そして、現代へ 5
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完結まで、残り3話。
パエラは、相変わらずメリシャの中に霊体として住み着いている。フィルから定期的に力を分けてもらうことで、割と自由に行動できるのだが、妲己たちのように九尾の分体を依り代にしてメリシャから離れることはできなかった。
パエラは死んだ時に自らの血を介してアラクネの力をメリシャに譲った。そのため、パエラの魂はメリシャと融合しており、分離は不可能なのだろうというのがフィルの見立てである。
そして、フィルがパエラに九尾の力を与えてきた副作用だと思われるのが、メリシャが全く老いないことだ。
いくらアルゴスの先祖帰りであっても、メリシャは神獣のような生物の理から外れた存在ではない。そのメリシャが20歳そこそこの外見を保ったまま、すでに4千年以上を生きているのは、パエラと魂が融合していることで九尾の力がメリシャにも作用しているとしか考えられない。
…まぁ、真相はどうであれ、養親であるフィルとリネア、そして姉貴分のパエラからすれは、メリシャがいつまでも健やかでいてくれるのなら、それでいいのだが。
ちなみ新たなサエイレム王国でメリシャは、表立った役職には就かず、かつてパエラが担っていた『フィルの影』となった。
愛娘にそんなことはさせられないと、過保護なフィルは当然反対したが、メリシャ自身が強く望んだ上、パエラからも推薦され、自分がフォローするとまで言われては、フィルも折れざるを得なかった。
フィルが女王として立ち、リネアが女王妃として支える…その影で、メリシャはパエラとともに暗躍した。女王でいた時よりも生き生きとした愛娘の姿に、後にフィルもメリシャの適性を認めることになる。
パエラ仕込みの操糸術と体術に、ラミア族の薬学を駆使するメリシャと、霊体であることを利用し何処にでも潜り込むことができるパエラ。そしてふたりは離れていても容易に意思疎通ができる…諜報役としてはまさに反則級のペアであった。
メリシャとパエラの活躍は、かつての王国でのパエラの活躍をはるかに凌駕し、まさに『フィルの相棒』としてサエイレム王国の安定を支えた。
そのメリシャも、今はフィル達と一緒に市井に溶け込んで平和な生活を楽しんでいる。今もたまに何日か出掛けることがあるが、その後には、有力者の急死と裏の企みが世間を賑わせたりするとか…。
「ちょうど良かった、懐かしいもの買ってきたよ」
抱えていた箱をそっとテーブルの上に置いたフィルが、中のパティナを取り出すと、普段冷静な玉藻まで、ほぉと声を上げた。
「フィルさま、これってもしかして…テミスさまのパティナ?」
「そう、味見させてもらったけど、ちゃんと昔の味だよ。早速、みんなで食べようよ」
タイミングよくリネアがキッチンから取り皿やスプーンが載ったトレイを運んでくる。そして、手際よくパティナを取り分けると皿によそってそれぞれの前に置いた。
「パエラは、こういう美味いものを食えなくて残念じゃのう」
「あー、玉藻ちゃん、そういう意地悪なこと言う?…でも、メリシャが食べたものは、あたしにも自分で食べたみたいに感じられるから、いいんだもんね。玉藻ちゃんと違って、あたしはテミスさまの頃の元祖の味を直接知ってるしー」
メリシャに抱き着くようにしてドヤ顔を見せるパエラを横目に、玉藻は自分のパティナーにスプーンを入れ、口に運んだ。
「おぉ、これは…確かに懐かしい味じゃ…」
滅多に表情を崩さない玉藻が、口元に笑みを浮かべる。妲己もまた満足そうに目を細めた。
「メリシャ、早く食べようよ!」
「はいはい、じゃ、いただきまーす!」
昔、サエイレム港の食堂でこうしてパティナを食べたっけ……フィルはその様子を、穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。
「そうそう、録画しとした番組、見る?」
「あぁ、そうだね。みんなで見てみようか」
「あら、懐かしい話みたいじゃない。あえて詳しい記録を残さなかったフィルのせいでもあるけど、色々と珍説も多いみたいね」
「えー、わたしのせいなの?」
メリシャがリモコンのスイッチを押すと、テレビ画面に番組の続きが映し出される。番組では遺跡をバックにリポーターが歴史学者と会話していた。
次回予定「そして、現代へ 6」




