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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 終章-食われて始まった建国の物語
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食われて始まった建国の物語 2

 翌朝、セイレーンの島を飛び立ったティフォンは、北へ向かっていた針路を東へと変えた。このまま飛べば、やがて陸が見えてくるはず。そして、大河ホルムスに沿って遡れば、サエイレムだ。


 半日としないうちに、水平線に大陸の影が見え始め、やがて黄色く乾いた大地と、緑を敷いたような深い森の鮮やかなコントラストが眼下に広がった。

 少し南には、かつて見慣れていた姿と変わらぬ、豊かな水量を誇る大河ホルムスの滔々たる流れが横たわっている。


 もうすぐ、サエイレムに着く。そう思ったフィルの胸の中は、期待と不安が半々だった。


 ここはフィルたちが生きた時代から千年以上も前。当然まだ帝国はなく、その前身である共和制国家も存在しない…神話の時代と人の時代の境目となる時代、一体、そこに何があるのか。人々はどんな暮らしをしているのか。魔族は…?

 もしも、この頃から人間と魔族が争っていたのだとしたら、どうすればいいのか。


 ティフォンがスッと高度を落とし、丘の影に隠れるように着地した。


「何か見つけた?」

「はい、この丘の向こうの川辺に、集落のようなものが見えました」

 皆を降ろし、竜から狐人の姿に戻ったリネアが言う。


 なだらかな傾斜の丘を登り、その上に立つ。その景色には、確かに見覚えがあった。サエイレム王国がその終焉を迎えた後、元の都市国家に戻ったサエイレムを眺めた、あの場所だった。


 右手には大河ホルムスの流れ、左手には北にそびえたルブエルズ山脈の麓まで転がる森林地帯、その間のさほど広くない平地に、人が住んでいると思しき集落があった。


 かつてのサエイレムのような数万の人口を持つ城塞都市ではもちろんない。

 身を寄せ合うように立ち並ぶ家の数は百にも満たず、その家もまた掘立小屋に近いようなもの。集落の周りも、簡単な堀とそこで出た土を積み上げた土手で囲まれているだけである。


「フィル、見て!」

 メリシャが指さした先、集落の近くに人影があった。だが、その様子はのんびり見ていられるものではなかった。


「あれは、オルトロス?!」

 かつて、フィルの命を狙う者たちの手でサエイレムに持ち込まれた双頭の犬型魔獣、オルトロスが集落に迫っていた。それをなんとか追い返そうと、槍のようなものを持った10人ほどが立ち向かっている、そんな状況だった。


「行こう!」

 即座にフィルは言い、丘の上から駆け出した。竜人化したリネアもすぐに続き、メリシャとメディアも二人を追った。


 魔獣を相手に、木の棒の先を尖らせただけの槍で戦えるはずもない。オルトロスの爪と牙で、身体を切り裂かれた男たちが地面に転がる。


「フィル様、私が戦います。フィル様は怪我をした方々の治療を」

「わかった!リネアも気を付けて」


「メディア、わたしと一緒に治療をお願い」

「はいですわ!」


「メリシャ、オルトロスを糸で拘束してください」

「わかった!」


 メリシャの粘着糸がオルトロスの四肢に絡みつき、足を取られたオルトロスがドウッと音を立てて横倒しに倒れる。

 リネアが腰を落として、竜の鱗で覆われた拳をオルトロスの横腹に突き込むと、ギャオゥという叫びとともに、オルトロスの口から血と胃液が零れ、四肢を痙攣させた。


 二人が戦う後ろでは、フィルとメディアが、オルトロスに薙ぎ倒され地面に倒れた者たちに駆け寄っていた。


「リネアさまと同じ方々ですわ…」

 メディアは、狐耳が生えた男性の姿に少し驚きながらも、持っていた治癒薬を男性の口に流し込んだ。胸を切り裂かれていた男性の出血がたちまち止まり、苦しそうな呼吸が穏やかになる。


 怪我をした者たちには、狐人と人間の両方がいた。どうやらこの集落には、両方の種族が住んでいるようだ。サエイレムはその始まりから、人間と魔族が共に住む場所であったらしい。

 だが、感慨にふける暇もなく、フィルは重傷の者から順に治癒をかけていく。


 ほどなくしてリネアの拳がオルトロスの二つの首の根元に打ち込まれ、頸椎を砕かれたオルトロスは、ビクンと痙攣してその動きを止めた。

次回予定「食われて始まった建国の物語 3」

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