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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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地下で待つ者 1

 通路を進む三人を追い越し、白い煙のように霊魂バーの列が流れていく。やはり、『魂の井戸』に向かっているのだろう。


 傾斜路の先、中央の通路の両側には彩色された列柱が立ち並ぶ最初の部屋。最初の時はミイラ兵に襲われたが、二度目と同じく列柱の影の棺は空だった。

 左右に並ぶ列柱が途切れたところで、広間の床がそのまま下り傾斜し、再び水平になった。このすぐ先が地下の間だ。

 

 以前ここにあった、侵入者を阻む障壁のようなものも、今はなくなっている。まるで入ってこいと言わんばかりの様子に、逆に警戒心が高まった。顔を見合わせて頷き合い、フィルを先頭にして、ゆっくりと地下の間に足を踏み入れた。


 正面奥に鎮座するオシリスの神像は、以前見た時から変わりはない。だが、その足元にある魂の井戸には、外から流れ込んでくる死者の霊魂(バー)を次々と飲み込んでいた。


 そして、その手前にあったネフェルの寝台は広間の隅に退けられ、代わりに豪華な玉座が据えられていた。そこにいたのは3人。玉座に腰を下ろした壮年の男、そして右隣に立つのは、かつてメネス王国の宰相であったケレス、そして左隣にはアセトが立っていた。

 玉座に座る男は、ネウト王国のファラオを名乗るアンテフである。フィルたちは彼の顔を知らなかったが、状況からすぐにそう察した。


「ようこそお越しくださいました。このような辛気臭い場所にご招待するのは心苦しい限りですが、どうかお許しくださいましね」

 檀上からフィルたちを見下ろしつつ、アセトが口を開いた。


「王城の玉座にいないと思ったら、こんなところに引き籠っていたのね。…まさか、ずっとここで待っていたの?わたしたちが来なかったら、ずいぶん滑稽なことになっていたわよ」

 優雅に笑みを浮かべているアセトに、フィルは皮肉っぽい口調で言う。


「フィル様、あなたは必ずここに来る。わたくしは確信しておりましたの。事実、当たったではありませんか」

 笑みを崩さず、アセトは答える。不快に感じる様子を微塵も見せない。言い返されたフィルの方が軽く眉を寄せた。


「ふん、…ところで、どうしてメネスの宰相だったケレスがそこにいるの?あなたたちにとっては、敵でしょう?」

「ケレス様は、敵ではありませんわ」


「やっぱりケレスが手引きしていたのね。…それなら、ケレスが主導したヒクソスへの侵攻から、すでにあなたの差し金だったと言う事かしら?」

 アセトは答える代わりにフッと笑みを深めた。


「でも、フィル様やメリシャ王は、なかなかわたくしの思うように踊って下さらないんですもの。おかげで、こんなことをする羽目になってしまいましたわ」

 そう言って、ちらりと魂の井戸に流れ続けている霊魂バーの流れに目を向ける。


 フィルの表情が固まった。

「そういうことか…!」

「フィル、…それって一体…?」


「メネスとヒクソスの戦いで、別動隊だけじゃなくて本隊も、あわよくばホルエムの援軍まで全滅させるつもりだったってこと。アイヘブ将軍もまさか自分達が生贄だったなんて、思いもしてなかったでしょうね」

 アセトは、神に近い力を持つフィルたちがヒクソスに付いたことを知っていた。だから、最初から侵攻が成功するなどとは思っていない。徴用兵も含めたメネス軍の本隊と別動隊、そしてホルエムの援軍、すべて合わせれば1万以上のメネス軍、その全てを全滅させる腹だったのだ。


「メネスに虐げられ続けて来たヒクソスですもの。もっと戦ってくれると思っていましたのに、さっさと停戦なさるだなんて。とんだ誤算でしたわ」

 別動隊の全滅まではアセトの目論見通りだった。

 

 しかし、本隊で戦死したのは1千だけ。徴用兵は戦場から帰され、ヒクソスはホルエムたちと停戦してしまった。

 メネス王国に虐げられ続けて来たヒクソスが、しかも自軍が有利な状況だというのに、簡単にメネスと停戦してしまうとは…血みどろの消耗戦に突入することを期待していたアセトは、正直、拍子抜けした。


「でも、そうなってしまったものは仕方ありません。だから、わたくしが『代わり』を用意したのですわ」

 全滅するはずだった1万人の兵士の代わりとなる生贄たちを…。


「なんてことを…!」

 フィルは、ギリッと奥歯を鳴らして怒りの表情を浮かべた。

次回予定「地下で待つ者 2」

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