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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第2章 サエイレムを狙う者
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アラクネ族の里

PVが増えてきました。読んで頂いてありがとうございます!


 パエラは、元々アラクネ族の間諜としてサエイレムに送り込まれた。

 サエイレムが一時、魔王国軍の手に落ち、すぐさまエルフォリア軍により奪還された後のことである。

 再侵攻の機会をうかがうため、パエラは街に駐留する帝国軍の情報を調べて報告するように命じられていた。


 しかし、パエラは潜伏したサエイレムの下町での暮らしが気に入ってしまった。魔族の多くは貧しく、それなりの不自由もあったが、それでも一族の里での暮らしよりも良かったのだ。


 …アラクネ族は、決して戦闘が得意な種族ではない。アラクネ族は深い森の中に一族の里を作り、周囲に糸を張り巡らせて外敵の侵入を警戒しながら、ひっそりと暮らしてきた。他の強い種族に怯え、戦争が始まってからは帝国軍に怯え、得意とする隠密性を生かして必死に情報を集めてうまく立ち回り、時には強い種族からの汚れ仕事を引き受けた。そんな生活よりも、サエイレムでしがらみなく暮らした方がずっといい。


 戦争が終わったとき、パエラはそのまま一族との連絡を絶ち、サエイレムに居残った。

 でも、帝国から新しい総督が来ると聞いた時には少し不安だった。帝国では魔族は奴隷として扱われると聞いていたからだ。どこにも行く当てはないが、サエイレムから逃げ出すことも覚悟した。

 隠れるようにして暮らしていたが、魔族の扱いが悪くなることはなかった。むしろ、少しづつ以前よりも暮らしは良くなっていく。


 帝国と言えば人間の国のはずなのに、どうして総督は魔族にも良くしてくれるのだろう?…それに、噂によれば、新しく総督としてやってきたのは、自分と年の近い女の子らしい。

 パエラは、時折、建物の屋根に上っては、街並みの向こうにある総督府を見つめた。あそこにいるだろう総督に興味が募り、総督に直接会えると聞いて、闘技大会に参加しようと思った。

 そして、フィルに出会うことになった。


「あたしは一族よりも、フィルさま達と一緒にいたい」

「あのアラクネ族たちは、パエラを連れ戻しに来たの?」

「ううん。あいつらはどうもメリシャを追ってるみたいなの。その途中に、あたしが森に張った罠を見つけて、あたしが近くに居るのに気付いたみたい。で……さっきは、メリシャを捕まえるのを手伝えって言われて…」

「でもパエラは、それに抵抗してくれたんだよね?」

「…だって、そんなことしたらフィルさまにも、妲己ちゃんにも、リネアちゃんにも嫌われるじゃない。そんなのやだよ…」

 少し恥ずかしそうにパエラは顔を背けた。


「どうしてメリシャが狙われるのか、心当たりはある?」

「ごめんなさい。それはあたしにもわからない。アラクネ族とアルゴスは隣同士ではあるんだけど、ほとんど交流がなくて。…だけど、里の戦士達がこんな所まで来てるってことは、族長の指示で探していたんだと思う」

「なるほどね」

 フィルは、顎に手を当てて少し考える。


「パエラ、あなたは自分の一族が嫌い?」

「うーん、里には帰りたくないけど、嫌いなわけじゃないよ。できれば一族のみんなの暮らしも良くなったらいいなとは思うし」

「そう、良かった。…暮らしを良くするには、まず安全の保障と食料援助か…」

 ぶつぶつとつぶやくフィルに、パエラは俯いていた顔を上げる。


「フィルさま、まさかアラクネ族も引き込むつもり?」

「味方は多い方がいいからね。メリシャを狙うのも止めさせたいし」

「…フィルさまは欲張りだなぁ…」

 呆れたようにパエラはぼやく。でも、ケンタウロスもセイレーンも味方につけたフィルなら、きっとアラクネも何とかしてくれるんじゃないかと思える。


「さて、どうしようかな。休日は明日までだけど、サエイレムに帰ってまた出直すのも面倒だし…」

 フィルは、何かを期待するようにパエラを見つめる。

「今から行こうか。案内してくれる?」

「はぁ…そう言い出すんじゃないかとは思ったけど……」

「パエラもわたしのことわかってきたじゃない」

 ポンポンと軽くパエラの肩を叩く。


「ここにリネアとメリシャを残していくわけにはいかないから、みんなで行くよ」

「ちょっ、フィルさま、メリシャが狙われてるんだって言ったじゃない!」

 慌てて言うパエラに、フィルは首をかしげる。

「何か心配?…アラクネ族が束になったところで、わたしが守るメリシャをどうにかできると思う?」

 傲慢とも思える発言だが、フィルに宿る大妖狐、九尾の力はそれほどまでに絶大だ。

 あの魔獣オルトロスや刺客たちだって、全く反撃の機会さえ与えず、一瞬で片付けてしまった。それに、アラクネ族の最大の武器である強靭な糸でさえ、九尾の狐火は焼き切ることができる。確かにアラクネ族が全員で襲い掛かったところで返り討ちだろう。


「もう…フィルさまには敵わないなぁ…」

 パエラは、表情を引き締め、身をかがめてフィルに頭を下げる。

「フィルさま、ありがとうございます。あたしの同胞たちのこと、よろしくお願いします」

「うん。任せといて」

 フィルは、微笑んで胸を張った。


 再び九尾の姿になったフィルは、3人を背に乗せて再び空へと駆け上がった。このまま帝国の国境を越えてアラクネ族の里を目指すため、玉藻もフィルの中に戻っている。

 森の上を東へ走り帝国の国境を越えた。フィルが無断で国境を越えたことを知ったら、バルケスとグラムの顔が盛大に引きつるような気もするが、このあたりは人家も街道もないため、軍の警備は、時々巡回の騎兵たちがやってくる程度。見つかることはないだろう。


「パエラ、アラクネ族の里は遠いの?」

 国境から続く平原の上を走りながら、フィルは首だけ振り返ってパエラに尋ねる。

「この速さなら、すぐに着くよ。ほら、見えてきた」

 パエラの指さす先には、黄褐色の高い崖に囲まれた巨大な渓谷が広がっていた。


「あれがアラクネ族の里、ラディーシャ渓谷だよ」

 サエイレムの街がすっぽりと入ってしまうほどの幅を持つ大渓谷だ。谷底には高さ40m以上にもなる針葉樹の巨木が生い茂り、豊かな水量を持つ川が南へと流れ出ている。渓谷の両岸は高さ100mを超える崖となっており、崖の上はなだらかな丘陵。その向こうに渓谷と外界を隔てる山脈が白い雪のストライプをまとってそびえていた。

「すごい…」

 フィルは思わずつぶやいた。なんて美しい場所なんだろう。フィルの背から眺めるリネアとメリシャも目の前の風景の雄大さに声を失っていた。 


「…懐かしいなぁ」

 ただ一人、パエラだけは複雑な表情で渓谷を見つめている。

 だが、今はいつまでも渓谷の風景に見惚れているわけにはいかない。フィルは、谷底を覆う巨木の森の上へ少し速度を落としながら近づいた。


「フィルさま、狐の姿のままで里に乗り込む?それとも、人間に戻るの?」

「このまま行くわ。アラクネの長のいる所に案内してくれない?」

 パエラは頷き、谷の奥を指さす。

「このまま進んだ谷の一番奥がアラクネ族の里。……あ、森の中には降りないでね。森の中はアラクネ族が張った罠だらけだから」 

「わかった。三人とも、しっかり掴っててね」

 フィルは再び速度を上げる。やがて谷の最奥が見えてきた。一度狭まった渓谷の幅が再び大きくなり、全体で楕円形に近い窪地を作り出している。周辺を囲むひときわ高い崖には、豊富な水量を誇る滝が幾筋も流れ落ちていた。


 その一番奥をカーテンのように覆って流れ落ちる大瀑布の下には、小さな湖に近い大きさの滝壺が形作られている。どうやらそこがアラクネ族の里の中心部になるようだ。だが、アラクネたちが大勢いる中にフィルが着地すれば混乱が起こる。フィルは、まずアラクネたちと適度な距離がとれる、滝壺の中心に降り立つことにした。

 フィルは、森の木々の上から音もなく飛び降り、水面上に立った。


 突然空から降ってきた金色の大妖狐の姿に、アラクネたちは動揺した。ここは隠れ里だ。深い森と高い崖に守られ、彼女ら自身も森に警戒の糸と罠を張り廻らせて防御を固めている。戦争中、巨人族や帝国軍でさえ、ここまで入って来たことはない。

 そこに突然、大きな獣が現れたのだ。この渓谷から出たことのない者も多いアラクネたちをパニックに陥らせるには十分だった。


「子供たちを洞窟へ逃がせ!」

 右往左往するアラクネたちの中に、鮮やかな赤色のマントを羽織った者がいる。アラクネ族は全員が雌性個体なのであえて女性と表現するのもおかしいが、まだ20代後半と思われる女性だった。混乱する仲間たちを叱咤し、避難させようとしている。

その周りでは戦士なのか、長弓を手にした数名が一列に並び、フィルに向けて弦を引き絞っている。

(へぇ…この状況で、あの指揮官と戦士たちの動きはなかなかだね)

 フィルの中で妲己が感心したようにつぶやいた。


「待って!みんな、あたしだよ!」

 フィルの背からパエラが叫んだ。その声に、アラクネたちが振り返った。

「フィルさま、蹴っちゃうけどごめんね」

 パエラは、フィルの背中から跳躍し、滝壺の岸辺に着地した。その目の前に、先ほどのマントを羽織った女性がいる。


「久しぶり、ティミア。サエイレムからの客人を連れてきたよ」

「…パエラ…パエラなのか?!…おまえ、生きていたのか?!」

 ティミアと呼ばれた女性が、すっと右手を上げると弓隊が動きを止める。だが、弓は引き絞られ、その狙いはフィルに向けられたままだ。


「本当に、パエラなんだな…今まで、どうして」

 ティミアは、二、三歩パエラに歩み寄る。

「もう死んだと思った?」

「あぁ、連絡は途切れ、帰っても来ない。それにサエイレムは帝国領になったと聞いたからな。戦争で死んだか、奴隷に落とされたか、どちらにせよもう生きてはいないと思っていた」

「薄情だなぁ」

 パエラはため息をつく。

「バカを言うな!どれだけ心配したと思っている!……でも、生きていてよかった」

「ごめん、心配かけた」

 ティミアは、神妙に頭を下げるパエラの姿に微笑んだ。


「パエラ、客人と言ったな。あの獣に乗っているのがそうなのか?」

 フィルの背で身を縮めているリネアとメリシャの姿を指さし、ティミアは問う。

「今、紹介するよ」

 パエラは、フィルに向かって手を振る。できるだけ驚かせないよう、ゆっくりした足取りで水の上を歩き、岸へと上がる。そしてフィルが身を伏せると、リネアがメリシャを抱いてフィルの背から滑り降りた。

「獣人とアルゴスの娘…か?」

 訝し気にリネアとメリシャを見つめるティミア。その目の前で、唐突に狐の姿が消え、入れ替わるようにそこに人間の少女が立っていた。


「ティミア、こちらが今のあたしの主、フィルさまだよ」

「パエラ、その紹介、ちょっと雑すぎない?……こちらの方がアラクネ族の長殿でいいのかな?」

「フィルさま、ティミアは戦士長でアラクネの里では族長に次ぐ立場。族長は滅多なことじゃ外に出て来ないんだ」

「そう、ではまずはティミア殿にご挨拶させて頂きましょう」

 長弓に狙われる中を恐れる様子もなくティミアに近づいたフィルは、軽く一礼して口を開いた。


「初めてお目にかかります。わたしの名は、フィル・ユリス・エルフォリア。帝国領サエイレム属州の総督に任じられている者です」

「帝国っ?!」

 ティミアが思わず身構え、フィルを狙う弓隊に緊張が走る。パエラは冷や冷やしながらフィルを見つめているが、フィルはゆるりと首をかしげる。

「わたしは争いに来たのではないのですが、…お返事もして頂けないのでしょうか?」

 少し困ったような表情で言われたティミアは、ハッと気がついて慌てて一礼した。

「申し遅れた。私はアラクネ族の戦士長、ティミアだ…総督殿、よく参られた」

「よろしく。ティミア殿」

「失礼だが、先ほどの狐は一体…」

 フィルは、ティミアの目の前でもう一度九尾の姿になってみせる。ティミアの眼前に、地面から湧き上がるように金色の大妖狐の姿が出現し、今にも噛み付かんばかりにその鼻先をティミアに近づけた。ティミアは驚きの余り声も出せない。

 瞬間、遂に耐えきれなくなった弓兵の一人がフィルに向かって矢を放った。軽くフィルの口角が吊り上がり、フィルの毛皮に触れた矢が青白い炎で燃え上がる。


「あーぁ、やっちゃった…」

 パエラが顔をしかめて額を押さえる。

「ティミア殿、いきなり矢を射かけるとは、どういうことでしょうか?」

 狐の姿のまま、フィルはティミアに向けている紅い目を細めた。

「それは……」

 帝国の総督を名乗ってやってきたのは、まだ子供と言ってもいい少女で、しかも大狐に姿を変える。

 自分の目で見たものを、どう理解すればいいのかもわからない状況なのに、先走った戦士の一人が、命令もなく矢を射かけるという失態を犯してしまった。もうティミアの内心はパニックだ。

 だが、このまま反撃されたら大変なことになることくらいはわかる。どうすればいいのか、ティミアは助けを求めるようにパエラを見た。


「もう、仕方ないなー」

 パエラは、パンパンと軽く手を叩く。

「さあ、ティミア、まずは弓兵を下げて。フィルさまは争いに来たわけじゃないから。フィルさまが本気で怒ったら、こんな里なんて簡単につぶされちゃうよ」

 ティミアが慌てて合図し、弓兵たちに弓を降ろさせ、フィルたちから遠ざける。それを見て、フィルも人間の姿に戻った。

「フィルさま、さっきのはわざとじゃないから、許してくれないかな?」

 少し心配そうな表情で言うパエラに、フィルは鷹揚に頷く。パエラに言われるまでもなく、最初からそのつもりだ。

 ティミアの目の前で九尾の姿になれば、一人くらい慌てて暴発するかも、と思っていたが、狙い通りになった。先に手を出した負い目に乗じて、話を聞いてもらうことにする。

「ティミア殿、パエラに免じて、先ほどの攻撃は許しましょう」

「申し訳ない。感謝する」

 フィルの言葉に、ティミアは本気で安堵した。


「…ティミア殿。紹介しておきます。こちらは狐人族のリネアとアルゴスのメリシャ」

 フィルから紹介された名に、ティミアの表情が再び緊張した。周りの緊張を察して、リネアとメリシャがフィルの背中にくっつく。

 アルゴスのメリシャ。それは族長の命令で彼女たちが探していた相手だからだ。捜索に当たっている者からは帝国領の森に逃げ込んだようだと報告を受けていたが、まさか帝国に助けを求めていたのか。


 フィルは不安げに腰のあたりに抱きついているメリシャを優しく撫でる。

「最初に言っておきます。ここにいるメリシャ、リネア、パエラは『わたしのもの』です。決して、先ほどのようなことがないようにお願いします」

 穏やかな口調で言ってはいるが、明らかな脅しだ。

「…承知した」

 やや苦しげな表情でティミアは頷く。正直、困ったことになった…これではメリシャを捕らえられない。さりとて目の前に立つ少女、いや化け物に勝てるとは思えなかった。

 

「では、そろそろ本題に入っても?」

 内心で葛藤するティミアを余所に、フィルは、涼しい顔で言う。

「…伺おう」

「わたしがここに来た理由はふたつ。ひとつはアラクネ族がメリシャを狙う理由を確かめたかったから。もうひとつは、アラクネ族と友好的な関係をつくりたいと思ったからです。…ティミア殿、わたしとの話し合いに応じる気はありますか?」

 予想もしなかったフィルの言葉に、ティミアは呆気にとられる。すると、人垣の向こうから甲高い声が上がった。


「待て!ティミアよ、そのような戯れ言に応じてはならん!そこにいるアルゴスの娘は探していた娘なのではないか?どうして捕らえない?」

 人垣を割り、一際豪奢な衣装をまとったアラクネが現れた。老婆というには少し若く見えるが、頬の痩けた様子からはあまり健康そうには見えない。


「リドリア様、外に出てもよろしいのですか?!」

「大事ない。それよりも、早く全員を捕縛せよ。アルゴスの娘は大事な『商品』だ。傷つけてはならん。あとは手荒にしてもかまわん!」

 フィルは表情を変えず、黙ったままじっとやりとりを見つめている。

「フィルさま、あれが一族の長、リドリアだよ」

 パエラがフィルの耳元に顔を寄せて囁いた。


「しかし、こちらはサエイレム総督の…」

「そんな小娘が総督のわけがなかろう。まんまと騙されおって!」

 一喝されたティミアは唇を噛んで俯く。その姿に、我慢しきれずパエラが叫ぶ。

「嘘じゃないよ!フィルさまは本当に…!」

「おまえ、パエラか。一族の務めも果たさず、今までどこをほっつき歩いておった。この裏切り者が」

「…っ!」

 フィルがパエラを見つめて首を横に振る。パエラは反論しかけた言葉を飲み込み、ぐっと奥歯を噛みしめて下を向いた。

 

「…どうやら、わたしの話は聞いて頂けないようですね」

 フィルはそう言うなり九尾の姿をとる。これには、リドリアも息を呑んだ。

 フィルは、リドリアからワインの甘ったるい匂いが漂っているのに気付いて、やはりこれ以上の話は無駄だと判断した。


「今日のところはこれで退散するとしましょう。いずれ改めて参ります。拙速に結論を出さず、一族でよく話し合って頂ければ幸いです」

「待て、アルゴスの娘は置いていけ!」

 蒼白になりながらもリドリアは声を張り上げた。ここでフィルを怒らせればどうなるかの判断も付かないらしい。

 フィルは返事をせず、ただ目を細める。そして、身をかがめてリネアとメリシャを背に乗せた。

「パエラ、あなたも早く乗って」

「うん…」

 パエラは、渋々フィルの背に飛び乗る。


「ティミア殿、パエラのことは心配いりませんから、安心してください」

 フィルはそう言い、俯くティミアに顔を近づけて、小さく続けた。

(5日後の夜、国境で待っています)

 ティミアが顔上げた時、フィルはすでに身を翻し、森の上へと駆け上っていた。


「フィルさま、あたし悔しいよ」

 森の上を走るフィルの背で、パエラが呟いた。

「リドリアは、昔から確かに狡っ辛いところはあったけど、あんなに分からず屋じゃなかったのに……」

「いいよ。気にしなくても……パエラは、わたしがあそこで暴れた方が良かったの?」

「そうじゃないけど…あれじゃティミアが可哀想だし、フィルさまがあんな風に言われて…あたし…」

「ありがとう、パエラ」 


「フィルさま、これで終わりじゃないよね?」

「もちろん」

 当然のように答えると、フィルは走る速度を上げた。

次回予定「メリシャの能力」

※誤字の報告ありがとうございます。

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