表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
466/489

湖上の戦い 2

「フィル様、本気ではありませんわね」

 呆れたようにアセトが言う。

 ティフォンとセトは攻撃に届かない上空で見守るばかりで、一向に攻撃してくる様子がない。本気で戦う気がないのは明白だった。


 わざわざこんな場所に誘い込んでおきながら、戦う気がないというのはどういうことなのか。…時間稼ぎ…だとしたら、何を待っている?

 水面から高く跳び上がったアペプがセトを狙うが、セトは高度を上げて避けるばかりでやはり反撃してこない。


 そうやってしばらく、互いに牽制に近い攻撃を繰り返していると…


(水が…引いている?)

 アセトは、いつの間にか湖の水位が下がっているのに気が付いた。見回してみれば、湖の周辺から水が引いて陸地となり、すでに水面の大きさは最初の半分ほどまで小さくなっている。

 元々さほど深い湖ではなかったが、このまま水位が下がれば水中に身を隠すこともままならなくなる。

 

「…なるほど、こういうことでしたのね」

「えぇ。ここは狩場。アペプを水中で叩くのが難しければ、陸に引きずり出せばいい」

 アペプが自ら陸に上がらないなら、水面を陸地に変えればいい。


 元々ここは、盆地の出口を塞いで水を溜めた仮初の湖だ。ティフォンのブレスで、盆地の出口を塞いでいた土石を吹き飛ばせば、水は一気に流れ出し、盆地は元の湿地に戻る。


「…ちっ」

 小さく舌打ちしたアセトは、まだ水深がある湖の中心部に向かって移動を始めた。


 その前にセトが立ち塞がる。

「セト…!」

「逃がさぬよ」

 すでに付近の水深はアペプが辛うじて身を沈める事ができる程度。水に潜ろうが、水面から巨体の影が透け、完全に居場所を隠すことは不可能なっていた。


 セトが後脚の爪を広げてアペプに掴みかかり、その背の一部を抉る。鱗が剥がれて鮮血が噴き出すが、アペプはかまわずその強靭な体躯をくねらせて鞭のように尻尾を振り上げ、セトを叩き落そうとした。


「次が来る!」

 尻尾の攻撃を避けたセトに、フィルの鋭い声が飛んだ。アペプが、すかさず強酸を吐きかけてきたのである。


 慌てて回避したセトだが、無理な回避のせいで大きく姿勢が崩れたところを、アペプは見逃さなかった。翼と脚を捨てたアペプにとって、その代わりに手に入れた柔軟な体躯はが最大の武器である。

 大きく身体を伸ばしたアペプは、セトの脇腹に噛み付く。


「グゥッ!」

 セトが痛みを呻く。だが、アペプの攻撃はそれで終わりではなかった。噛み付いたまま力任せにセトを引き寄せ、ぐるりと自らの懐に抱え込むようにして蛇体を巻き付けた。


「セト!」

 セトを助けようとアペプにティフォンが襲い掛かった。セトもティフォンに呼応して、自由になる首を動かしてアペプの胴体に食らいつき、その鱗と肉を引きちぎる。


 アペプの身体から流れた血が水面に黒く広がっていくが、セトを締め上げるアペプの力は緩む気配を見せない。

「セト、少しだけ我慢してください」


 ティフォンが細く絞り込んだブレスでアペプの蛇体を薙ぐ。ざっくりとアペプの身体に深い裂傷が刻まれ、さすがに締め付ける力が緩んだところで、セトはアペプの拘束から抜け出した。


「ありがとうございます、リネア様」

「セト、大丈夫ですか?」

「はい、戦えます」

 アペプに噛みつかれた脇腹からは血が滴っているが、セトは空中で体勢を立て直した。


 セトを逃したアペプは、獲物に執着することなく湖の中心へと向かう。

 浅場で戦う不利はアペプ自身がよくわかっている。一旦仕切り直すつもりだ。


 アペプは頭だけを水上に出し、身は水中に沈めているが上から見れば水中にくねる全身が見える。

 これまでのように水底に潜むには、すでに水深が足りないのだ。直接攻撃するのは難しいが身を隠すことはできない。

次回予定「湖上の戦い 3」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ