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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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魔女と女神 2

「大丈夫、油断はしない」

「はい」

 繋いだ手にぎゅっと力を込め、ふたりはイシスに向かい合った。


「ありがとうございます。…改めまして、わたくしはイシス。かつてアセトと同じひとりの人間に宿った人格です」

「あなたが、本来のアセトの魂ってこと?」


「いいえ。わたくしは、元はひとつであった魂がふたつに分かたれたその片割れ。言ってみれば双子のようなものと思って頂くのが、最も近いと思います」

「それじゃ、あなたとアセトは、どちらかが後から生じた、というわけではないのね?」


「はい。…ですが、生まれたその時からふたりだったわけではありません。わたくしもアセトも、元々はひとつの人格の中に内包された一面でした。しかし、神と名乗る者たち、そして周りの人間たちに弄ばれ、その憎しみによって完全にふたつに分かれてしまったのです」

 淡々と答えるイシスだったが、しかし…の部分に差し掛かると、辛そうな表情を見せた。


 以前アセトも言っていた。人間とは、いつ裏切るかわからないものだ、と。


「それは、この大陸でのことなの?」

 アセトは、元々この大陸の者ではない。彼女の弁が嘘でなければ、ティフォンやアペプ、そしてフィルたちもいた北の大陸からやってきたはずだ。イシスが語ったのは、北の大陸での話なのか、この大陸に来てからのことなのか。


「どちらも、です。わたくしたちは、神と人のどちらにも裏切られた挙げ句に、故郷を追われてこの大陸に流れ着き、そしてここでもまた、裏切られました」

 アセトの抱く、深い深い憎しみ。その根源は、何度も裏切られた怒りと悲しみ…それが本当なのだとしたら、フィルは彼女の気持ちもわかる気がした。


「詳しく、聞かせてもらってもいい?」

 フィルは思わず言った。ただ、リネアはとても心配そうにフィルを見つめていた。


 イシスが話した彼女の足跡、それは壮絶と言っていいものだった。


 彼女は、北の大陸にあった小国、コルキスの王女として生まれた。

 父は賢王として民に慕われ、母は神の末席に連なる一族の出身であった。半神半人の美しき王女は、誰からも愛され、恵まれた幼少期を送った。

 …が、幸せな時間は長くは続かない。

 

 きっかけは、母から魔術と薬学の手ほどきを受けた彼女が、天才的な才能を示したことだった。その才は神々の耳にも届き、一部の神は彼女の才能を利用しようと動き始めた。


 天上の神は、地上にあって神に反逆するもの、神に都合の悪いもの、それらを討伐するため、人間の中に幾人もの『英雄』と呼ばれる存在を生み出し、彼らを駒として使い、戦わせていた。

 神は自らの尖兵である英雄の戦いを有利にするため、魔術に長けた彼女に目を付けたのである。


 彼女が乙女に成長するのを待ち、神は英雄を彼女の国へと送り込んだ。そして愛を司る女神が彼女が英雄に強い恋心を抱くように仕向け、英雄のためならば他の全てを犠牲にするほど盲目的な恋に彼女を落とした。


 英雄の狙いは彼女の祖国で神獣として崇められていた金毛羊の討伐であった。しかし、英雄への愛以外目に入らぬよう仕向けられた彼女は、王族でありながら英雄を手引きし、その討伐を成功させてしまう。国にいられなくなった彼女は、英雄と共に国を出て、やがて英雄と結婚する。

 

 その後も神々から課せられた討伐や冒険を成し遂げた後、英雄と彼女は、コリントス国に移り住んでしばし平穏な生活を送った。

 だが、コリントス王に気に入られ王女との婚姻を持ちかけられた英雄は、密かに王女と通じて子を設けた上、王女と結婚するために一方的に彼女と離婚してしまう。


 英雄の裏切りに激怒した彼女だったが、神に植え付けられた英雄への愛は彼女の心を縛り、その怒りは愛する英雄ではなく王女の側に向けられた。

 彼女は婚礼を祝うとみせかけて、魔術をかけた婚礼衣装と冠を王女に贈る。それを身に着けた王女はたちまち炎に包まれ、父王や英雄との子もろとも焼け死んだ。


 その所業に恐れをなした英雄は、彼女の前から逃げ出し、二度と戻ってくることはなかった。

次回予定「魔女と女神 3」

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― 新着の感想 ―
[一言] これは…メデイア? 昔読んだギリシャ神話(の漫画)の記憶が脳裏にちらほらと…
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