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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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オシリスの不覚 1

「貴殿がセトの主君、竜王ティフォンであると?」

「はい、リネアと申します。オシリス様、お見知りおきを」


「リネア様、こ奴に『様』など不要です」

「何を言うか。吾輩は冥府の王だぞ。竜王とて敬意を払うべきだろう」

 微笑みつつ丁寧に一礼したリネアの前で、セトとオシリスが言い争っていた。


「何が冥府の王か。冥府の管理が全くできていないではないか!」

「なんだと、そんなはずはなかろう。…ないはずだ」

「貴様は、今の今まで、力も自我も無くし、ベンヌの姿で彷徨っていたのだぞ」


「吾輩が不覚を取ったとでも言いたいのか!」

「言いたいも何も、事実だろう」


「…セト、オシリス殿、くだらない言い争いをしている暇はありません。それよりも、伺いたいことがあります」

 リネアが言った。口調は穏やかだが、その声は普段よりやや低い。スッと笑みを消した顔で一睨みされ、セトとオシリスは瞬時に言い争いを止める。


 苛立ちのせいか、オシリスへの敬称も早くも「様」から「殿」へ格下げされていた。

 リネアにしてみれば、一刻も早く地上に戻ってフィルを元に戻したいのに、時間を浪費したくないのだ。


「オシリス殿、冥府から天界へと昇る道が閉ざされていることに、心当たりはありませんか?」

「ある。天界への道を閉ざしたのは吾輩だ。アペプの封印をより強固にするために、地上のオシリス神殿とバステト神殿にムルを築き、冥府に出入りする関門とした」

 オシリスは、胸を張って言った。


「しかし、そのせいで天界へ上るはずの魂までも、冥府に落とされています」

「それはおかしい。日に一度はバステトが関門を開き、魂を天界に送っているはずだ」

 オシリスは、テトがムルに閉じ込められていたことを知らないらしい。


「テト様は、最近までバステト神殿のムルの中に閉じ込められていました」

 リネアは、テトの状況をオシリスに話した。


「なんと…まさかバステトが…」

「ムルの中からはお助けしましたが、テト様は、神としての力を大きく失ったばかりか、ムルに閉じ込められた時のことや、セトやオシリス殿とともにアペプを封印した時のことも忘れておられます」

「一体、誰がそのようなことをしたのだ?!」


「確証はありませんが、私達はイシスという女神の仕業ではないかと考えています」

「イシス…イシス……おぉ、あの女か!」


「オシリス、知っているのか?」

「あぁ、生者の身で冥府にまで降りてきた。彼奴あやつは堂々と吾輩の下まで来た上、貴重な香料を献上したいと申し出た。だから、特別に謁見を許したのだ」


「イシスの本当の用件は?まさか献上のためだけに来たわけではないでしょう?」

「そうだ。アペプを引き渡せと言いおった。彼奴の弁によれば、イシスはアペプと同じところから来たらしいな」

 やっぱり、とリネアと妲己と頷き合う。


「アペプは、過去に自分の国にも大きな被害を与えた罪人であり、自分は奴を追って来た。だから自分達に引き渡してもらいたい、というのがイシスの言い分だった。アペプの封印を解いてさえくれれば、自分達でアペプを捕縛する用意があるとまで言いおったわ」


「…まさか、それを信じたのですか?」


「バカを申すでない。我らが苦労してようやく封印したのだ。得体の知れん女の口車なんぞに乗るはずが無かろう。それに、セトからアペプがこの大陸に逃げて来る事になった経緯は聞いている。吾輩はイシスの話は嘘だと最初から見抜いておったのだ」


「それで、彼女は何と?」

「ならば是非もなしと、素直に引き下がった。吾輩に嘘を見抜かれて諦めたのだろう」

 オシリスが示したあまりにも都合の良い見解に、さすがのリネアも呆れた表情を浮かべる。


「…どうして、それをおかしいと思わないの?あの女は、あなたが断ることくらい織り込み済みで何か企んでたに決まってるでしょう」

 それまで黙ってリネアに任せていた妲己が、やや苛ついたような声を上げた。

次回予定「オシリスの不覚 2」

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