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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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失われた過去 3

 部屋の真ん中に置かれたソファーセットと、窓際の小ぶりな書き物机、衣装などが納められた棚…かつての姿のままだ。向かって右側の壁に、寝室へ続く扉がある。


 寝室へは私室からしか行けず、その先に部屋はない。この私室にあった記憶は、おそらくテトがムルに閉じ込められる時のこと。ならば寝室には、それより前の記憶が隠されているはずだ。

 

「じゃ、開けるよ」

「うん、フィルさまのことはあたしがちゃんと守るからね」

「頼りにしてる」


 寝室へ続く扉をゆっくり開くと、足下の床に無数の亀裂が走り、フィルとパエラは広い空間に放り出された。

 そこはどこまで続いているかわからない薄暗い空間で、そこにうっすらと光を放つ四面体がたくさん浮かんでいた。フィルとパエラも、それらに混じって空中に浮かんでいる状態だ。


 近くにあった四面体のひとつに近づいて、中をのぞき込んでみると、そこにテトの記憶らしい映像が見えた。


 この、たくさん浮かんでいるこの四面体のひとつひとつがテトの記憶なのだ。これまでのように一つの部屋に一つの記憶が納められているのではなく、記憶を納めた四面体が空間の中に散乱している状態だ。


 幾つかの記憶を見てわかったのは、この空間には、テトがセトに協力してアペプと戦った時の記憶が、細切れの断片になって浮かんでいるらしいということだった。


 たとえ、この隠された部屋にたどり着いても、簡単に全てを思い出せないようにしているのだろうか…?


 だが、それでも手掛かりを得るにはテトの記憶を見ていくしかない。フィルとパエラは、早速、手近なところからテトの記憶を調べ始める。

 順序もバラバラになっている記憶の内容を手当たり次第に見ていくと、所々欠落しているらしい部分もあったものの、アペプとの戦いの際に何があったのか、おぼろげながら見えてきた。

 

 まず、バステト神殿のムルはアペプとの戦いの後、アペプの封印の一部として造られたものであるらしい。


 そして、フィルが一番知りたかった情報…冥府への入り口になるかもしれない、アペプを冥府へ落とした場所、それはバステト神殿だった。だから、そこからアペプが再び地上に這い出ることがないよう、封じる必要があったのだ。


 冥府に封印を施したのはオシリス神であった。オシリス神は、冥府の底と冥府そのものに二重の封印を施したのである。


 ムルの地下に埋められた棺に入っていたオシリス神の遺骸、それこそまさに封印の要。オシリス神は何者かに殺されたのではなく、強大なアペプを封ずるため、自らの身体を封印の供物として利用したのである。

 そして、身体を捨てたオシリス神は霊体として冥府に降り、冥府の王、冥府の管理者としての役割を果たすことになった。


 だが、冥府は死者の魂が集まり、然るべき罰を受けるか、或いは天界に至るかの審判を受ける場所だ。天界へと向かう出口を完全に閉ざしてしまうわけにはいかない。そこで造られたのが二つのムルだ。バステト神殿のムルは、オシリス神殿のムルと対になっていて、冥府と地上を隔てる関門の役割を持ち、互いに一方通行。オシリス神殿のムルが入口、バステト神殿のムルが出口の役割を果たす。


 ムルの前でテトが舞っていたのは、封印により閉ざされている冥府の関門を一時的に開いて、審判を終えた魂を天界へと送り出す儀式だった。


 

「…そういうことか」

 ふよふよと空間を漂いながら、腕組みしたフィルがつぶやく。


「フィルさま、そろそろ帰る?…知りたかったことはだいたいわかったんでしょ?」


「うん、帰ろうか。あんまり遅くなるとメリシャも心配だろうし……けど、あれ?出口はどっち?」


 これまでは、記憶を見た後は自動的に元の部屋に戻っていたのだが、この空間ではそうならないらしい。

 この空間には目印になるようなものが何も無い。バラバラ浮かんだ記憶を追って移動するうちに、すっかり元の場所がわからなくなっていた。


「どうしよう…」

「もー、フィルさまらしくないよ。リネアちゃんのことが心配でどうしようもないのはわかるけど、そのリネアちゃんを助けるためなんだから、しっかりしてよね」


「ごめん…」

 しゅんと目を伏せるフィルに、パエラは手を差し出した。


「…はい、あたしの手を握って」 

 フィルと手を繋ぐと、パエラはシュルシュルと糸をたぐって移動し始めた。


「ちゃんと最初の場所から糸を張っておいたんだよ」

「助かったよ。ありがとう」

「ま、まぁね、…フィルさまのことはあたしが守るって言ったし」 


 やがて行く先に、光が差し込む穴が見えてきた。

次回予定「冥府の底 1」

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