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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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アペプ復活 2

「リネア、落ち着いて」

「…申し訳ありません。勝手に飛び出してしまって。でも、フィル様への仕打ちを思ったら自分を抑えられなくて…」


「わたしのために怒ってくれてありがとう。でも、それでリネアが怪我をしたら、その方が嫌だよ」

「はい…」


 奴の手の一つは、強力な酸か…フィルは、アペプとの戦い方を考える。

 あの酸を浴びせられたら、セトやティフォンの鱗なら耐えられるかもしれないが、毛皮に覆われた九尾には効きそうだ。風をまとって吹き散らすか、狐火をぶつけて蒸発させるか…。


「ボクの切断糸で切ってみようか」

「あんな大きなものを切れるの?」


「さすがにアペプの本体は無理だけど、額に突き出してるアセトを切り離すくらいはできると思う」

 あの姿からすると、アセトがアペプを操っているように見える。物理的に切り離すことで、アペプとアセトの繋がりを断てればいいが…。


「わかった。試してみよう…今からアセトに近づくから、リネアは陽動お願い。けど、無理はだめだよ!」

「わかりました。フィル様もお気を付けて」


 フィルがアセトに向かうと同時に、リネアは別の方向へ飛んだ。

 アペプの頭は一つ。二つの目標を同時に追跡はできない。アペプが頭を向けたのはリネアの方だった。


 竜王ティフォンであるリネアの方が脅威だと判断し、竜の姿になる前に潰してしまおうという腹なのかもしれない。 

 

 だが、フィルたちがノーマークになったわけではない。リネアを追うアペプとは別に、アセトの目は九尾の動きを見つめている。


 フィルは周りに小さな狐火を無数に出現させ、アセトの周囲を遠巻きに旋回しながら、連射するようにアセトに浴びせかけた。


「この程度ですの?」

 アセトが大きく腕を振ると、その軌跡をなぞるように水のカーテンが広がった。

 次々に着弾した狐火は、水のカーテンを突破できずにジュッという音を立てて消え、もうもうと水蒸気が立ちこめる。

 狐火を撃ち尽くしたフィルに、アセトは水のカーテンを解いて、にやりと口の端を挙げてみせた。


「フィル、いいよ!」

「了解」

 左右に腕を広げて九尾に跨がっていたメリシャが、ぎゅっと絞るように両腕を胸の前で交差させた。


「っ…!」

 肌に感じた違和感、気付いたアセトが対応する間もなく、無数の糸がアセトの身体に絡みついた。

 フィルが狐火を乱射したのは、これもまた陽動。アセトの周囲を旋回する九尾の背で、メリシャは極細の切断糸を後方に流し、アセトの周りを取り囲んでいた。そして、一気にそれを引き絞ったのである。


 走る九尾に引っ張られたメリシャの糸が、容赦なくアセトを締め上げる。強靱かつ極細の切断糸が、鋭い刃となってアセトの肌に食い込んだ。


 ズシャリ。


 湿った音がして、アセトの身体が文字通り『崩れ落ちた』。

 血に塗れた肉塊がアペプの頭の上に積み上がる。だが次の瞬間、ぐわっと頭頂部の裂け目が広がってアセトだった肉塊を呑み込むと、すぐに傷一つない姿でアセトが裂け目から身を起こした。


「ちっ、やっぱりダメだったか…」

 フィルは露骨に舌打ちする。


 完全に支配しているのかはわからないが、アセトはすでにアペプと同化している。

 アペプから突き出したアセトの身体は、ただ元の姿を模しているだけ。あれの首を落とそうが、心臓を潰そうが、アセトには痛くも痒くもないのだろう。アセトを倒すには、アペプそのものを倒すしかないということだ。


 …こうなるだろうと予想はしていたが、正直、厄介だ。


「あらあら、こんな子供騙しが通用すると思われていたのなら、心外ですわ」

 余裕の態度を崩さず、アセトは口元に手を添えて笑う。


「…フィル、どうしよう…」

「やっぱり、あの巨体でかぶつを相手しないといけないみたいね」


 フィルは、アセトと正面から向かい合った。

「アセト、あなたの目的は何?この大陸の人間たちを根絶やしにでもしたいの?それとも、アペプを封印したセトたちへの復讐なの?」


「……アペプは、セトやバステト、オシリス、そして竜王ティフォンに激しい憎しみを抱いていますわ。…リネアさんには与り知らぬことかもしれませんけれど、力を継いだ者の運命さだめと思って諦めて下さいな」

 少し考えるように間を置いて、アセトは答えた。


「フィル様、戦うつもりがないのなら、退いて下さいまし。まずはそこにいるラーの手先どもを片付けますから」

 黙り込んだフィルに興味を失ったように、アセトはアペプの鎌首をセトに向けた。

次回予定「アペプ復活 3」

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