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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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テトの記憶 2

 いつまでテトの中に居られるのかはわからないが、無駄な時間を費やすことは避けたい。フィルが知りたいのは、テトが失っている記憶なのだ。


「テトが思い出せない記憶は、それなりに隠されてるんじゃないかな。だから、まずはこの総督府の中におかしな所が無いか探した方がいいと思うんだけど、どう?」


「うん、あたしも賛成。…それじゃ、どうする?…手分けして当たってみる?」

「ううん。それは止めておこう。何があるかわからないし」


 アセト本人がテトの記憶の中にまでやってくるとは思わないが、もしテトの記憶を隠したのがアセトなら、記憶を隠すのと同時に何か…罠のようなものを仕掛けていてもおかしくない。


「それに、ここを隅々まで知ってるパエラなら、もし変なところがあったら気がつくでしょう?」

「うん、任せといて」

 胸を張るパエラと連れ立って、フィルは総督府の捜索を続けた。


 総督府の1階、左右に伸びる廊下に沿って並ぶのは、各部署の執務室や倉庫、書庫である。

 もちろん、そこに納められているのは、サエイレムの行政文書ではなくテトの記憶なのだろうが。


 ふたりで廊下を歩きながら、壁に並ぶ扉を確かめていくが、特に変わったところはないように見える。

 

「ねぇ、フィルさま、これって順番とかあるのかな?」

「順番…?」


「うん、さっき見た記憶って、割と最近のことだったよね?」

「そうだね。半年ちょっと前くらいかな」


「例えば、館の奥に行くほど古い記憶になってる、とか」

「それはあるかも……じゃぁ、行って確かめてみようよ。どこを『奥』っていうのか微妙だけど、たぶん…」


 今度はフィルの方がパエラの手を引いて歩き出した。玄関ホールに戻り、階段で2階へ。


「フィルさま、どこ行くの?」

「わたしの部屋!」


「あ、そうか。なるほどね」

 この館の主であるサエイレム総督の部屋は、確かに館の中で一番奥にある部屋だ。


 フィルの部屋は、2階西側の約半分を占めていて、執務室、私室、寝室、そしてリネアが使っていた使用人室があった。


 フィルとパエラは、2階の回廊を通って西側廊下へ。もしかしたら、フィルの部屋自体が隠されていたり…とも思っていたが、廊下の突き当たりには、見覚えのある扉がちゃんとあった。廊下を進み、重厚な執務室の扉の前に立つ。


「さて、何が出るかな…?」

 パエラと頷き合い、今度はフィルが扉に手を掛けた。


 注意深く扉を開く。すると、さっきと同じように、スッと辺りの風景が変わった。


「ここは…?」

 フィルとパエラは、石造りの建物の前にいた。足下には石畳が敷かれた道がある。建物の敷地はそれほど広くはなく、敷地を囲む低い塀の向こうには、悠々と流れる大河の姿が見える。


「バステト神殿…?」

 フィルが疑問に思ったのも無理はない。フィルが知っているバステト神殿と比べて、目の前に建つ建物はとても小さく、造りも粗末…いや、簡素なものだったからだ。


「場所は確かにそうだね」

 いつの間にか、身軽に建物の屋根に跳び乗って辺りを見回したパエラが、音も無くフィルのそばに着地した。

 ここは確かに大河の中州に築かれたバステト神殿である。ただ、後の規模よりかなり小さく、敷地全体でも中州の上流側半分くらいを占めているに過ぎない。


 フィルが立っているのは神殿に続く参道で、その先に渡し船の船着き場がある。川向こうに見えるペルバストの町も、まだ100人ほどが暮らす小さな町だった。


 …そこへ、参道をこちらに歩いてくる人影が現れた。


「え…?」

 その姿を見たフィルが、思わず驚きの声を上げたのも無理はない。


 神殿にやってきたのは、巫女と思われるヒクソスの女性に付き添われた、幼子を抱いた女性とその夫だろう男性…しかし、その夫婦は猫耳も尻尾もない、普通の人間であった。


 巫女と夫婦は、そのまま神殿の建物の中へ入っていく。フィルとリネアも、それについていった。


 建物の中は、石の列柱で飾られてはいたが、後の神殿からすると壮麗さという点で比較にならない。ただ、奥に鎮座するテトの神像は、フィルたちも見たことがあるものだった。

 おそらく神像だけは古い時代から受け継がれたのだろう。


 巫女と夫婦は、神像に一礼するとそのまま奥へと進む。


 そして、再び外に出ると、そこは白い砂利を敷いた広場で、その中央には白い石で造られた一辺40メートルほどの正方形の舞台のようなものがあった。 

次回予定「テトの記憶 3」 

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