親友との再会 3
「ありがとうございます。妲己様…それでは、フィル様は無事なのですね?」
念を押すようなリネアの問いに、妲己は微妙に顔をしかめる。
「フィルの代わりに妾が九尾の意識になって、アセトの侵入は防いだけど、フィルの魂は押し出されたままよ」
「それじゃ、フィル様は…?!」
サッと顔色を変えたリネアに、妲己は顔を近づけると、そっと手を伸ばして彼女の頬に触れた。
「大丈夫。離れてはいるけどフィルの魂は無事よ。たぶん、メリシャの中に匿われてるんじゃないかしら。井戸に落ちる寸前に、フィルの魂を蜘蛛の糸が捕まえてるのが見えたから」
「それじゃ、メリシャが?」
「メリシャじゃないわ。その力の元々の持ち主よ」
「まさか……それは、パエラちゃんのことですか?」
「えぇ。あの娘、死んでからずっとメリシャの中にいるのよ。…今回ばかりは、さすがに見て見ぬふりはできなかったみたい」
「そうだったんですね…」
「だから、フィルの魂はとりあえず安全だと思うわ。むしろ、妾たちの方が少し厄介ね」
言われて初めて、リネアは自分がいる場所に気がついた。荒涼とした砂と岩が見渡す限り続く砂漠のような場所。空は、夕日が沈んだ直後のように藍色のグラデーションに覆われ、辺りは薄暗い。
「魂の井戸に落ちたと思ったら、こんな場所に出たのよ。ここが冥府ってことなのかしら。妾も初めて見る場所だわ…玉藻、あなたはどう?何かわかる?」
(麿も、こんな場所は初めてじゃな。同じ冥府でも、我が国で伝承されておる『黄泉の国』の様子とはずいぶんと違うようじゃ)
「玉藻、リネアの中から出ちゃだめよ。魂の身で外に出たら、何があるかわからないわ」
(承知しておる)
「リネア。妾たちは冥府を脱出して、地上に戻らないといけない。けれど、その方法はまだわからない。これが現状よ。いい?」
「はい」
真剣な表情でリネアは頷いた。
「で、これからどうするか、なんだけど……妾にも、どうしたらいいか、妙案はないのよね。とりあえず、闇雲にでも先に進んでみるしかないかしら」
ぼやくように言う妲己の横で、リネアは考え込んでいた。
ここが冥府なのだとしたら、どこかに『彼』がいるはずだ。『彼』自身は冥府を出られないと言っていたが、冥府のことはリネアたちよりもよく知っているはず。何か地上に戻る手掛かりをもらえるかもしれない。
「妲己様、少し試してみてもいいでしょうか?」
「どうしたの?何かいい考えがあるの?」
「うまくいくかはわかりませんが、セトに呼びかけてみます。セトは、この冥府の底にいるはずですから」
「セトって、セト神のこと?…そういえば、ティフォンと同じ竜族っていう話だったわね」
「はい」
「なるほど。…うん。リネア、お願いするわ」
リネアは、その場にしゃがみ込むと、足下の地面に手のひらを付けた。そして、頭の中で念ずるようにセトを呼んだ。
(セト、セト、リネアです。聞こえますか?…セト、聞こえていたら返事をしてください)
(我が君…リネア様…ですか?)
しばらく間を開けて、やや途切れがちの返答が聞こえて来た。
(はい。声が通じて良かったです。)
(一体、どうなされたのです。これは…神殿からではありませんね。まさか、冥府にいらっしゃるのですか?)
(その通りです。…申し訳ありません。地上に戻るために、セトの助力をお願いしたく、呼びかけさせて頂きました)
(わかりました。どれほど助力できるかわかりませんが、我が君のお言葉とあらば喜んで。……本来ならば我の方から御前に参上すべきところですが、我はここより動けません。申し訳ありませんが、こちらまでご足労頂けないでしょうか?)
(もちろんです。以前、セトは冥府の底にいると話して下さいましたが、そこにはどうやって行けばいいのですか?)
(道案内に、我が分体を遣わしましょう。しばしお待ちを)
セトの声はそこで一旦途切れた。
「どうだった?」
「はい、セトと話をすることはできました。地上へ戻るために協力してくれるそうです」
「良かったわ。さすがリネア」
「いいえ、ティフォン様の威光のおかげです…」
「今はリネアがティフォンなんだから、謙遜する必要はないわ。本当に、リネアがいてくれてよかった…妾ひとりだったから、途方に暮れていたところよ」
「そう…なんでしょうか…?」
「そうよ。あなたはフィルの半身なんだから、もっと自信を持ちなさい」
「はい、ありがとうございます」
ようやく緊張していた表情が和らぎ、リネアは嬉しそうに笑った。
次回予定「救出の鍵 1」




