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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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三神の策 2

「バステト、発動させても良いか」

「良いぞ。まずは内側だ!」


 オシリスがネケク笏を振ると、白いオベリスクが淡い光を放ち、正方形の中庭に内接するようにオベリスクを中心とする円筒状の障壁が立ち上がる。

 頭上までは覆われていないが、その高さは塔門や祝祭殿の屋根すら優に超え、アペプの巨体をもってしても乗り越えられないと思われた。だが、身を守るための障壁であるのなら、大切なのはその強度だ。


 神殿の建物が壊される音が徐々に近づき、遂に回廊の一部を突き破ってアペプが姿を現した。だが、眼前に立ちはだかる障壁の存在に気づき、その動きを止めた。


「バステト様、オシリス様、お久しぶりですわね」

 鎌首をもたげたアペプの額の上から、アセトはにこやかに挨拶する。


「貴様がアセトか」

 話もしたくない様子で顔をしかめるテトとオシリスに代わり、セトが応じた。


「あなたがセト様ですか。…はじめまして、わたくしがアセトですわ」

 優雅に微笑んで一礼するアセトの下で、アペプはセトを激しく威嚇している。今にも噛みつかんばかりに口を開き、忌々しそうな視線をセトに向けていた。


「さて、これは一体、何の真似なのでしょうか?」

 目の前にそびえる障壁を見つめて、アセトは問う。ドンッとアペプが障壁に体当たりし、障壁が衝撃に震えた。だが、破れる様子はない。


「オシリス、次は外側じゃ!」

 アセトを無視してバステトが言うと、オシリスはネケク笏を高く頭上に掲げた。オベリスクの発光が強まり、オベリスクを中心とした同心円状に、神殿全体を取り囲むもう一枚の障壁が立ち上がった。


 こちらも頭上は閉じられていないが、飛ぶことができないアペプは、内と外、2枚の障壁の間に閉じ込められた格好となった。


「我が身を触媒として張ったこの障壁の強度は、お主を封じていた冥府の関門と変わらぬ。いかにお主とて破れはせぬぞ」

 セトの後ろから顔を出したオシリスが、得意げに言う。


「あらあら、大変ですわ。でも、これほどの障壁をどれだけの間維持できるのかしら?」


「そうだな。保って数日だろう」

 あっさりとテトは頷く。そんなことは最初からわかっていた。それだけ保てば十分なのだ。


「だが、それまでにはフィルとリネアが戻ってくるだろうよ。…そなたの企みにはまってかつての力を削がれた我らでは、アペプには勝てぬ。しかし戦いのお膳立てくらいはできる」


「そういうことですか…」

 テトの答えに、アセトは眉を寄せる。


「セト、あなたはそれでいいのですか。自らが討ち漏らした相手を倒すのに、竜王の手を煩わせるなど、竜の戦士としての矜持が許さないのでは?」


「あぁ、実に情けない。先々代の竜王陛下よりアペプ討伐を命じられたのは我だ。本来ならば、差し違えてでもこの手でアペプを倒し、陛下の命を全うしなければならん」

 挑発なのはわかっているが、セトはアセトに答えた。


「一騎打ちをお望みなら、受けて差し上げますわ。アペプもあなたとの戦いを望んでいます」

「そうか…」

 セトはしばし考えるように沈黙する。

 今代の竜王であるとは言え、自分達の問題であるアペプの討伐にリネアを巻き込むのは不本意だ。できることなら命を賭して自ら決着を付けたい。それはセトの偽らざる本心だった。


「だが、止めておこう。我が勝手に戦えば、リネア様にお叱りをけ受けそうだからな」

 しばらくして、セトは軽く首を振りながら言った。


「…どういうことですの?」


「お前はやり過ぎたのだ」

 そう言ってセトは、くっくっと喉を鳴らして笑う。


「フィル殿を傷つけたことで、お前はリネア様の逆鱗に触れた。…覚悟しておくといい、今代の竜王陛下はお優しい方だが、フィル殿に害為す者にだけは苛烈だぞ」

 アセトは、面白くなさそうな表情を浮かべたものの、それ以上セトを挑発してはこなかった。

次回予定「三神の策 3」

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