表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
425/489

オシリスの不覚 3

「その魂たちは、どこへ行ったかわかるか?」

「妾たちが見た限りでは…水面に落ちて、この上の穴の中に流されていたわね」

 

「オシリスよ、我がここに封じられてしばらく後から、冥府の底にたくさんの魂が落ちて来るようになったのだ。妲己殿の言は正しいと思うぞ」


「セト!それは本当か?!」

 突然、オシリスの声が大きくなった。


「もちろん本当だが、どうしたのだ?」


「まさか、奴は……竜王殿、バステトはムルに閉じ込められていたと言われたな?…バステトはムルに力を吸われていたか?」

 オシリスはセトの返事にますます表情を固くし、リネアにも質問した。


「はい、その通りですが……」

「うぅむ…やはりか」

 リネアの返事はオシリスの予想を裏付けるものだった。低く唸ったオシリスは、リネアとセトに深く頭を下げる。


「オシリス殿、一体、どうしたというのですか?」

「すまない。吾輩とバステトは完全に不覚をとったらしい。あの女がまさか、アペプの復活の為に動いていたとは…!」


「なんだと?!それはどういうことだ?!」

 オシリスの口からアペプの名が出て来たことに、セトは驚愕した。


 リネアと妲己は、視線を交わして小さく頷く。もちろん二人とも驚いてはいるが、言われてみればそれほど意外ではなかったからだ。


 ムルに閉じ込められていたテト。自我と力を奪われてベンヌの姿で冥府を彷徨っていたオシリス。そして神話の改ざんによりオシリスを殺した犯人にされたセト。

 アペプと戦い、アペプを封印した3人が標的にされている時点で、アセトの目的がアペプに関わることなのは想像がつく。しかもアセトは、アペプの引き渡しを求めてオシリスのところにやってきた。


 そしてアセトは、メネスとヒクソスの争いを煽り、南部州軍を利用し、意図的に大勢の死者を作り出すよう暗躍していた。それもまたアペプ復活の為の準備だったのではないだろうか。


「まずはアペプの封印の様子を確かめねばならん。説明はその時にする。セト、竜王殿、妲己殿、一緒に来てくれるか?」

「わかりました。案内してください」

 リネアが真っ先に返事をした。リネアが行くと言うなら、妲己とセトに否やはない。

 

 オシリスは、奥にそびえる白い柱に向かった。


 この冥府の底の中心にある白い柱の中にアペプは拘束され、冥府の底と冥府を区切る水の層、そして冥府の関門として地上に築かれたムル、全部で3重の障壁で封印されている。

 それほど厳重な処置しなければ、安心できないほどに、アペプは脅威であった。


「オシリス殿、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」

 先を行くオシリスに、リネアが声を掛けた。


「うむ、構わないが」

「オシリス殿の身体がバステト神殿のムルに置かれていたのは、なぜなのですか?」


「あれは、吾輩の身体を要として冥府の関門を構築したからだ。吾輩は魂が抜けた後に塩となった我が身を二つに分け、バステト神殿とオシリス神殿のムルに納めたのだ。オシリス神殿の関門は地上から冥府へ、バステト神殿の関門は冥府から地上に向かってしか通れぬようにした」


「あの棺は、オシリス神殿にもあったのですね」

「然り。…今もあるかはわからんが」


「それはどういうことでしょうか?」

「イシス…いや、今はアセトと名乗っているのだったか、竜王殿や妲己殿の話を聞くと、アセトは魂の井戸とやらを使って冥府と地上を自由に行き来していたらしいな」

「はい、おそらくは…」


「魂の井戸などとというものを、吾輩は知らぬ。おそらくそれもアセトの仕業だろう。オシリス神殿の関門に手を加え、自分専用の出入り口を造ったのだ。そのために不可欠なのが、関門の要を成していた我が身というわけだ。なにしろ冥府の王の肉体だった物だ…冥府のことわりをねじ曲げるのにこれほど適した素材はなかろう」


「ムルに安置されていたオシリス殿の棺を暴き、それを利用した、ということですね」

「まったく、このオシリス、痛恨の不覚と言わざるをえん。…すまぬ。竜王殿たちにも迷惑をかけた」


 オシリスが苦渋に満ちた表情を浮かべたところで、一行は高くそびえる白い柱の足下に到着した。

次回予定「アペプの封印 1」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ