見えない未来視 1
「メリシャ、お待たせ」
「ううん。ボクたちも今、話を始めたところだよ」
フィルはひとつ頷くと、後ろにいたネフェルを前に押し出した。ネフェルにくっついていたテトは、リネアに引き剥がされている。
「じゃ、話の前に……ホルエム、待ってたんでしょう?」
にやっと笑いながらフィルは言う。ホルエムの視線は、広間に入った時からずっとネフェルに向けられていた。
「ネフェル、元気そうで良かった…ペルバストでの暮らしは、不自由ないか?」
立ち上がってネフェルの側へ行き、ホルエムはやや遠慮がちに声を掛けた。
「うん、良くしてもらってる。テト様も可愛い」
「テト様?」
「バステト神、ペルバストの猫神様」
「…にゃ?」
リネアに餌付けされた焼き菓子を頬張りながら、テトはホルエムに目を向けた。
「おー、お前がホルエムかにゃ。ネフェルから色々聞いてるにゃ」
たたっと駆け寄ったテトは、しげしげとホルエムを眺める。
「うーむ、今ひとつ冴えん男だにゃ」
いきなり失礼なことを宣うと、身を翻してネフェルの腰に抱き着いた。
「ネフェル、こんな男よりフィルに娶ってもらった方がいいんじゃないかにゃ?」
「テト、ホルエムをからかうのはやめて…」
「テト様…そんな…」
フィルは呆れているが、ネフェルがまんざらでもなさそうなのはなぜだろう。
…当のホルエムは、相手が神だけに、どう応じていいのかわからず微妙な表情のまま固まっている。
「テト様、御戯れが過ぎますよ。フィル様がお困りです」
やや低い声にテトが振り向くと、リネアがにこりと笑っていた。
…笑っているのになぜか、ゾッと寒気を感じる。
「も、もちろん冗談にゃ。…ホルエムとやら、ネフェルを嫁にしたいなら、もっと精進するといいにゃ!」
リネアから目を逸らしながら、やや早口にテトは叫んだ。
フィルたちもテーブルに着き、今後の対応についての話し合いとなった。
当面の目標だったメンフィスの奪還は果たしたわけだが、ネウト王国のファラオを名乗るアンテフやアセトといったネウト王国の首脳陣は、カリュブ平原で戦ったネウト軍の中にも、この王城にもいなかった。
メンフィスの民が連れて行かれたというオシリス神殿にいるのか、それとも南部の本拠地テーベに戻ったのか。とにかく、今の状況でネウト王国に勝ったと宣言しても意味はない。
「オシリス神殿を奪還する必要がある」
ホルエムの言葉に、全員が頷いた。だが、問題は具体的にどうやってそれをやるか、ということだ。
「気を付けるにゃ。どうも神殿の方から嫌な気配がするにゃ。まだよく思い出せないけど、テトが閉じ込められた時にもそんな感じだった気がするにゃ」
ネフェルの膝の上に座ったテトが言う。
「メリシャ、ちょっと…」
フィルが、メリシャの袖を引っ張り、耳元に顔を寄せた。
「テトがこう言うってことは、多分アセトが絡んでると思う。オシリス神殿の状況は、わたしが調べてくるよ」
「大丈夫なの?」
「とりあえず、空から様子を見るだけだよ。深入りはしないよ」
「それなら…でも…」
メリシャの表情は不安そうに曇っている。
「…何か、意見があるなら言って欲しい」
メリシャとフィルが、こそこそと話しているのに気付いて、ホルエムが言った。
「ホルエム、神殿の様子を見てくるくらいなら、わたしが請け負ってあげる」
「やってくれると助かる。すまないな」
正直、ホルエム自身もフィルに頼めたらと思っていたのだ。前にネフェルのところに行った時のように、空から神殿の様子を見ることができたら、何かわかるのではないかと。
「ただし!見てくるだけ!民を取り返すのはホルエムの仕事、いい?」
「わかっている。もとよりそのつもりだ」
「なら良し」
うむ、と頷いてフィルは席を立つ。当然のようにリネアもそれを続いた。
「待って!」
ダッとメリシャが立ち上がり、フィルの前を遮った。
「メリシャ?」
「フィル、行く前に『見』るから、ちょっと待って」
「…?」
フィルは、不思議そうに首をかしげた。
次回予定「見えない未来視 2」




