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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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青の狩場 1

「テト、大丈夫?」

 逃がしてしまったものは仕方がない。気持ちを切り替えたフィルとリネアは狐人の姿に戻り、オシリスと一緒にへたり込んでいるテトのそばに駆け寄った。


「あぁ、すまぬ。予は平気だ…」

 差し出されたフィルの手を取り、テトは立ち上がる。


「思ったよりも早かったではないか。…おかげで助かった」

「ギリギリだったけどね」


 同じように苦笑を浮かべたフィルとテトの後ろでは、竜人の姿をとったセトがリネアの足下に跪いていた。

 

「申し訳ありません。リネア様。奴を足止めしきれず…」

「いいえ、セト達が無事で良かった。私達が戻るまでアペプを引き付けてくれただけで十分です」


 アペプがテトたちのところに出現したということは、メリシャたちがいるアヴァリスは無事だということだ。

 

「フィル様、これからどうなさいますか?」

「そうだね…」

 フィルは、やや眉を寄せた。正直、今からでは大河に逃げ込んだアペプを追跡するのは難しい。イシスの感覚も、水底深くに潜まれては気配を捉えられなくなるようだ。


「オシリス殿、冥府の修復はどうなの?」

「そちらは終わっている。吾輩とて遊んでいたわけではないぞ」

 フィルに問われたオシリスは、顔をしかめて答えた。もちろん、フィルにはオシリスを責める意図など毛頭なく、ただ状況を知りたかっただけなのだが。


「すまんな。奴はアペプにしてやられたことが悔しいのだ」

 テトがフィルの耳元で囁くと、フィルは無言でフンと鼻を鳴らした。


「…それなら一度アヴァリスに戻ろう。メリシャたちとも相談したいし」

 フィルはそう言ってぐるりと全員の顔を見回す。誰も反対する者はいなかった。


 そうと決まれば、ぐすぐずしてはいられない。アペプが、いつどこに現れるかわからないのだ。

 

 再び青い竜に戻ったセトの背に全員が乗り、オシリス神殿を後にした。セトは大河に沿って一路北へ、アヴァリスに向かう。


 セトがアヴァリスの上空に到着すると、既にメリシャをはじめヒクソスの主立った者たちが王城の前庭に集まっていた。


「おかえり!」

 セトが地上に降りるが早いか、真っ先に駆け寄ってきたメリシャとパエラに、フィルとリネアは笑顔で応じた。だが、すぐに表情を引き締める。


 フィルがテトたちも連れて戻ってきたことに、メリシャも状況が変わったことを悟っていた。今後の相談のため、早速、王城の広間に場所に移す。

 フィルたちとメリシャのほか、シェシ、フルリ、ウゼル、そしてサリティスとシェプトが席に着いた。


「最初に紹介しておくわ」

 まずフィルが言った。そして、フィルの隣に現れた人影に、メリシャの顔色が変わった。


「アセトっ?!」

「まあまあ、メリシャ、落ち着きなよ」

 すかさずパエラがメリシャを宥める。どうやらパエラは、すぐに気配を察しフィルの隣に現れたのがアセトではないと気付いたようだ。


「メリシャ、驚かせてごめん。彼女はアセトじゃないよ」


「そう…なの?」

「えぇ、彼女はイシス。アセトと元々ひとつの魂だった片割れなんだって」

 フィルは、イシスに自己紹介を促す。


「わたくしの名はイシス。わたくしの半身であるアセトの行いについては、大変申し訳なく思っています」

 深々と頭を下げてイシスは言った。フィルの取りなしの後も不信感を隠さずにいたメリシャは、それを聞いてようやく肩の力を抜いた。


「皆、訊きたいことも多いと思うけど、まずは彼女の話を聞いて欲しい」

 フィルが言い、イシスはこれまでの経緯を語った。内容はフィルとリネアに話したの同じだ。


 彼女がこの地に来てイシスと名乗る前、メーデイアとして生きていた頃の話は、北の大陸を知らないシェシたちにとっては理解しにくいものであったと思う。

 しかし、皆が黙って耳を傾けていた。

次回予定「青の狩場 2」

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