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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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アセトの望み 2

 …北の大陸も蹂躙し尽くしたら、そして…そして…わたくしは…何を…?


 アセトの脳裏に、その先の未来は何も浮かばなかった。なんとも言えない虚しさに、アセトは自嘲めいた苦笑を浮かべた。


 振り返れば、自分の生には裏切りと復讐しかなかった。自分を不幸にした者に復讐し、不幸に突き落とし、そしてまた自分も…少女の頃、神と呼ばれる者たちの目に止まってしまったことが全ての不幸の始まりだった。


 メーデイアに先に手を出してきたのは、神や英雄たちだ。それなのに、どうして自分がこんな生を歩まなければならないのか…そう思うと心の底に燻る怒りがチロチロと炎を上げる。

 しかし、その怒りをぶつける相手はもういないと思うと、怒り以上に諦めにも似た虚しさがアセトの胸に広がった。


 もし、…もしも望みが叶うというのなら…アセトは小さなため息を零した。

 故郷コルキスで平和に暮らしていた、あの幼い日に…。


「…母上、セトの気配がする」

 不意にアペプが言った。


「アペプ、ティフォンの気配はどう?」

「感じないよ」


 ティフォンの気配は、リネアの姿でいる時には感じられない。気配がないからと言って安心はできない…が、大河に身を沈めているうちは、こちらが有利。もし、本当にティフォンが近くにいないとしたら、セトを各個撃破するチャンスだ。

 …何かしらの罠である可能性は当然あるが…


 いや、とアセトは頭を振った。

 自分の望みも、敵の罠も、何を考えようと、セトたちを倒す以外の選択肢などない。アペプを復活させ、その一部になってしまった以上、もはや後戻りなどできないのだから。


「アペプ、セトと遊んであげましょう」

「いいの?」


「ええ」

 アセトが微笑むと同時に、アペプの巨体が大河の川底からふわりと浮き上がった。大きく身をくねらせ、濁った水中を水面に向かっていく。


「…?」

「どうしたの?」

 繋がっているアペプの感情が揺らいだのに気付き、アセトは眉を寄せた。


「セトが、離れていく」

「アペプ、セトの姿を確認したいわ。水面に出てくれるかしら」


 ざばりと音を立てて、アペプの頭部が水面に現れる。空を回すと、セトの姿はすぐに見えた。


 セトの方も気付いているだろうに、セトは北に向かってアペプから離れていく。背の上にはバステトとオシリスがいるようだ。だが、フィルとリネアの姿はない。


「アペプ、セトを追いかけなさい」

「うんっ!」


 大河の流れの中を、アペプは勢いよく進み始めた。

 北へ…大河の下流に向かって、セトは飛び続ける。アペプが泳ぐ速度はかなり速いが、空を飛ぶセトは速度を上げて引き離そうと思えばできるはずだ。

 

 そうしないのは、おそらく待ち伏せ…アセトはそう思った。


 作戦を考えているのは、十中八九フィルだろう。

 フィルにとって一番頭が痛いのは、アペプがどこにいるのかわからないということ。そのために、アセトはずっとアペプを大河の水底に潜ませていたのだ。


 セトを囮にしてアペプをおびき出し、どこかで待ち伏せているリネア…ティフォンと一緒に襲い掛かってくる…おそらくそんなところだろう。

 確かに2対1では不利ではある。しかし、アペプが水中に身を沈めている限り、セトやティフォンはその攻撃力を十分に発揮できない。水中には、強靭な爪も牙も届かないからだ。


 …ティフォンの吐くブレスなら届くかもしれないが、あれはそう連続は撃てない。いざとなれば、水中に身を隠して躱すことは容易だ。

 オシリス神殿では、ティフォンの不在に油断して陸上に上がってしまったが、その轍はもう踏まない。

 

 アペプの立てる波が大河の岸辺を洗い、徐々にセトとの距離が縮み始める。アペプの感情が高ぶっていくのがアセトにも感じられた。

次回予定「アセトの望み 2」

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