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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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ヒクソス王朝建国 3

 メンフィスと南部諸州との間に領地を持つ州候たちは、アセトの魅了にかかっていたとは言え、領地が戦場となることもなく、今回の騒動で大きな被害を受けていなかった。


 メネス王家が大きく力を落とした状況で、彼らがこのまま大人しく従ってくれる保証はない。事実、これを機に勢力を拡大しようという動きを見せる州候もいる。あわよくば、王家に取って代わろうと考えるものが出かねない状況だった。


 今は国の再建が第一。内戦など起こしている場合ではないというのに、このままではすでに混乱している南部諸州も含め、上下メネスは分裂し、人間同士で相争う状況となるだろう。


「いざとなれば、国の面子よりも民の暮らしが大事よ」

「はい。わかっております」

 フィルの忠告に、ハトラは恭しく頭を下げた。


 それからおよそ半年後。ヒクソスの女王であったメリシャが退位し、その後継としてシェシが即位する日がやってきた。


 即位の式典には、ヒクソスの各部族の長たち、そしてホルエムたちメネス王国の要人たちも招かれていた。

 もちろん、その中にはメディアの姿もある。退位するメリシャの側に、フィル、リネアととともに控える姿は、その異形も相まって参列者の目を引いていた。


 ヒクソスには、帝国のように儀礼化された戴冠の作法があるわけではない。後継者が自ら王であることを宣言する。それだけだ。それは、そのまま「王」という立場が決して絶対のものでなかったことを示している。

 一度は王になったとしても、部族長たちの反抗によって王が挿げ替えられることも、ヒクソスの歴史の中では珍しい事ではなかった。


 メリシャが行ってきたヒクソスの国家改革により王権の強化が進み、部族長たちの力は大きく抑えられているとは言え、力が強い者が上位というヒクソスの価値観は、そう簡単には無くならない。


「新たな女王陛下に!」


 王城の前庭に臨む檀上に新女王となるシェシが姿を見せると、居並んだ兵たちが一斉に剣を捧げて忠誠を示す。整列しているのは直轄軍1万のうち特に古参の精兵たち1千だ。


 かつてヒクソス軍を構成していた各部族の戦士たちは、地域ごとの国境守備や獣の駆除、治安維持などに当たる州軍とし、外国との争いに備えるのは王直轄の国軍の役割となっている。そして、国軍のもう一つの役割は、国内における反抗勢力の鎮圧だ。

 王自身が強い戦士である必要はない。だが、王権を盤石なものとするために、強い力が必要なことに変わりはない。


 フィルたちが去った後でも、王直属の国軍が睨みをきかせているうちは、シェシの政権は安定するだろう。

 シェシは優れた文官であり内政向きの能力の持ち主である。引き続き宰相を務めるサリティスとともに内政に力を注ぐことができれば、シェシはその能力を遺憾なく発揮し、ヒクソスを更に繁栄させることができるはずだ。


「メリシャ、お疲れ様」

 新女王として即位の演説を行うシェシの背を見つめるメリシャに、フィルが囁いた。


「ほんと、疲れたよ。突然、女王になれなんて言うんだもん……まぁ、フィルに無茶振りされるのは、いつものことだけど」

「メリシャならできると思ってるからだよ。わたしの自慢の娘だもの」


「メリシャ姉さまは、とても素敵なのですわ」

「ありがとう。メディア」


 式典が終わって数日後、ヒクソス王城にテトたち3神がやってきた。

 アペプとの戦いの後、その巨大な遺骸はオシリスによって冥府に落とされた。アペプの遺骸は、すっかり荒廃した冥府を復元するエネルギーとして利用されるのだ。テトとセトも、冥府に降りてオシリスの手伝いをしていた。


「ようやく終わったわい」

 ぐったりと長椅子に横たわっていたテトは、リネアがお茶とお菓子を持ってきたのに気付いてぴくりと耳を震わせて、身を起こした。

次回予定「ヒクソス王朝建国 4」

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