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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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テトの変化 1

 困ったような表情で扉を支える衛兵を尻目に、堂々と広間に入ってきたのはテトとネフェルである。…いや、堂々としているのはテトだけで、ネフェルはその後ろで少し困ったような表情を浮かべていた。


 昨日は、失っていた記憶の解放によって具合を悪くしていたテトは、ずいぶんとすっきりした顔をしている…のだが…。


「フィルと、…そなたはパエラだったな。予の記憶を取り戻してくれたこと、感謝するぞ」

 テトは広間を見回し、メリシャの側でふよふよと浮いていたフィルとパエラに近寄ると、開口一番言った。


「テト…?」

 見た目には変わりないが、口調と雰囲気が大きく変わっている。昨日までは、外見同様に幼児っぽい感じだったのに、今朝は、落ち着いた口調と固い言い回しのせいで、中性的な印象を与える。一人称も『テト』から『予』に変わっているし、語尾に『にゃ』もつかない。


 フィルはネフェルに、どういうことかと視線で尋ねるが、ネフェルは首を横に振った。


「う、うん…良かったよ。テト、もう気分は良くなったの?」

「もう平気だ」

 テトはそのまま壇上に上がると、空いていた玉座にどっかりと腰を下ろす。


「フィルよ。予もかつての戦いのことを思い出した。何か聞きたいことがあれば聞くがよい」

「わかった。まずはわたしたちが見た記憶のことを話すね。もし、テトが思い出したことと違うなら、教えてほしい」

 フィルは、テトがどこまでの記憶を思い出しているのか、そして自分たちが見た記憶と、テトの認識にズレが無いか確認することにした。併せて、ホルエムたちへの説明を兼ねることにする。


「良かろう」

 テトは鷹揚に頷いて、フィルを見つめた。


「そうね……まずは、大蛇アペプとの戦いからかな…」

 フィルは話を始める。テトの記憶だけでなく、この大陸に伝わる神話、リネアから聞いたセトの話、ハトラから聞いたイシスの話、それにフィルの推測も交えて、ひとつのストーリーとして語っていった。


 今の世から数えても太古と言っていい、古い時代。

 この大陸には、太陽神ラーを始めとする自然を司る大勢の神々がいた。そして神々に守られた地に人が生まれ、大河イテルの畔で生活を営み始める。


 やがて人々は、神々に畏敬と感謝の念を抱き、信仰が生まれた。それぞれが信仰する神々のために神殿が建てられ、神に仕える神官や巫女といった者たちが、神の意志を人々に伝えるようになった。


 バステト神殿の創建はこの頃であり、バステトは自らに仕える者たちに加護を与えた。

 加護を得た者たちは、運動能力が高く、病魔にも罹りにくい、強い身体に持つようになり、やがて加護を得た者たちの子孫に、バステトと同じ猫の耳や尾を持つ者が現れる。それが、後にヒクソスと呼ばれる民族の起源であった。


 時は流れ、人間とヒクソスはそれぞれの地で文明を発展させていった。

 だが、災厄は北の海からやってきた。


 海を隔てた遙か北の大陸で、竜族の王たる神獣ティフォンに、同族の竜であるアポピスが挑み、そして敗れる。

 反逆者となったアポピスは南の海へと逃れ、大海の底に潜んで名をアペプと変えて生き延びた。そして、辿り着いたこの大陸で力を蓄え、再起を図ろうとしたのである。


 大河の水底から現れては、人を食らい、大地を荒らし、アペプは暴虐の限りを働いた。そしてあろうことか、太陽を食らってその力を我が物にしようとし、太陽神ラーが乗る太陽の船をつけ狙った。


 アペプを倒すべく追ってきた竜族の戦士セトは、この大陸の神々に助力を求めた。そして、オシリスとバステトの協力を得て、バステト神殿付近の大河に底に冥府への口を開き、アペプを冥府の底へと落とすことに成功する。


 アペプとともに冥府の底に落ちたセトは、自分諸共にアペプを封印させ、アペプの脅威を取り除いた。この行為を賞賛した太陽神ラーは、セトを自らの息子とし、神々の一柱に叙した。

次回予定「テトの変化 2」

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