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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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湖上の戦い 3

「フィル様、いつまで高見の見物をなさるのでしょう。まさかアペプが怖くて戦えないのですか?」


 ティフォンやセトが戦う中でも、戦いに加わることなく、じっと上空から見下ろしている九尾に、アセトは嘲笑を向けた。


 ティフォン、セト、九尾、この中で戦闘力が一番低いのは九尾だ。先ほどのセトのように九尾を抱え込んでしまえば、ティフォンはもう手出しできない。


「そうね。…そろそろいいかな」

 ぼそりとつぶやくと、九尾は水面近くまで降りた。

 そして、いつもの狐火ではなく、白い煙のようなものをまとった。


 そのまま、煙の中に身を隠すようにしてアペプの周囲を駆けていく。

 九尾の駆けた後には、長大な尾のように煙がたなびき、水面上を白く覆っていく。それは、オシリス神殿の地下でフィルがアセトに襲われた時の再現のようでもあった。


 挑発にのらず、まともに戦おうとしないフィルの態度に、アセトは小さく舌打ちする。


 周囲はすでに白く染め上げられ、時折、見え隠れする九尾の姿に、アペプが強酸を浴びせかけるものの、全て空振りに終わっていた。

 濃い煙は光も遮断し、白い煙の中なのに夕暮れ時のように薄暗い。


「さぁ、少し遊びましょうか」

 声とともに、アセトの目の前にポッと狐火が灯った。


 それは、一定のリズムを刻むように左右に分裂していき、アセトを取り囲むように九つの狐火が浮かんだ。

 そして、軽く弾むような動きとともに膨らみ、九体の九尾の姿を作り上げる。


 九尾の能力…戦いの際、フィルは狐火を多用するが、それは直接的な戦力として使えるのが、狐火か、その体躯による直接攻撃しかないからでもある。


 竜種と比べれば低い戦闘力しか持たない九尾が、神獣として位置づけられているのは、その能力の本質が別であるから。

 九尾の力の本質、それは地脈から吸い上げた力の制御能力に長けていることだ。ティフォンにもできない、他者への力の譲渡や治癒ができるのも、その能力の一端である。


 九尾が見せた分身…それは幻ではなく、フィルは実際に自身の力を九つに分割した。一体一体の力は弱くなるが、それぞれが意思を持ち、独自の判断で動く分身である。


 九尾の分身たちは、それぞれ煙に身を隠しながら、不意打ちのように狐火を浴びせかける。攻撃はアペプの額から突き出したアセトに集中していた。


「っ!…鬱陶しいですわね」

 アペプは頭部を全て水の中に沈める。アセトの姿をしていても、その実体はアペプの一部、分身の放つ狐火程度の火力では、かすり傷にもならない。


 そして、それはフィルもわかっているはず。意味の無い攻撃をフィルが仕掛けているのは、時間稼ぎだとアセトは考えた。

 こうしている間にも、湖の水位は下がり続けている。深場に移動したとしても、いずれは身を沈めることもできなくなる。


(アペプ、一旦引きますわよ)

 アセトは、今のうちにこの盆地から脱出した方がいいと考えた。

 このまま戦っても、水が引いて自分たちに有利となるまで、フィルたちは時間稼ぎを続けるだけだ。


(まだセトを殺してない)

(焦らなくても、セトは必ずわたくしたちを追ってきますわ)

 アペプは復活したのだ。無理に不利な状況で戦う必要はない。再び大河に身を潜めれば、いつどこを襲うのかはこちらの思いのままなのだから。

 一瞬、不満げな感情を示したものの、アペプはアセトに従ってその頭を上流へと向けた。


 だが、アセトもアペプも気づいてはいなかった。

 …煙に紛れて戦っていた、その最中に、九尾の分身がいつの間にか一体減っていたことに。

次回予定「変身 1」

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