんが、ロザリム国まで送っていただければ、必ず報酬をお支払いしますから」



 どちらにしても、このままエリーンを一人にするわけにはいかないと思っていたが、ロザリム国はかなり遠い。

 それに自分と一緒にいると、自分を探すゴルドの件にエリーンまで巻き込まれる可能性がある。


 ただ、どちらにしても近くの街まで行かなくてはならない。


 エリーンも持ち合わせがないと言っていたが、アイルもほとんど持っていない。

 三バカに急に連れ出されたので、ポケットに小銭が入っているだけなのだ。

 しかし、街の傭兵組合に行けば金を受け取れる。


 それによく見ると、エリーンの上等そうな薄いグリーンの服はあちらこちら破けていて、護衛のものだろう血もあちらこちらに付いている。 服も調達しなければならない。



「とりあえず、どこかの街まで行きましょう」

「はい!」


 エリーンは嬉しそうに返事をした。




 ここから一番近いのはエルオゼア国だが、ゴルドから逃げてきた国だ。


 近づきたくはない。


 


少し遠いが東のトルデーン国に向かう事にした。 トルデーン国の南にロザリム国がある。



挿絵(By みてみん)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


〈主人公〉

レイス・フォルト = (偽名)アイル = (あだ名)エンデビ


〈ヒロイン〉

エリーン・トレーディング


〈元友人〉

ゴルド・レイクロー(悪魔に心を乗っ取られた男)




運命の出逢いを果たした二人。

新たな旅が始まります。

(*⌒∇⌒*)

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