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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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奇襲失敗 1

 イシス神殿跡を飛び立ったティフォンは、大河に沿って北へと飛んでいた。


 アセトの片割れであるイシスを連れ帰ってきたものの、どうすればイシスとアセトを再びひとつにできるのかはわからない。

 当のイシスにも策はないらしいのだが…そのあたりはテトやオシリスが何か知らないだろうか。


 しかし、自分達が帰るまでにテトたちがアペプの襲撃を受けていないかが心配だ。

 竜であるセトは簡単に倒されはしないだろうが、テトとオシリスは、かつてアペプと戦った時程の力を回復していない。フィルがやられたように、不意を突かれればどうなるかわからない。


「フィル様、まっすぐアヴァリスに帰りますか?」

「…うーん…どうしようか…」

 リネアに訊かれたフィルは小さく唸った。元々長く留守にするつもりはなかったが、アペプの居場所がわからないまま帰るのも、不安ではある。


(アセトは、オシリス神殿にいますわ)

 腰に下げていたチェトが小さく震え、フィルの頭の中にイシスの声が聞こえた。


「リネア、アペプの気配はわかる?」

「いいえ、私にはまだ感じられませんが…」

「そう…」


(イシス、あなたの気配はアセトも察知しているの?)

(わたくしがチェトの中に隠れている限り、アセトからは見つけられないと思いますわ)


 少し考えたフィルは、顔を上げて口を開いた。


「リネア、わたしが九尾になって飛ぶから、リネアは狐人の姿に戻って」

「フィル様、それは…?」


「イシスが教えてくれたの。アセトがオシリス神殿にいると」

「でも、それならこのまま向かった方が良いのではないですか?」


 背のフィルに半分だけ振り返って尋ねるリネアに、フィルは軽く首を振る。


「アセトは、たぶんティフォンとセトを同時に相手することを避けると思う。だから、ティフォンが近づいているとわかれば、また大河の中に逃げてしまうかもしれない」


「…そうなったら、また振り出しですね」

 大河に潜まれたら、いつどこを襲うかの主導権を完全に握られる。そうなったら、守る側はずっと警戒し続けなくてはならない。

 

「リネアがまだアペプの気配を感じていないなら、たぶん向こうもまだ気付いてない。だから、今のうちにリネアが狐人に戻れば、アペプはこちらの接近を感知できないと思う」


「わかりました…オシリス神殿に到着してから、またティフォンになればいいのですね」

「そういうこと、それじゃ…」

 フィルは、ティフォンの背の上で九尾の姿になると身軽に跳び下り、ティフォンの隣を駆け出した。イシスが宿ったチェトは、腰帯で九尾の首に下げられている。


「リネア、いつでもいいよ」

「はいっ」

 返事と同時に一瞬でティフォンの姿が消え失せ、狐人姿のリネアが空中に投げ出される。フィルはすかさずリネアの下に入り込み、落ちて来るリネアを柔らかな背中で受け止めた。


 リネアが、しっかりと毛皮を握るのを背に感じ、フィルは走る速度を上げた。


 長い黄金の尾をなびかせた九尾は、ティフォンにも引けを取らない速度でオシリス神殿を目指す。

 

「フィル様、オシリス神殿にアペプがいたら、戦うのですか?」

「うん。倒せるなら倒してしまいたいけど…リネアはどう思う?」


「私も早く倒すべきだと思います。メリシャたちを危険に晒したくありません」

「そうだよね…」


「フィル様…?」

 フィルの返事をやや歯切れ悪く感じたリネアは、心配そうにフィルに呼びかける。


「いや…ティフォンとセト、それにわたしが相手をすれば、さすがにアペプも分が悪いと思う。けど、アセトが何も策を考えていないってことはないと思ってね……前のことがあるから、万が一にも不覚を取らないようにしないと」


「今度こそ、フィル様には指一本触れさせません!」

「ありがとう、リネア」


「それに、オシリス神殿にはテト様とオシリス殿もいます。戦うとなれば手伝ってくれるでしょう」

「そうだね…その前にテトたちがやられてしまわないことを祈るよ」

 フィルは、そう言って走る速度を上げた。

次回予定「奇襲失敗 2」

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