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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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アセトとアペプ 1

 バステト神殿を崩壊させたアペプは、大河イテルの深い水底に横たわっていた。

 

(アペプ、少しは落ち着いたかしら?)

(…母上、もう大丈夫だよ)


 アセトはアペプに優しく語りかけ、アペプはアセトを母と呼ぶ。これが封印から復活したアペプとアセトの関係だった。


 長い時間をかけてアペプの復活を果たしたアセトだが、フィルと九尾、リネアとティフォンのように、アペプからその力を完全に譲られたわけではない。強い自我を残すアペプを制御する方法として、アセトは魔術を使って、自分がアペプの母であると刷り込んだのだ。


 イシスと分裂した後、テトを閉じ込め、オシリスの記憶を封じ、アペプ復活への布石を打ったアセトは、アペプが封印の中で死者の魂を食らい、完全に力を取り戻す時まで、自らも冥府の片隅で眠りについていた。

 それから数百年がたち、事態が動き出す原因となったのがヒクソスで行われたフィル達の召喚である。アペプの仇敵とも言える竜王ティフォンが、この大陸に召喚されたことを察知したアペプは、急速に覚醒を始めたのだ。


 だが、それは時期としては少しばかり早かった。まだアペプの力の回復しきっていない。バステトとオシリスは大幅に力を失っているとは言え、ティフォンがやってきた以上、万全の状態で復活させなくてはならない。


 そのためアセトは、南部州軍の有力者であったテーベ州候アンテフに取り入り、またメネス王国宰相ケレスをも誑かした。彼らを動かしてメネスとヒクソス、そしてネウトとの戦争を起こすことで、死者の魂を一気にかつ大量に冥府に送り込むことを画策したのである。フィルたちの行動によって、いくらか余計な手間はかかったものの、アセトは冥府に大量の魂を送り込むことに成功した。


 ただ、アペプを復活させるためには、アペプの力の回復以外にも問題があった。冥府の出口にオシリスが築いたバステト神殿の関門である。この関門は冥府の側からは決して開かず、地上の側からしか開けられない。アペプを地上に解き放つのなら、冥府の関門を開かねばならない。


 だが、フィルたちがバステトをムルから助け出したことが、アセトにとってプラスに働いた。バステトはいずれ冥府の異常に気付き、死者の魂を天界へ送るため関門を開こうとする。その機会を利用すればいいのだ。

 

 ここまで、アセトの企みはおおむね成功していた。しかし、最大の失敗はフィルの身体を奪い損ねたことだった。


 ティフォンやセトへの憎悪を滾らせているアペプの自我は強い。それに、アセト自身もイシスと分裂した結果、かつて神と崇められた時ほどの力はない。いかに魔術に秀でていようと、アセトの力だけでアペプを抑え込むことは難しい。

 そのためアセトは、まずフィルの身体を乗っ取って神獣の力を手に入れ、その力で魅了の魔術を大幅に強化することで、アペプを支配しようと考えていたのだ。


 フィルの魂を身体から切り離し、抜け殻となった身体を魂の井戸に引きずり込んだところまでは良かった。しかし、いざフィルの中に入ろうとしたアセトは妲己に阻まれ、冥府へと落ちる途中でフィルの身体を見失ってしまった。


 …まさか、中にもう一人いたなんて。あそこで邪魔されなければ、たやすくフィルを乗っ取ることができたのに…アセトはその時の事を思い出し、悔しげに顔を歪める。

 

 その後、魂の状態で冥府へと落ちたアセトは、やむを得ず次善の策をとる。餌となる死者たちの魂に紛れ、アペプに食われることでアペプの中に入り込み、覚醒しかけていたアペプに魅了の魔術をかけたのだ。


 それは、神が英雄に仕立てたい相手にかける、魅了の魔術。

 その魔術をかけられた者は、術者もしくは術者が指定する相手に対する無条件の信頼や好意を強く植え付けられ、その言葉によって支配される。

 かつて神がアセトかけた、英雄に強烈な恋心を抱く魔術もその一種であった。

次回予定「アセトとアペプ 1」

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