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傾国狐のまつりごと-食われて始まる建国物語-  作者: つね
 第4章 神話の正体
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見えない未来視 3

「メリシャ…」

「ボクだって自分の身くらい守れる!パエラにもらったアラクネの力でなんとかできるよ!だから、ボクも一緒に行く」

 フィルが口を開く暇も与えず、メリシャはまくしたてた。


(フィル、連れてってもいいんじゃない?)

 唐突に、フィルの頭の中に声が響いた。


(妲己、本気なの?)

(昔、リネアと喧嘩した夜のこと、忘れたわけじゃないでしょ?メリシャもあの時リネアと同じ気持ちじゃないの?)

(うーん、それはわかるけど…)

 それを言われるとフィルも強く否定できない。


(それにしても、珍しく口出ししてくるなんて、どういう風の吹き回し?)

(ちょっとした気まぐれ、と言いたいところだけど…妾もかなり嫌な予感がするの。何かあった時に味方は多い方がいいわ。メリシャだって、もう子供じゃないのよ?)


 メリシャの未来視でも見えず、妲己まで気にしているというのは、只事ではない。一体、オシリス神殿では何が起こるというのか…しかし、そんな状況だからこそ、メリシャを連れて行っていいのだろうか。


 腕組みして黙り込んでしまったフィルに、メリシャは言った。

「どうしてもダメって言うなら、勝手についていくから」


「……はぁぁ…わかったわ」

 むむむ…と唸っていたフィルは、とうとう特大のため息をついて頷いた。

 メリシャはどう説得しても諦めそうにない。勝手について来られるくらいなら一緒にいてくれた方が守りやすい。


「その…話はついたのか?」

 遠慮がちにホルエムが口を開いた。

 いきなり深刻な様子になったフィルたちに、困惑しつつ口を出せずにいた。


「えぇ、どうも神殿に行くと良くないことが起こりそうでね…」

 フィルは軽く肩をすくめた。


「メネスのために、フィルやメリシャ王にそこまでの危険を強いることはできん。偵察は中止して、最初から軍を率いて神殿に乗り込むことにしたらどうだ?」

「ホルエム、心配してくれるのは嬉しいけど、もしアセトが罠を張っていた場合には、無用な犠牲を生むことになるよ」

 やや強い口調で言ったホルエムをじろりと睨み、フィルも言い返す。

 

「しかし…!」

「わたしは神獣だよ。アセトが何を企んでいても、力づくで罠を食い破ることくらいできる。だから、任せておきなさいって」


(フィル様…)

 黙ってふたりのやりとりを見つめつつ、リネアは悩んでいた。フィルが神殿へ行くのを止めるべきか、否か…


 フィルのことを深く理解していればこそ、リネアはフィルの決断に異を唱えることは滅多に無い。それはただの追従ついしょうではなく、フィルの考えに納得できるからだ。


 リネアがフィルに真っ向から反対することがあるとすれば、それは唯一、フィルの身が危険になる時だけだ。

 ティフォンの一件から500年、幸いにもそうした事態が起こることは無かったし、滅多なことで神獣であるフィルや自分の身が危険になることはないとわかってはいる。けれど、先程の未来視のこともあって今回は不安が拭えない。


 もちろん、危険を予見しているなら、リネアは悩むことなく神殿に行かないようフィルを諫めただろう。だが、感じるのは漠然とした不安だけ。

 まずは誰かが行って神殿の様子を確認するべきだという、フィルの考えも十分に理解できるだけに、ただ不安だからというだけでフィルを止めるべきか、リネアは悩む。


 メリシャの未来視で見えないというのは、確かに異常な出来事ではある。断片的に見えた未来では、フィルが怒り、自分が叫んでいる、そんな光景が見えたとメリシャは言ったが、その状況は全くわからない。


 それはフィルの身に危険が及ぶ状況なのだろうか。

 神殿に連れて行かれたメンフィスの市民たちが悲惨な扱いを受けていて、それを目にしたときの光景だと考える方が自然な気がする。もしそんな状況が本当に起こっているのなら、一刻も早く神殿を取り戻し、助け出さなくてはならない。


 …けれど、それを見越して神殿でアセトが罠を仕掛けているのだとしたら…、リネアは膝の上に置いた拳をぎゅっと握り締めた。

次回予定「見えない未来視 4」

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