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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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テトの記憶 1

 テトの記憶の中に現れたサエイレム総督府。

 フィルとパエラは、綺麗に整えられた前庭を抜けて、館の前に立った。


 振り返れば総督府の正門があるのだが、鉄柵の門扉が閉ざされ、その向こうは白い霧で覆われていた。門を守る衛兵もいない。

 それどころか、セイレーンたちが泉で歌い、市民たちで賑わっていた前庭には、フィルとパエラ以外、誰もいなかった。


 やはり、ここは本当のサエイレム総督府ではない。あくまでテトの記憶の中…。

 当然と言えば当然だが…


 ちらっと視線を向けたフィルに、パエラは黙ったまま小さく頷く。

 館の外におかしな気配はないようだ。

 フィルは、扉の向こうの気配を警戒しつつ、館の玄関をそっと開けた。


 扉の向こうは見慣れた玄関ホール。

 2階まで吹き抜けになっていて、真っ直ぐ通り抜けると反対側の扉から中庭に出ることができる。

 ホールの両脇には階段があり、ホールを取り囲む2階の回廊に繋がっていた。


「さて。どこから調べてみようか?」

「そうだねー、とりあえず手近な所からでいいんじゃない…?」


 総督府の中は玄関ホールから左右に延びる廊下に沿って部屋が並んでいるが、ホールの周りにも幾つかの部屋がある。

 パエラは、ホール左側にある玄関から一番近い扉に向かった。ここは確か倉庫だったはずだ。


「フィルさま、いい?開けるよ?」

「うん、いいよ」

 観音開きの扉をバンッと勢い良くパエラが開けると、周りの風景がフッと変わった。


 部屋の中で、テトとメリシャが向かい合って座っていた。


「テト、ボクたちのこともちゃんと話す。だから、テトのことも聞かせて」

 部屋には、リネアとシェシ、そしてフィルもいる。見覚えのある部屋は、ヒクソス王城のフィル達の部屋だった。


「それじゃ、まずはわたしたちのことから聞いてもらおうかな」

 続いてフィルが、テトの自分のたちの事情を話し始める。


 この場面は知っている。確か、テトを神殿から救出して王城に連れ帰った日、フィル達の正体と事情をテトに話し、テトからも事情を聞いた場面だ。


「テトはどうして、あんな場所に閉じ込められていたの?この世界には、他の神様もいるの?」

 メリシャの質問に、テトは小さく首を横に振っている。


「たぶん、他の神はもう地上にはいないにゃ。テトも、本当はいなくなるはずだったにゃ」

「いなくなる…?」


「そうにゃ。テトたちは、もう世界を見守るのに飽きてしまったにゃ。だから、いなくなったにゃ」


「他の神々滅びる時に、この世界そのものになったって話だったよね」

 メリシャの中にいたパエラも、メリシャを通じて話を聞いていた。


 自分が死んでも、ずっとメリシャを見守っていたい、フィルやリネアと別れたくない、そう思ってメリシャの中に溶けたパエラには、世界に溶け込んでいった神々の気持ちが、なんとなくわかる気がしていた。

 彼らもきっと、この大陸の行く末をずっと見守っていたかったのではないだろうか。 

 

「どうしてテトは、神殿に閉じ込められちゃったの?」

「それが…閉じ込められた時のことがよく思い出せないのにゃ。…気が付いたら、あそこにいたのにゃ」

 フィルの問いに、うーんと唸りながらテトは答えている。


「これは、テトを助けてアヴァリスの王城に連れてった時の記憶だね」

 すでに知っている記憶だ。これ以上見ても新しい発見はないだろう。


「この記憶はもういいかな…」

 フィルが言うのと同時に、フッとまた風景が変わり、フィルとパエラは、がらんとした部屋の中に立っていた。

 元の総督府に戻ったらしい。開きっぱなしの扉から出ると、玄関ホールだった。ふたりの後ろで、パタンと扉が閉まる。


 ここがテトの記憶の中であることは間違いなさそうだ。どうしてそれがサエイレム総督府の姿をしているのかはわからないが、それぞれの部屋に記憶が仕舞い込まれているということらしい。


「フィルさま、次の扉を開けてみる?」

 パエラは、早速隣の扉に手をかける。


「パエラ、ちょっと待って」

「ん?…どうかした?」

 呼び止めたフィルに、パエラは手を止めて首をかしげた。


「たぶん、普通に開けられる部屋にあるのは、さっきみたいに隠されてない記憶じゃないか、と思ってね」

「あー、なるほど。普通に開けられるってことは、普通に思い出せるって事?」


「そういうこと」

「それじゃ、いくら見ても手掛かりにはならないね」

 パエラは目の前の扉から手を離した。

次回予定「テトの記憶 2」

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