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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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冥府開放 1

皆様、あけましておめでとうございます。

今年も「傾国狐のまつりごと」をよろしくお願いいたします。


物語もそろそろ終盤。ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

 弩砲戦艦に乗ってメンフィスを出航したメリシャたちは、大河イテルを下り、1日半の船旅を経てペルバストのバステト神殿に到着していた。


「テト様、お帰りなさいませ」

「うむ、皆変わりはないか?」

 小舟で船着き場に着いたテト以下の一行を、神殿長のシノア、そして大勢の巫女と神官たちが出迎えた。


 弩砲戦艦は対岸のペルバストの港に停泊している。船が大きすぎて、神殿の船着き場には直接着けられなかったのだ。

  

「メリシャ王も、ようこそおいで下さいました。フィル様とリネア様はご一緒ではないのですね?」


「シノアよ。今すぐに、この神殿の全ての巫女と神官をペルバストに避難させよ」

 メリシャが答える前にテトが言った。


「テト様、一体何が起こると仰るのですか?」

「かつて、予がセトやオシリスとともに冥府に封じた悪蛇、アペプが蘇るかもしれんのだ。反問は許さぬ。直ちに差配せよ」


「ははっ…!」

 反論を許さぬ口調でテトが言うと、主祭神自らの命令に、巫女と神官たちはすぐさま行動を開始した。


「…フィルよ、そろそろ姿を見せてもいいぞ?」

 その場に自分達とシノアだけが残ったタイミングでテトは言った。


 それを待っていたかのようにメリシャの中からするりとフィルが抜け出てくる。混乱を避けるため、大勢の巫女や神官たちがいる前で姿を見せる訳にはいかなかったのだ。


「フィル様、そのお姿は…?」

 どう見ても、死者の霊魂『バー』にしか見えない姿に、シノアは目を丸くする。


「…まさか、お亡くなりになってしまわれたのですか?」

 恐る恐るという感じでシノアは尋ねた。魂だけになった姿を見れば、そう思うのも仕方ない。


「情けないことに、不覚をとっちゃってね。…私の身体は神獣の力を宿してるから、死んではいないけど、魂と身体を引き離されて、このとおりよ」

 眉を寄せて小さくため息をついたフィルは、とりあえずかいつまんでシノアに事情を説明する。


「なるほど、リネア様も冥府に…」

 かなり端折った説明になってしまったが、シノアはそれなりに理解してくれた。


「バステト様も、ご快癒、おめでとうございます」

「記憶は取り戻したが、快癒にはほど遠いのだがな……まだまだ力は十分とは言えぬ。おかげでまだこのような幼女の姿よ…あぁ、予のことは今まで通りテトと呼ぶが良い」

 苦笑交じりに応じたテトは、すぐに表情を引き締めた。


 それからしばらくして、神殿とペルバストの間を間断なく連絡船が行き来し、100人ほどいたバステト神殿の巫女と神官たちは次々にペルバストへと渡っていった。


 シノアは神殿に残ることを強く希望したが、彼女も避難するよう説得したのはネフェルだった。

 ネフェルは、避難した巫女や神官たち、そしてペルバストに住む信徒たちの不安を和らげなければならない。そして、もしもペルバストにも被害が及ぶときには、皆を外へ逃がさなくてはならない。自らもペルバストに避難するから、シノアにも手伝ってほしいと語ったのてある。

 いつものように淡々とした口調ではあったが、それが逆にネフェルの真摯な思いを表していた。


 もしもアペプと戦うことになった時、ネフェルやシノアが神殿に残っていたら、きっと邪魔になる。アペプはかつて神ですら倒しきれなかった強大な相手。多少魔術の心得があるとは言っても、アペプ相手には何の役にもたたず、身を守ることすらできない。そうなったら、フィルたちはネフェルたちを守ることにも力を割かなければならず、戦いの足かせになってしまう。ネフェルはそう考えたのである。


「ネフェル、ありがとう」

「フィルも、頑張って。必ず元通りになって、みんな一緒に戻って来て」

 そう言って頭を下げたフィルに、ネフェルは少し潤んだ瞳を向けた。

次回予定「冥府開放 2」

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[一言] あけましておめでとうございます 辰年の龍にティフォンを含むべきか否か…
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