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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第5章 神話の終焉
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親友との再会 3

「ありがとうございます。妲己様…それでは、フィル様は無事なのですね?」

 念を押すようなリネアの問いに、妲己は微妙に顔をしかめる。


「フィルの代わりに妾が九尾の意識になって、アセトの侵入は防いだけど、フィルの魂は押し出されたままよ」


「それじゃ、フィル様は…?!」

 サッと顔色を変えたリネアに、妲己は顔を近づけると、そっと手を伸ばして彼女の頬に触れた。


「大丈夫。離れてはいるけどフィルの魂は無事よ。たぶん、メリシャの中に匿われてるんじゃないかしら。井戸に落ちる寸前に、フィルの魂を蜘蛛の糸が捕まえてるのが見えたから」

「それじゃ、メリシャが?」


「メリシャじゃないわ。その力の元々の持ち主よ」

「まさか……それは、パエラちゃんのことですか?」


「えぇ。あの娘、死んでからずっとメリシャの中にいるのよ。…今回ばかりは、さすがに見て見ぬふりはできなかったみたい」

「そうだったんですね…」


「だから、フィルの魂はとりあえず安全だと思うわ。むしろ、妾たちの方が少し厄介ね」


 言われて初めて、リネアは自分がいる場所に気がついた。荒涼とした砂と岩が見渡す限り続く砂漠のような場所。空は、夕日が沈んだ直後のように藍色のグラデーションに覆われ、辺りは薄暗い。


「魂の井戸に落ちたと思ったら、こんな場所に出たのよ。ここが冥府ってことなのかしら。妾も初めて見る場所だわ…玉藻、あなたはどう?何かわかる?」

(麿も、こんな場所は初めてじゃな。同じ冥府でも、我が国で伝承されておる『黄泉の国』の様子とはずいぶんと違うようじゃ)


「玉藻、リネアの中から出ちゃだめよ。魂の身で外に出たら、何があるかわからないわ」

(承知しておる)


「リネア。妾たちは冥府を脱出して、地上に戻らないといけない。けれど、その方法はまだわからない。これが現状よ。いい?」

「はい」

 真剣な表情でリネアは頷いた。



「で、これからどうするか、なんだけど……妾にも、どうしたらいいか、妙案はないのよね。とりあえず、闇雲にでも先に進んでみるしかないかしら」

 ぼやくように言う妲己の横で、リネアは考え込んでいた。


 ここが冥府なのだとしたら、どこかに『彼』がいるはずだ。『彼』自身は冥府を出られないと言っていたが、冥府のことはリネアたちよりもよく知っているはず。何か地上に戻る手掛かりをもらえるかもしれない。


「妲己様、少し試してみてもいいでしょうか?」

「どうしたの?何かいい考えがあるの?」


「うまくいくかはわかりませんが、セトに呼びかけてみます。セトは、この冥府の底にいるはずですから」


「セトって、セト神のこと?…そういえば、ティフォンと同じ竜族っていう話だったわね」

「はい」


「なるほど。…うん。リネア、お願いするわ」


 リネアは、その場にしゃがみ込むと、足下の地面に手のひらを付けた。そして、頭の中で念ずるようにセトを呼んだ。

(セト、セト、リネアです。聞こえますか?…セト、聞こえていたら返事をしてください)


(我が君…リネア様…ですか?)

 しばらく間を開けて、やや途切れがちの返答が聞こえて来た。


(はい。声が通じて良かったです。)

(一体、どうなされたのです。これは…神殿からではありませんね。まさか、冥府にいらっしゃるのですか?)


(その通りです。…申し訳ありません。地上に戻るために、セトの助力をお願いしたく、呼びかけさせて頂きました)

(わかりました。どれほど助力できるかわかりませんが、我が君のお言葉とあらば喜んで。……本来ならば我の方から御前に参上すべきところですが、我はここより動けません。申し訳ありませんが、こちらまでご足労頂けないでしょうか?)


(もちろんです。以前、セトは冥府の底にいると話して下さいましたが、そこにはどうやって行けばいいのですか?)

(道案内に、我が分体を遣わしましょう。しばしお待ちを)

 セトの声はそこで一旦途切れた。


「どうだった?」

「はい、セトと話をすることはできました。地上へ戻るために協力してくれるそうです」

「良かったわ。さすがリネア」

「いいえ、ティフォン様の威光のおかげです…」


「今はリネアがティフォンなんだから、謙遜する必要はないわ。本当に、リネアがいてくれてよかった…妾ひとりだったから、途方に暮れていたところよ」

「そう…なんでしょうか…?」


「そうよ。あなたはフィルの半身なんだから、もっと自信を持ちなさい」

「はい、ありがとうございます」

 ようやく緊張していた表情が和らぎ、リネアは嬉しそうに笑った。

次回予定「救出の鍵 1」

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