女王を継ぐ娘 2
「そうだよー、なにせ門番は、自分が絶対戦いたくない相手の姿に見えるんだから、ひどいよね」
黙り込むフィルの代わりに、パエラが口を開いた。
「そうなんだ…パエラには誰に見えたの?…フィル…は一緒にいたんだし、エリンとか?」
興味ありそうに訊くメリシャに、パエラはニヤッと笑って指先を向けた。
「え…え?!ボク?!」
「そうだよ。あたしが一番戦いたくない相手。あたしにはメリシャに見えた…フィルさまには違う姿に見えてるみたいだったから、偽物だってすぐにわかったけどね」
「違う姿…あ、フィルにはきっとリネアに見えたんだね」
「……そうだよ。…リネアと戦うなんて、わたしにできるわけないじゃない」
はぁっと大きなため息をついて、フィルは肯定する。
「でも、パエラはボクの姿をした相手を倒したんだよね?」
「倒したっていうか、糸で縛って拘束したの。いくらあたしでも、メリシャの姿をした相手の首を切り落としたくはないよ」
「……けど、どうしても必要ならやるんでしょ?」
「もう、そんなに虐めないでよ。あたしだって、本物のメリシャと戦うなんてできないよ」
じとりとした視線を送るメリシャに、パエラは苦笑した。
その後、フィルとパエラはメリシャの中へと戻った。
テトほど具合が悪いわけではないが、なんとなく疲れを感じ、少し休みたかった。
他者の記憶の中に入るというのは、霊体にとっても負荷がかかるらしい。
……そして翌日、玉座のある広間には、早朝からヒクソスとメネスの首脳陣が集まっていた。両国の今後の方針と当面の行動について相談するためである。
メリシャの側にはフィルとパエラの姿もあったが、口を出すつもりはないらしく、黙ったままメリシャの後ろに控えていた。
ネウト軍を相手に連合軍を組んで共闘してきたヒクソスとメネスだったが、そのネウト軍はすでに瓦解し、王都メンフィスも奪還した。まずは目的を果たしたと言える。しかし、それで何もかも解決したわけではない。ネウト王国の打倒というシンプルな目標を掲げていられたこれまでと比べ、むしろ解決すべき問題は増えていた。
王都メンフィスでは、アセトの暗躍により民のおよそ9割が犠牲となり、どうにか生き残った民も女性や子供、老人たちが大半である。都市としての機能はほぼ麻痺している状態だ。しかし、同盟の条件として、メンフィスを奪還した際にはギーザはヒクソスに引き渡すことになっているため、早々に王都の機能をメンフィスに戻す必要がある。ホルエムとハトラにとっては、まずメンフィスの都市機能をどう建て直すがが難問となった。
ヒクソスにとって、最大かつ最も深刻な問題は、もちろんフィルの身体とリネアの行方不明である。フィルの魂だけはどうにか救助できたものの、九尾の力は失われている。つまり、神獣の力に頼ることが出来ない。
そこにメリシャが未来視で『見』た、邪悪な大蛇アペプの復活の兆し。もしも九尾とティフォンに頼れぬままアペプと戦う事になれば、その被害は計り知れない。
しかし、だからと言って息を潜めてじっとしているわけにもいかない。
「メネス王国としては、急ぎギーザからメンフィスへの市民の移住を進めたいと思います。メネス軍は都市間の街道とメンフィスの治安維持と、移住する市民の支援に当たります」
まずハトラが言った。メリシャも妥当な判断だと思う。
ギーザがヒクソス領になる以上、そこに住み続けるということはヒクソスの国民になるということだ。しかし、今の段階でヒクソスの民になりたいという人間はほぼいないだろう。ならば、どこかへ移住しなければならない。
その点、商店や住居もそのままに住民がいなくなったメンフィスは、格好の物件と言えた。
次回予定「女王を継ぐ娘 3」




