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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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魔女と女神 1

 泉で身体を清め、身支度を整えたフィルとリネアは、もう一度、昨日の神殿跡に来ていた。


「やはり、何もありませんね」

「そうだね…」

 フィルは、部屋の奥の祭壇のようなものに近づいた。そう見えるというだけで本当に祭壇なのかもわからないが、石で造られた3段の階段状のステージの上は、ただ平坦に石が敷き詰められているだけで、何も置かれていない。


 昨日は気付かなかったが、こうして明るい中で見てみると、この建物の状態が少し気にかかった。神殿全体の崩壊具合に比べて、唯一残っていたこの建物だけは、異様なほど状態が良いのだ。


 装飾も何もない殺風景な建物だが、建物自体にはほとんど損傷も摩耗も見られない。それに、入り口には扉もなく開けっ放しで砂漠の中に放置されていたというのに、建物中に砂が入り込んだ様子もない。ここまできれいに保たれていると、さすがに違和感がある。


 だが、近づいてよく調べてみても、特に変わった所は見つけられなかった。

「やっぱり、空振りだったのかな…」

「フィル様、他の場所を調べてみましょうか?」


「そうだね」

 外に出ようと入り口に向かおうとした時、突然、大きな声がした。


「お待ちください!」

 振り返ったフィルは、声の主の姿を見るなり、リネアの手を掴んだ。リネアもその手をぎゅっと握り返し、指と指を絡めてしっかりと手をつなぐ。


 奥の祭壇の上、さっきまで誰もいなかった場所に見覚えのある人影が立っていた。


「アセト…!」

 アペプは一体どうしたのか、アセトは元の人の姿をしていた。フィルたちと同じように、アペプも自在に姿を変えられるのか…?


「もう二度と、フィル様には触れさせません!」

 リネアが瞬時に竜人姿になってアセトを睨み付け、叫ぶように言った。フィルの手を握ったまま、一歩前に出てフィルを背にかばう。


「わたくしの名はイシス。どうか、話を聞いて下さいませんか?」

 静かに立ったままアセトは言った。その口調はあくまで真摯で、どこか不遜な態度がにじみ出ていた、これまでのアセトの言動とは全く違う。

 見た目の姿はそっくりなだけに、強烈な違和感を感じるほどだ。


「…?」

 アセトは一体、何を言っているのか…これもアセトの作戦なのか…フィルは困惑した。怒りを露わにしていたリネアも、警戒こそ解かないもののアセトの豹変に戸惑っている。


 イシスと名乗ったその姿は確かにアセトにそっくりだ。しかし、床に反射した太陽の光が彼女を照らした時、その身体が半分透けているのに気がついた。それは妲己や玉藻、パエラと同じ…彼女には実体がないのだ。


 せっかく手に入れたアペプの身体をアセトが捨てるとは思えない。だとしたら、イシスと名乗る彼女は本当にアセトとは別の存在なのか…?


「我が半身、アセトの所業には、お怒りのことと思います。ですが、アセトの企みを止めるためにも、どうかわたくしの話を聞いて頂きたいのです」

 イシスは懇願するように繰り返した。


「イシス…と言ったわね。アセトとあなたはどういう関係なの?」

「わたくしとアセトは、元々は同じ一人の人間に宿った人格でした。ですが、今は身体をアセトに奪われ、わたくしは魂だけの存在としてここに残っているのです」


 神話に語られた女神イシス。それは単にアセトの別称だと思っていたが、そうではなく、アセトとイシスは本当に別々の人格だったということか。

 それに、アセトの企みを止める、とはどういうことか。イシスはアセトの目的を知っていて、なおかつそれには賛成していないということなのか。だとしたら、協力の余地はある。…もちろん、イシスが信用に足るのなら、だが。


「いいわ。話を聞かせて」

「フィル様…」

 リネアはやはりイシスを信用しきれないようだ。フィルとて完全に信用したわけではないが、もしアセトの企みについて何か手がかりが得られるなら、話を聞く価値はあると思った。

次回予定「魔女と女神 2」

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