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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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テトの中へ 3

「むぅ……わかったにゃ」

 パエラに気圧されたからでもなかろうが、あまり気乗りしない様子ながらテトは頷いた。


「ありがとう。リネアが戻ってきたら、またお菓子を作ってもらうから」

「約束だにゃ」

 

「それで、フィル…もし冥府への入り口がわかったら、どうするんだ?」

「ホルエム、リネアと妲己の救出については、戻ってから相談しましょう。でも、アイヘブ将軍とウゼルは、今のうちに兵を休ませて、次の出撃に備えておいてほしい」


「次の出撃とは?」

「なるほど、相手はアペプとか言う大蛇ですな?」


「えぇ。メリシャが『見』たとおり、リネアと妲己を救出できるかどうかに関わらず、ほぼ確実に巨大な蛇が地上を襲う。その時、軍には民を守ってもらわなくちゃいけない。…最悪の場合だけど…もしも、救出が間に合わなかった時は、連合軍にアペプと戦ってもらうことになるかもしれない」

 フィルが言うと、アイヘブとウゼルは、表情を引き締めた。


 会議はそこで解散となり、フィルは、テトとネフェルを連れてメリシャにあてがわれていた貴賓室に戻った。


 テトの中に入るのはフィルとパエラ。メリシャとシェシ、ネフェルがそれを見守り、フルリが部屋の入口で警護に就く。


「テトは何をすればいいにゃ?」

「テトは、ネフェルに膝枕でもしてもらって、楽にしていて。昼寝しててもいいよ」

 

「わかったにゃ。ネフェル、ここに座るにゃ」

 部屋の真ん中に敷かれた敷物の上に座り、ペシペシと隣を叩いてネフェルを呼ぶ。ネフェルが隣に横座りすると、テトはころりと体を倒してネフェルの太腿の上に頭を置いた。


「フィル、ちゃんと帰ってきてね」

 心配そうに言うメリシャを振り返って、にこりと笑うフィルとパエラ。


「大丈夫、必ず帰ってくる。リネアを助ける手掛かりもちゃんと持って帰るわ」

「メリシャ、フィルさまにはあたしがついてる。あたしの糸はメリシャと繋がってるから、必ず戻ってくるよ」

 緊張を見せないふたりの様子に、メリシャも無意識に入っていた肩の力を抜いた。


「フィル、始めるにゃ」

「…ごめん。迷惑かける」


「いいにゃ。テトも、どうしてあんなところに閉じ込められていたのか知りたいにゃ。フィル、テトに思い出させてほしいにゃ」 

「わかった。任せて」

 薄目を開けてフィルを見つめるテトに、フィルは力を込めて頷く。


「…パエラ、行こうか」

「うん。リネアちゃんには悪いけど、こうしてフィルさまと出かけるのは久しぶりだから、なんか楽しみ」

 メリシャたちに軽く手を振りながら、ふたりの姿は空気に溶けるようにフッと消えた。


 ふわふわと落ちていくような浮遊感がフィルとパエラを包む。

 視界は真っ暗で、本当に落ちているのかも定かではない。

 しかし、それはほどなくして終わり、足元に固い地面を感じると同時に、周りが明るくなった。


「ここは…?!」

 その光景を見たフィルは驚きの声を上げた。

「えっ、うそ…?!」

 パエラも、きょろきょろと落ち着きなく辺りを見回している。


 テトの記憶の中にうまく入ることが出来た…はずなのだが…ここは本当にそうなのだろうか、と不安になった。


 フィルとパエラは、どこよりも見慣れた…とても懐かしい場所に立っていた。

 だがそこは逆に、テトが絶対に知るはずのない場所…。


「パエラ…ここ、サエイレム総督府、だよね…?」

「うん、総督府にしか見えないね」

 フィルとパエラは思わず顔を見合わせた。


 きれいな泉が設けられた前庭、その先に2階建ての館が建っている。

 見間違えるはずなどない、サエイレム王宮として建て直される前、元の領主館を改築して使っていた頃の、懐かしい総督府の姿だった。


「サエイレム総督府が、どうしてテトの記憶の中にあるの…?」

「間違って、フィルさまの記憶に入っちゃったのかな?」

「じゃ、どうしてわたしがここにいるのよ?」


「それもそうだね……まぁいいや。フィルさま、とにかく中に入ってみようよ。このまま眺めてても仕方ないし」

 楽しそうにフィルの手を引いてパエラは言った。


「どうしてこうなっているのかはわからないけど…なんか、フィルさまと色々やってた頃に戻れたみたいで、あたし、ちょっと嬉しいんだ」

「そっか…」

 にぱっと笑うパエラにつられるように、フィルも笑みをこぼした。 

次回予定「冥府の大河 1」

…冥府に落ちたリネアと妲己は…?

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