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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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神話の終焉 2

 …捌き切れない…!

 フィルは咄嗟に背のリネアをかばって身体を捻る。


「ぐっ…!」

 数発の光弾が脇腹を抉り、九尾の顔が苦痛に歪んだ。


「フィル様っ!」

「だ、大丈夫…大したことないわ」


 リネアが悲鳴に近い声を上げ、腹側の白い毛皮が血に染まる。傷としてはまだ浅い。この程度はすぐにでも治癒できるが、このまま何度も攻撃を受ければジリ貧だ。

 すぐさま治癒を終えた九尾は、アセトの死角に回り込むように駆けて攻撃の狙いをつけにくいよう立ち回る。


 不規則な軌道で駆け回りながら、次々に狐火をアセトに投げつけ、九尾はアセトに肉薄した。そして、至近距離からすれ違いざまに黄色い煙のようなものをアセトの頭から浴びせかけた。


「フィル様、今のは…?」

「九尾は毒の霧を吐けるの。周りに味方がいると使えない技だから、こういう時でないと使えないけどね」


 全身を毒霧に包まれたアセト…だが…


「無駄か…」

 悔しそうにフィルはつぶやいた。アセトが苦しんでいるようには見えない。


「薬と毒を使うわたくしに、毒霧なんて効くとお思いですか?」

 アセトは、くすくすと笑いながら杖の一振りで毒霧を振り払った。


 火力不足だ。人間の軍勢や魔獣程度の相手なら圧倒的な力を持つ九尾だが、同じ神獣レベルの相手に対しては分が悪い。先代ティフォン相手にだって手も足も出なかった。


 …どうする…どうやって戦う…フィルは必死に考える。しかし、アセトに通じるような攻撃を思いつかない。ティフォンのブレスのような絶対の火力は九尾にはない。


「フィル様、やはり私が…」

「ダメ、お願いだから、ティフォンになっちゃダメ…」

 もしもティフォンがアセトに操られるようなことになったら、フィルはリネアと戦わなければならない。それだけは絶対に嫌だ。


「しかし、このままでは…」

「…何か…何か方法が…」


「フィルさま!」

 突然、目の前に現れたのはパエラだった。同時に九尾の身体が強く引っ張られてアセトから離れる。パエラの糸が九尾の胴体に巻き付いていた。


「ちょっ…、パエラ、一体何を?!」

 慌てるフィルには答えず、パエラは後ろを振り返って声を張り上げた。


「メリシャ!いいよ!」


「撃てぇっ!!」

 メリシャの叫び声が響き、ドンッと大きな破裂音ととともにバリスタから矢が射出された。

 矢は一直線に飛び、アセトの胸元に深々と突き刺さる。いつの間にか、射程距離ギリギリまで近づいていた弩砲戦艦からの射撃だ。


 人の手による攻撃が自身を貫いたのにはアセトも驚いたようだ。

 しかし発射された矢は唯の一本。今のアセトの巨体からすれば小枝が刺さった程度のもの。それだけでは致命傷とはなり得ない。


「こんなものが、わたくしに通じると?」

 うすら笑いを浮かべながら刺さった矢に手をかけ、引き抜こうとしたアセトだったが、突如、その身体が硬直した。


「な…これは…!」

 思いがけない身体の異常に、アセトは困惑の表情を浮べた。


 …アセト、再びひとつに戻りましょう。


 アセトの頭の中にイシスの声が響いた。一体、どこから…アセトは慌ててイシスを探すが、弩砲戦艦の上にも、九尾の側にも、どこにもいない。


 …無駄です。わたくしはすでにあなたの中にいるのですから。


「イシス…どうやって…?!」

 アセトは杖を取り落とし頭を抱えた。意識が浸食され…気を抜けば自分が自分でなくなってしまいそうな強烈な不快感。


「アセト、撃ち込まれた矢を良く見た方がいいんじゃないかな」

 九尾の側に寄り添いながら、薄く笑ってパエラが言った。

次回予定「神話の終焉 3」

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