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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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救出の鍵 1

 ……オシリス神殿は、連合軍によって制圧され、地下の間から助け出されたメリシャは、メンフィス王城の貴賓室にいた。


 テトがシストルムを使って気持ちを落ち着かせてくれた。だが、それだけで元気を取り戻せるほどメリシャのショックは小さくはなかった。


 フィルとリネアがいない、どこにいるかわからない…もしかしたら…もう会えないかもしれない…そう思ったら、怖くて、不安で、止まっていた涙が再び滲む。


「フィル…リネア…ボク、どうしたらいいの……」

 テーブルに突っ伏して肩を震わせていたメリシャは、やがてふと気配を感じて顔を上げた。


「メリシャ、泣かないで。わたしはここにいるよ」

「……え?」

 テーブルの向かい側にフィルが立っていた。


「…フィル…?」

「うん、わたしだよ。…メリシャ、ごめんなさい。わたしのせいで心配させちゃったね」


「フィルっ!!」

「ちょ、ちょっと待って!危ないから!」


 ガバッと立ち上がり、抱き着いてきたメリシャにフィルは慌てて叫んだが、遅かった。フィルに飛びついたメリシャは、そのままフィルの身体をすり抜け、盛大にバランスを崩した。


「え?!」

 勢いよく転びそうになったメリシャの身体を、数本の糸がふんわりと支えて、そっと床に降ろす。


「もう、しょーがないなー」

 いつの間にか、フィルの隣にもうひとり人影がいた。腰に手を当てて苦笑している彼女の下半身は、大きな蜘蛛。


「パエラ…?」

 床に座り込んだまま、メリシャは信じられない様子でパエラを見上げる。


「メリシャ、久しぶりだね……あ、あたしにも抱き着いちゃダメだよ。あたしも霊体だから、フィルさまと同じですり抜けちゃうよ」


「…ほんとに、パエラなの?」

 いっぱいに見開かれたメリシャの瞳に、涙が盛り上がり、ツッと頬を流れ落ちた。


「うん、ずっとメリシャの中にいたんだよ。あたし、最後にちゃんと言ったじゃない…忘れちゃった?」

「もちろん覚えてる。忘れるわけない…!」


「「この身は朽ちても、心はずっと、貴女のそばに」」


 メリシャとパエラの声が重なる。パエラが死ぬ間際にメリシャに遺した言葉。それが引き金となったように、メリシャは声を上げて泣き出した。


「フィルさまとメリシャ、反応が同じだねぇ…さすが、親子」

「わ、わたしはそこまで泣いてないもん…」

「いやー、どうかなー」

 

 にやにやしながら言うパエラに、フィルは泣き笑いのような表情を向けた。


「そんなの、泣くよ…だって、もう会えないと思ってたパエラと…大好きな親友と、また会えたんだから…」

「…っ!…フィルさま、そういうこと言うの反則。あたしまで泣いちゃうから…」


 ひとしきり泣いて、メリシャが落ち着いたところでフィルは声をかけた。


「…メリシャ、まずは座って。わたしもパエラも、いなくなったりしないから。ちゃんと説明するから、ね?」

「うん…」

 メリシャは、ようやく椅子に腰を落ち着け、袖で涙を拭う。


 そして、改めてフィルとパエラの姿に目を向け、ふたりの身体がぼんやりと透けているのに気が付いた。

 さっき、抱き着こうとしたらすり抜けたし…妲己や玉藻が外に出ている時はこんな感じだった。

 ということは…。


「フィル、無事ってわけじゃないんだよね…もしかして、魂だけになっているの?」

「えぇ。メリシャも見た通り、わたしの身体は魂の井戸に落ちた。…パエラのおかげで、最悪の事態だけは何とか回避したって感じかな」

「一体、何があったの?」


 フィルは、アセトが自分の身体を狙っていて、魔術によって身体と魂が引き離されたことを説明した。

 フィルの身体はアセトによって魂の井戸に引きずり込まれ、リネアもそれを追って行ってしまった。それはメリシャが見たとおりの事実だ。


「それじゃ、フィルの身体はアセトに乗っ取られちゃったの?」


「ううん。それは大丈夫。アセトの思い通りにはならなかったはずよ。わたしの中には妲己がいるから」

「あ、そうか…!」


 フィルの中には、フィルと妲己、二人の魂がいる。

 妲己はただフィルの中にいるだけではない。もちろん主人格はフィルだが、元々九尾の意識でもあった妲己は、フィルに完全に成り代わり、九尾の意識となることができる。


 だが、アセトはそれを知らない。フィルの魂を押し出し、フィルの身体が空っぽになったと思って入り込もうとすれば、どうなるか…。


「だから、とにかくフィルさまの魂さえ守り切れば、妲己ちゃんがどうにかしてくれるって思ったわけよ」

 パエラが自慢げな表情で胸を張る。


「魂だけになったわたしを、パエラがメリシャの中に避難させてくれたの。パエラが糸で魂の井戸を塞いだのも、メリシャまで冥府を落ちるのを防ぐためだったんだよ」

「どうして、すぐに教えてくれなかったの?」


「オシリス神殿の中じゃ、アセトに感づかれるかもしれないと思ってね。そしたら、メリシャが狙われるかもしれないじゃない?」

「それは…確かにそうだけど……」

 メリシャは拗ねたように口を尖らせる。


「でも、本当に良かった。…フィルは、元に戻れるんだよね?」

「えぇ…そのためには、おそらく冥府に落ちてしまってるわたしの身体とリネアを、なんとかして助け出さなくちゃいけないんだけど…」


「だけど…?」

「今のわたしには、九尾の力が使えない。実体がないから何かに触れることもできない。本当に、何もできないんだよ……早くリネアを助けたいのに!」

 情けなさそうに拳を握り締めて視線を落とすフィルに、メリシャはガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。

次回予定「救出の鍵 2」

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