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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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アペプ復活 1

 中庭に開いた冥府に続く穴からは、冥府から天界へと昇っていく死者の魂が列を成して吹き上がっていた。

 冥府に閉じ込められ、アペプの餌にされていた魂たちはこれで開放された。

 ……だが、おそらくはもう遅い。


 険しい表情で穴をのぞき込んでいたテトの耳がピクリと反応する。同時にリネアも、小さく「あっ」と声を上げた。


「来たの?」

「はい」

 フィルとリネアの短いやりとり。それだけでその場の全員が状況を察した。アペプが遂に封印を破ったのだ。

 予想していたとおり、冥府の開放を狙っていたとしか思えないタイミングだ。本当はとっくに封印をを解くだけの力を蓄えていたのだろう。


 小さく地面が震え、穴の底から地鳴りのような音が響き始めた。


「テト、あなたたち、飛べる?」

「飛べるわけなかろう!」


「フィル殿、ふたりは我が」

「セト、お願い」

「はっ」


「メリシャはわたしが乗せるわ。リネアはどうする?」

「私は自分で飛びます。フィル様とメリシャは私がお守りします」

「わかった。お願い」

 フィルは、九尾に姿を変えてメリシャを背に乗せる。リネアは竜人となって翼を広げ、セトは青銅色の竜に変化して、その背にテトとオシリスを乗せた。

 先手必勝とばかりに、穴の中にブレスを撃ち込むことも頭をよぎったが、もはやその時間はなかった。


 それぞれに空中へと待避した直後、冥府への穴の縁が内側に向かって崩れ始め、あっという間に二回りほども大きくなった。


 ……その中に、ゆらりと巨大な影が蠢いた。


「退避!」

 フィルが叫んだ。一斉に穴の上から退いた直後、穴の中から土煙が噴き出し、黒い巨体が飛び出してきた。


「なんて大きさなの!」

 フィルが驚いたのも無理はない。近くを飛んでいるセトは、全長約30メートル、リネアが変身する普段のティフォンよりも一回り大きい。だが、アペプはそれと比較しても優に倍、いや3倍はある。

 かつて、地脈の力を一杯まで取り込んで、ヴィスヴェアス山に全力のブレスを放った時、全長100メートル近くまで巨大化した時のティフォンと遜色ない巨体であった。


 だが、翼を捨てた身ではさすがに空を飛ぶことは出来ないらしく、アペプは鎌首をもたげてフィルたちを睨みつつ、全身を穴から這い出させて中庭一杯にとぐろを巻いた。

 

 さて、どうする…フィルは注意深くアペプの様子を見つめつつ考える。奴をペルバストに向かわせるわけにはいかない。とりあえず、他に被害が及ばない場所へ誘導するか…。


「フィル様!あれは…!」

 リネアの声にフィルは考えを中断する。足元のアペプに異変が起こっていた。


 黒く濡れたような艶を放つ鱗に覆われたアペプの頭、左右の目の間に一筋の裂け目が入り、何かが身を起こす。


「フィル様、お久しぶりですわね。…まったく、あなたにはしてやられましたわ」

「アセト!」

 聞き覚えのある声に、九尾の目が見開かれる。アペプの額から女性のシルエットが上半身を突き出していた。その顔は、忘れもしないアセトのものだった。

 

「おのれ!よくもフィル様を!」

 アセトの顔を見たリネアは、瞬時に激高し、急降下して襲い掛かった。普段の穏やかな彼女からは想像し難い行動だったが、アセトはフィルをあんな目に遭わせた張本人だ。とても怒りを抑えきれなかった。


「あら、乱暴ですこと」

 アセトは全く慌てない。拳を固めて逆落としに突っ込んでくるリネアにアペプの頭を向け、シャッと無色の液体を吐き出した。リネアはハッとしたように急制動をかけ、液体を避ける。

 その液体は、勢いを失って神殿の屋根へと降ると、シュウシュウと音を立てて泡立ち、石造りの屋根を溶かした。


 液体の正体は、強い酸だ。射程はあまり長くなさそうだが、接近してくる相手を迎え撃つには有効な攻撃である。


「…っ!」

 ギリッと悔しそうに奥歯を鳴らしたリネアは、無理な突撃を止めてアセトを睨む。その横に九尾が寄り寄った。

次回予定「アペプ復活 2」

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